■15年前の平成7年6月4日は日曜日でした。警察の捜査は、6月3日から行われており、マスコミも捜査関係者や安中市の関係者から得られた情報を掲載し始めましたが、明らかに安中市は情報を小出しにしていることがうかがえます。そのため、日曜日にもこうして記事が出せたのです。
それでは、タゴ51億円横領事件発覚による15年前の6月3日の報道開始初日から一夜明けた同年6月4日の読売新聞と上毛新聞の報道を見てみましょう。
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安中市土地開発公社 公文書偽造し不正借り入れ
元主査を懲戒免職 総額は数億?使途不明
安中市土地開発公社(理事長・小川勝寿市長)の業務を今春まで担当していた市都市計画課の元主査(四三)が、公社の事業用資金を金融機関から借り入れる際に、金銭借入申込書を偽造して予算より多く借り入れ、超過借入分の使途が不明になっていることが同公社の調べで発覚、元主査は先月末で懲戒免職になっていたことが三日、明らかになった。安中署で公文書偽造容疑で元主査から事情を開いている。不正借入総額は数億円に上ると見られる。
同市と同公社などによると、元主査は開発公社の設立当初から約十五年間、同公社の業務を担当。金銭借入申込書に不審点があり、九四年度の決算監査に備え、先月、金融機関の借入残高証明と比較したところ、借入残高が違うことが分かり、元主査も金銭借入申込書の偽造を認めた。
元主査は、金銭借入申込書に金額を書き込んで決裁を受けた後、金額欄の先頭に数字を足していた、と説明しているという。同公社は、住宅や工業団地の用地買収から造成、分譲、公共用地の取得まで手掛けており、今年度の同公社の予算は十七億千万円に上る。
元主査は七〇年六月市役所入り、税務、農政課を経て七九年に都市計画課、八〇年四月設立の公社の業務に携わり、今年四月に市教委社会教育課係長に昇任するまで約十五年間、公社業務を担当した。元主査は同公社採用の複式簿記に精通していた。
同公社は理事長に市長、副理事長に助役、常務理事に収入役が就任。市の債務保証で金融機関から事業資金融資を受けており、業務は都市計画課の担当。
市は小川市長が一日の公社緊急理事会と市議会全員協議会で経過説明したが、「なぜ監査で発見出来なかったのか」「一職員になぜ十五年間も同じ仕事を担当させたのか」など金銭管理のミスを指摘する意見が相次いだ。市は「不正借入額などは警察の調べを待ちたい」としている。
<読売新聞1995年(平成7年)6月4日(日曜日)群馬2面(25)>
公社名義で別口座 安中市職員の不正借り受け
上乗せ分を入金 ズサンな管理に批判
安中市で先月三十一日、元同市都市計画課の土地開発公社担当職員が公文書を偽造したとして懲戒免職処分された事件で、安中署は三日も前日に引き続き同職員から任意で事情を聴いた。これまでの調べに対して、同職員は偽造の事実を認めており、同署は偽造した公文書を使った詐欺などの疑いもあるとみて、関係者から事情を聴く。また、同職員が不正に借り入れた金額が多額とみられるため、株購入などに流用した可能性があるとみて、詳しく調べる方針。
調べによると、この職員は借入金のうち、上乗せ分を入金するため、開発公社名義の正規の口座以外にも、同公社名義の別口座を開設、入金された金を流用していたことが、明らかになった。これは複数の関係者の証言で裏付けられた。
同公社の借入金に関する市側の帳簿で、借り入れ額と返済額が一致していたことから、事件発覚当初から通常の帳簿に乗らない別口座の存在が指摘されており、市幹部も同日、別口座が存在したことを認めた。
同職員は不正借り入れに際して、金銭借入申込書の金額欄の数字を不正に改ざん、数字の間に新たに数字を書き加えるなどの方法で借入金を上乗せ。開発公社が正規に設けた口座以外に、独自に「別の特別会計」などと偽って開発公社名義の別□座を開設、正規借入金と上乗せ分の入金の窓口を分けていたという。
同公社の業務は市が計画する宅地分譲、道路施設建設など公共事業に際した用地取得や販売など。昨年間公社では、磯部、板鼻両地区で住宅団地分譲事業などとして約二・五ヘクタールの用地を取得したほか、完成した分譲地約〇・五ヘクタールの販売を行った。
こうした事業を行う場合、同公社は事業費用を金融機関から借り入れるが、この際、市はこれに関する債務を保証。借り入れた資金の元本、利子について、債務完了までに償還できない場合、償還できない全額、遅延損害金を金融機関に対して保証することになっている。平成六年度は、年間で約六億二千五百万円が借り入れられていた。
別口座の存在が明かになったことについて市側は「独自に金銭の出入りをチェックしており、事件発覚まで、帳簿類に不審な点は見られなかった」としている。しかし、関係者の間では「例え別口座が設けられ、帳簿に計上されなかったとしても、残高証明を取るなど、確認の手だてはあったはず。不正が行われながら、つじつまが合うこと自体が解せない。市側の管理態勢が甘い」と指摘する声が高まっている。
<上毛新聞1995年(平成7年)6月4日(日曜日)社会面(16)>
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■読売新聞の記事は前日の上毛新聞の報道内容とほぼ同じで、この時点では読売新聞も不正借入の総額は、数億円程度と報道していました。
一方、上毛新聞は地元紙だけに、取材内容では他社を一歩リードしていました。上毛新聞の記事によれば、安中警察署では、6月2日の午前に小川市長の告発相談を受け、その日の午後に弁護士に連れられたタゴが出頭してきたので、事情聴取を行い、6月3日にも引き続いてタゴの事情聴取が行われました。
しかし、上毛新聞も、安中市土地開発公社が起用した田邊、菰田両弁護士が強調する「詐欺罪」をそのまま鵜呑みにして、この事件を詐欺事件と捉えていることがわかります。実際には、横領なのですが、被害者は群馬銀行だけであり、安中市には何の被害もないというイメージを安中市民に植え付けようとする公社の弁護士の作戦と、安中市の思惑が一致していることがわかります。
■それでも、タゴの不正行為の手口については、警察の取り調べ担当者らに、相当突っ込んで取材をしている様子がうかがえます。借入金のうち、上乗せ分を入金するため、開発公社名義の正規の口座以外にも、同公社名義の別口座を開設、入金された金を流用していたことが、複数の関係者の証言で裏付けられたとして、初めて「特別口座」の存在を示唆したからです。
上毛新聞は、安中市幹部らにも取材ルートが持ち、安中市側の帳簿では借入額と返済額が一致していたので、事件発覚当初から通常の帳簿に乗らない別口座の存在が指摘されていたことを安中市幹部も認めた、と報じました。
また、タゴが横領金を株取引に費消したことも記事で触れています。
さらに、公社の業務についても触れていて、磯部と板鼻の住宅団地分譲事業のことや、平成6年度の借入額が年間約6.25億円だったことを報じました。
■しかし、この時点ではタゴの犯行総額が51億円以上になるとは、捜査関係者と安中市幹部以外はまだ誰も知りませんでした。当会も犯行額が50億円を超えることを知ったのは、6月5日ごろでした。
ましてや、一般市民は、この時点では数億円規模の詐欺事件で、被害者は群馬銀行だけだと信じ込まされていたのでした。
【ひらく会情報部】