入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

        「夏」 (9)

2015年06月17日 | 牧場その日その時


 ついに降り出したかと思えば雨雲にポッカリと青い空が覗いたり、かと思えばそんな天気でいてかなりの雷鳴がしたりと、はっきりしない空模様だ。小鳥の声が森の方から聞こえてくるところからすれば、まだ大降りにはならないようだし、霧もそれほど低くまでは降りてきていない。
 牛はほとんど雨も雷も意に介すふうを見せず、食べるだけ草を食べると反芻にを始め、そしてしばらくするとまたのっこりと起き上がり草を食べ続けるということの繰り返しで、見ている者をなんとも太平な気分にさせてくれる。
 それでも時にどういう理由かは分からないが、全頭が揃って南と西の柵が交わるコーナーにドタドタと集まる。それから特に何か打ち合わせでもしたというふうもなく、まためいめいが好きな場所に移っていく。いつも集合場所は決まっているらしく、他の場所でこんな奇妙な行動を目にしたことはない。それも今年の牛に限ったことではないから、なんらかの習性と言ってよいのだろうか。


  アップが好きなんだ

 「嫁を連れて」とコメント欄に連絡をくれたYさん、返事が遅れてしまいましたが承知しました。ただしまだ、物品販売の準備ができていないため、重いでしょうが何卒ビールなどの飲み物は、ご自分で充分に用意してください。

 夏めきて リーダー出づる 群れの牛

 TDS君が寄せてくれた近作。牛の群れの中には群れを率いる親分がいるものだが、それが決まった。牧場の仕事を知る、TDS君ならではの佳句だと思います。

 
 ところで最近、自分の配偶者のことを他者に語るとき「カミさん」、中には「オクさん」とさえ言う人がいるが、Yさんの「嫁」ときたのは実に好感が持てる。まあこの字は納得できない女性もいるだろうが、「女房」、「妻」、「家内」をきちんと用いる人が昨今減ってきてはいまいか。それがどうした、と言われると長い話になって困るが。

 入笠牧場からの星空に興味のある方は、5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。また、入笠牧場内の宿泊施設およびキャンプ場の営業に関しましては4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。
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        「夏」 (8)

2015年06月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


  昼になって雨が降ってきた。霧はまだ、高い所にとどまり降りてはこない。
  第1牧区の「雷電さま」にいた問題の牛14番がようやく他の群れに合流し、「御所平」の草地に移っていた。この牛は、入牧の際に大暴れして、牧柵は破る、支柱は倒す、自らもバラ線に倒れ込み傷つくと、まさに凶牛化して普通なら手におえなかったが、幸い牛に対しては異能を発揮するF君が誘導役であったため、ようやくパドックへ押し込むことができた。こういう牛は放牧してもしばらくは警戒心が強く、何頭かの牛を巻き込みなかなか新しい環境に順応しようとしない。様子を見にいけば、3頭だったり4頭だったりで木の回りを走り回り、脱柵しようとさえした。
 今日もその14番がいち早くこちらの接近に気付くと立ち上がり、3頭を連れて柵際に移動し、さらに近付くといまにも走り出そうとする構えを見せた。試みになだめるように声を出すと驚いたことに、13番が向きを変え、こちらに向かって走ってきた。すると14番まであとに従い付いてきて、12番の背後からこちらを見ている。これで何もせず、静かに立ち去れば、牛は少し安心する。そして何度か同じことを繰り返すうちに馴化してくる。ただ以前和牛が、追い上げの際頭を叩かれたことですっかり人を信用しなくなり、牧区替えを拒否して籠城し、手を焼いたこともあった。
 図体は大きくとも大半はまだ生後1年かそこらの牛であり、無理もないといえば無理もないのである。



 今年はクリンソウの開花も早く、そろそろ見納めか。雨の中、カメラを手にした二人ずれが、長谷に行きたいが通行できるかと尋ねてきた。「車両通行止め」とあるように通り抜けできないことを話すと諦めて、テイ沢へクリンソウの花でも撮ろうかと、車を置いて歩いていった。こういう人たちばかりならいいが、この通行止めの案内ではきっと無視する人もいるだろう。そして数キロも行ってから引き返さなければならない。それがペナルティかもしれないが、その旨を記した方が余程よいと思うが、サテ。

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        Ume氏の入笠 「夏」 (8)

2015年06月15日 | 牧場その日その時

                                                 Photo by Ume氏
 今朝は4時ごろからすでに賑やかな鳥の声がした。よく晴れて気温も高かったから、薄暗いうちから活動を始めたのだろう。現在7時半、気温20度C、今日はここもかなり暑くなりそう気がする。
 牛たちはいつもの調子で尻尾をフリフリ夜露に濡れた草を食んでいたが、そのうちホルスタインは強い日の光を避けるように1頭だけを残して、木陰に移動した。和牛はそんなことは気にならないらしく、ホルスの動向など無視して一心不乱に草を食べていた。
 そのうち何かの拍子で和牛も含め全頭がドカドカと南の隅に走っていき、そこからはもう強い日差しが気にならなくなったのか、水場の辺りを中心に群れをつくり、1日体重の12パーセントの牧草を消化すべく活動を始めた。ある時はそれなりの統制に従い、またある時は勝手にというのが、どうやら牛の団体行動であるようだ。

