■平成7年6月3日(金)午後に、タゴが穂積弁護士に連れられて安中警察署に出頭してから、警察は連日、タゴをはじめ、安中市土地開発公社職員、安中市役所幹部、群馬銀行安中支店関係者らから事情聴取をしてきましたが、6月6日(月)深夜に裁判所で逮捕状を請求し、タゴの逮捕に踏み切ることになりました。
すでに、タゴ、安中市・公社、群銀の間では、それぞれの弁護士を介して、この事件をタゴの単独犯行に仕立てるシナリオが作られており、タゴが安中市土地開発公社特別会計口座と称する裏口座を群馬銀行安中支店に開設した平成2年4月16日以前に、直接、表口座から横領していたころの犯行を示す資料を、逸早く安中市が廃棄したのも、その一環でした。
そのため、群馬銀行も平成2年4月16日以前の表口座に関係するデータの取り扱いについては警察の求めに応じて提供はしたものの、開示された刑事記録を見る限り、積極的に説明した経緯は見られません。安中警察署で事件の真相解明に尽力する警察官にとっては、慣れない金融関係の用語や、昭和50年代半ばから積み重ねられた膨大な取引の数字の羅列を前に悪戦苦闘を強いられて、結局、裏口座開設以降に的を絞ることを余儀なくされていったのでした。
それでは、平成7年6月7日(火)の朝刊各紙の報道記事を見てみましょう。
**********
★元職員の逮捕状請求 安中市土地公社不正借り入れ 公文書偽造と詐欺容疑★
安中市の元土地開発公社担当職員が公文書を偽造し、金融機関から不正借り入れしていた事件で、安中署は六日深夜、詐欺などの疑いで、この元職員(四三)の逮捕状を地裁高崎支部に請求、きょう七日にも逮捕する方針。
調べによると、元職員は都市計画課に在籍していた当時、土地開発公社の事業費を金融機関から借り入れる際、申込書を改ざん、正規の借り入れ額に上乗せして、差額をだまし取ろうと計画。金融機関に提出した疑い。
元職員の不正借入れ総額は三十七億円に上るとみられるが、約二億円分についての容疑を固めた。
関係者の話を総合すると、元職員は平成二年四月十六日に市内の金融機関で、実際には存在しない「安中市土地開発公社特別会計」名義の口座を開設。理事長印など公印を盗用して金銭借入申込書、金銭貸借契約書など必要書類を偽造、正規の借り入れ額に上乗せし、不正借り入れ分を別口座に入金させていた。引き出しに際しては、再び公印を用いて預金払戻請求書を偽造、金を引き出していた。
「安中市土地開発公社特別会計」名義の口座を五年間で十数回使い、不正に引き出した総額は約三十七億円に上るとみられている。
元職員は昭和四十五年六月に市職員に採用され、税務課、農政課を経て同五十四年十月に建設部都市計画課に異動した。翌五十五年四月に安中市土地開発公社が設立され、以来十五年間、同課に勤務し、公社の業務に携わってきた。今年四月の人事異動で、市教委社会教育係長に昇任していた。
元職員は、市の調べに対して不正借り入れを認めたため、先月三十一日に懲戒免職処分を受けている。(関連記事16面)
★宅地売買で架空登記 安中市土地開発公社分譲地★
★疑惑の元職員関与? 買い戻し、別人に販売★
安中市土地開発公社が分譲した住宅地売買にからみ、実際には宅地を購入していない人の名を使った架空登記が行われていたことが六日、明らかになった。この架空登記に、公文書を偽造したとして懲戒免職処分を受けた元土地開発公社担当職員が関与した疑いがもたれている。土地は同公社が販売した同市原市の芝原住宅団地の一区画で、名前を使われた人は上毛新聞社の取材に対して土地の購入を強く否定。公社のずさんな体質を批判している。
問題の土地は昭和五十六年、同公社が売り出した十三区画の住宅団地の一区画(約百八十五平方メートル)。登記簿上では、同年九月二日にAさん夫婦が購入し、翌三日に所有権移転の登記が行われた。その後、平成四年三月三十日にAさん夫婦から同公社が買い戻し、翌三十一日に松井田町内のBさん夫婦が公社から購入した形になっている。