 なぜそういうことをするのか理解に苦しむが、戸台へ下る小黒川林道の、これまで施錠されていた牧場南ゲートの鍵が、突然市によって外された。分からないのは、崩落場所の修復が済まないうちに、つまり通り抜けはできないのにもかかわらず、開けたのである。もちろん戸台まで1軒の人家とてない。これでは通れると思って行っても、結局は引き返すしかない。なぜ、誰のためにこんな中途半端なことをするのだろう。
  工事関係者以外で、誰よりも一番この林道を利用したいのはオフロードバイカーたちだろう。しかし彼らの所業の悪さの数々が、関係する役所の耳に届いていないはずはないから、彼らに気遣ったとは思えない。静かだった谷がまたまた騒々しくなる。釣師も喜ぶだろうが、これまた入漁券を持たない人たちが大半で、こんなことをしてもそういう人たちをいたずらに増やすだけでしかないだろう。
 この谷は美しい自然に溢れ、小黒川のつくった渓谷が10キロ以上も続いている。しかし地盤が悪いため、絶えず崩落を繰り返し、雨の降った後などとても通る気にはならない危険な道でもある。林道補修用の予算との絡みで、通行実績を上げておかねばならないといった事情でもあるのだろうか。

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        Ume氏の入笠 「夏」 (7)

2015年06月14日 | 牧場その日その時

Photo by Ume氏

 曇り空のせいだろう、鳥の声がいつもよりもよく聞こえる。ただ、今朝のホトトギスはあまり上手に歌えない。きれいな声だが、あの台詞「トウキョウトッキョ・・・」が短縮してしまい、本来のよく知っている鳴き声になっていない。

 こんな山の中で、石坂浩二が朗読するロッド・マッケンの詩「海」を、聞いている。日本語訳は岩谷時子、1969年に確か東芝から出た。アニタ・カーの曲に波の音が効果音として入り、若かったころの石坂の声が流れる・・・。
 切ないまでの懐かしさが、波の音とともに甦ってくる。もう、過ぎた時を懐かしむことなどなかったはずなのに、美しくもなければ、楽しくもなかった20代が、思いもかけなかった色彩に化粧(けはい)され、凝縮され、胸に迫ってくる。感情が、波の音に、曲に翻弄される。
 あのころ、アメリカの気取った若者は、ロッド・マッケンの詩集をブック・バンドで束ね、持ち歩くことが流行ったと聞いた。ベトナム戦争という無謀の中で、多数の若者が死に、それよりもはるかに多くのベトナム人が、むごく殺された時代と重なっていたはずなのに、当時のアメリカは光って見えた。
 反戦が叫ばれ、平和が恋われ、思想よりも激情が学生運動の混乱と暴走に拍車をかけ、やがて呆気なく過ぎ去っていった。懐かしくもなければ、思い出したくもない、空疎で偽で、暗く汚れ、思い出せば今でも羞恥が薄汚れた沁みのように残り、虚妄や倒錯が残響のように聞こえてくる時代であったはずなのにだ。
 赤羽の場末の喫茶店で、営業を終えた暗い店内に流れるこの曲を、初めて聞いた。その後しばらく、海も、波の音も、そして恋も、みんなこの曲の虚構が代わりになって、やるせない時間を慰めてくれた。
 止まれ、いつの間にか鳥の声はしなくなったが、ここから見える尻尾を振りながら草を食む牛の姿が、そのあまり熱心とも思えないのんびりとした動作で、遠い時間や、久しく見たことのない海からようやく、牧場管理人の今に戻してくれた。

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        「夏」 (7)

2015年06月13日 | 牧場その日その時


  囲い罠の中に牛が入ったせいだろうか昼日中、今日は珍しく捕獲用ゲートのすぐそばまで、鹿が1頭姿を見せた。同じ偶蹄類、かつて鹿は自分よりか余程大きい牛でも恐れず、よく一緒に草を食んでいたものだが、そういう光景を目にすることがなくなって久しい。
 牛の入牧頭数の減少とはなんの関係もないはずだが、鹿も此の頃はめっきり少なくなった気がする。その証拠になるかは分からないが、現在JAXAの観測所裏にくくり罠を仕掛けて10日以上が経つも、まだ捕獲に至っていない。
 こういうことはこれまでになかったことだ。考えられることは、近年ここら周辺の大規模な森林伐採で、鹿の群れが森を追われてどこかへと、移動した可能性である。もちろん有害駆除の努力も、ここらの鹿が減った理由のひとつとして当然考えてよいだろうが、やはりあれだけの間伐や皆伐をやれば、鹿ならずとももう少し平和で、穏やかな森へと居場所を変えたくなる気持ちも分かる気がする。

 昨日は入牧の興奮で落ち着かなかった牛たちも、ようやく平生さを取り戻したようだ。広い草地で好き勝手に動き回り、草を食べているいつもの牧場風景がまた始まった。囲い罠の中の牛たちは大きく群れを崩さないが、第1牧区へ上がった牛たちは、あの広い放牧地の中でリーダーが決まらないうちに分裂した。この牧区には森があり、川が流れ、起伏に富んだ草地が続く入笠牧場の中でも特に美しい放牧地だが、しばらくは管理に手子摺るだろう。

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