Aさん夫婦は、昭和五十六年九月二日、同団地の別の区画(百八十一平方メートル)を購入し、同年十月二十三日に所有権を移転し、現在は家を建てて生活している。
登記簿上では、Aさん夫婦は同団地の二区画を同時に購入、まもなく一区画分に家を建て、平成四年に残り一区画を手放したことになる。しかし、Aさんは「二区画も買える余裕はなかったし、買った覚えもない。なぜ、自分たち夫婦の名前が、よその土地の登記簿にあるのか。誰がそんなことをしたのか、わからない」と話す。
二区画への登記は「単純ミスによる誤登記」とする声もあるが、法務局によると「ミスだとすれば、一般的には『錯誤により抹消』だけで済むはず」としている。しかし、同公社はAさん夫婦に売った土地をいったん買い戻しているため、「錯誤ではない」とみられている。
平成五年五月の公社理事会でこの事実関係を質した理事の一人は「この不明朗な登記には、元職員がかかわっていた」と指摘。市幹部の一人も「元職員は当時、事実関係を認めていた」と話している。

<上毛新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
★元主査を事情聴取 安中土地公社不正借り入れ★
★詐欺、公文書偽造容疑で県警 問われる公社責任★
安中市土地開発公社の元主査(四三)が、公社の事業資金を金融機関から借り入れる際、金銭消費貸借契約書を偽造して借り入れ額を水増しし、秘密口座に振り込ませて水増し分を着服していた事件で、県警捜査二課と安中署は六日、詐欺と公文書偽造容疑で同主査に出頭を求め、事情聴取を始めた。同公社理事会では、二年前にも不明朗な土地取引を指摘されており、疑惑を放置してきた同公社の責任が間われるのは必至だ。
調べによると、元主査は九〇年ごろから、公社の事業資金を金融機関から借り入れる際、金銭消費貸借契約僣の金額欄の先頭に数字を足して借り入れ額を水増しし、巨額の融資金をだまし取っていた疑い。市関係者によると、水増し融資の帳簿上の総額は約三十八億に上るとみられている。元主査は容疑を認めているため、すでに懲戒免職処分となった。
不明朗な土地取引と指摘されたのは、安中市原市の芝原住宅団地内の一区画。同公社の九一年度決算で土地の売却益として約六百二十万円が計上されていたことから、市議(五八)が同土地の登記をとった。
登記によると同土地は七一年九月、同公社から同市内の無職男性(六三)に売却され、九二年三月に同公社が買い戻し、翌日碓氷郡内の男性に売却されている。土地取引を不自然に思った同市議が同市内の無職男性に聞いたところ、「その土地を購入したことはない。登記されているとすれば、勝手に名前を使われたのではないか」と説明した。
このため、同市議は九三年五月の同公社理事会で「不明朗な土地取引があるので究明して欲しい」と要請。公社理事長でもある小川勝寿市長は調査を約束した。都市計画課で調査したが、「特に不正とは言えない」と判断し、小川市長に報告した。
しかし、当時の同課幹部は「(元主査は同公社に)長く居過ぎた。大変申し訳ない。いずれこの処理をしていきたい」などと同市議に説明したという。しかし、元主査は翌年度も同じポストに居すわったままだった。
同市議は「元主査の羽振りの良さは有名だった。十年ほど前にも不正がないかを調査するよう当時の建設部長に依頼するなど、何度も真相を明らかにするチャンスはあったはずだ」と厳しく指摘している。
不明朗な土地取引に閲しての小川市長との一問一答は次の通り。
--不明朗な土地取引をどう調査したのか
最初に指摘を受けた時は、チンプンカンプンだった。部下に調査を指示し、調査結果では、特に不正とは言えないとのことだった
--調査結果をどう受け止めたのか
とにかくチンブンカンプンだった。特に不正だという風には思わなかった
--きちんと調査していれば、巨額詐欺も早期に発見出来たのではないか
当時は、(土地取引は)重要な問題だとは思わなかったので念入りな調査は行わなかった
--問題が起きた後も元主査を同じポストに置き続けたのはなぜか
後進が育つまでやってもらいたいという気持ちだった。当時は多胡容疑者の問題は決着したという認識だった
★「返済信じている」群馬銀★
一方、詐欺の被害を受けた群馬銀行ではこの日、社内で対応協議に追われた。同行広報室では「安中市の保証を得て、公社に融資した。公社を信頼しており、返済してもらえると信じている」と話している。
★派手な生活目立つ 元主査★
同市によると、元主査は七〇年六月に同市役所に入庁。税務、農政課を経て、七九年十月から今年三月までの約十六年間、都市計画課に勤務。八〇年四月からは同公社を兼務していたが、今年四月に市教委社会教育課係長に昇任している。元主査(四三)は数年前からドイツ製の高級乗用車やスポーツカーを乗り回し、一着数十万円もするスーツを着こなすなど、派手な生活ぶりが目立っていた。
自宅は市の中心部にあり、妻の親族と同じ敷地の中に別々に二階建ての家を建てており、門は共有になっている。
職場では主に経理を担当し、用地買収や一般事務などもこなすなど仕事熱心だったという。大規模事業に伴う事業費借り入れの起案も自ら行っていたほか、市長が決裁した金銭消費賃借契約書などの書類を金融機関へ持ち込んだりもしていた。
職場の同原らによると、元主査は「仕事の処理能力が高く、一生懸命やっていた」「外見は目立っていたが、性格はおとなしい」など評判がよかったが、一方で、海外旅行に何度も出掛け、近くの住民には「どこにそんなお金があるんだろう」と不審がる人もいた。
ギャンブルや仕手株に手を出していた、と証言する人もおり、着服した金の使途は多岐にわたると見られる。

<読売新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
★甘かったチェック体制 安中市開発公社の不正★
★「上司の信頼」突く 元主査取り調べに衝撃★
安中市土地開発公社(理事長示川勝寿市長)を舞台に、同公社元主査(四三)が事業費借入金を水増しし、上乗せ分を使い込んでいた事件は、元主査が公社側の「チェック体制の甘さ」や「上司の信頼」を巧みに突いたものだった。その総額は三十奴原円に上るものとみられる。信頼しきっていた職員の裏切り行為に幹部らは大きなショックを受けているが、今後公社の管理体制が厳しく問われそうだ。
市の調べによると、元主査は公社が事業資金を銀行から借り入れる際、金銭借り入れ申込書の金額欄の数字を改ざんして水増し、上乗せ分を勝手に「安中土地開発公社」として開設した別口座に振り込ませていた。
金銭借り入れ申込書は元主査が作成、公社側の借り入れ金額を「金OOO円」と記入する際、「金」と「OOO円」の間に二ケタの余白を残して実際の金額を記入、決済を受けて銀行に届ける間にこのスペースに数字を書き加えて水増しをしていた。
元主査は、これを数回繰り返し、特別会計口座に振り込まれた金銭は、公社の理事長印を盗用して預金払戻し請求書を偽造し金銭を引き出していた。
公社側では、監査の際、金融機関からの借り入れ残高証明書を取らず、口座の通帳だけでチェック、借り入れ金額が通帳と合っているかどうかの確認だけで済ませていた。
元主査は職場で、「仕事ができる」との評価を受けており、上司の「信頼」が裏目に出た形となった。
★評判だった派手な生活★
元主査は地元の高校を卒業後、一九七〇年六月に市職員となり、税務課、農政課を経て七八年十月から市建設部都市計画課に移り、土地開発公社職員も併任していた。
元主査は、夫婦で外国製の高級乗用車を乗り回したり、妻が喫茶店を径営するなど、市職員としては考えられない生活ぶりで、近所の人たちは「なんて金回りのいい人なんだろうと思っていた」と話している。

<毎日新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
★安中市元主査不正借り入れ 横領総額約40億円に★
★骨董品や外車に使う 5年間なぜ気付かぬ 関係者も疑問★
★「返済は市民負担・・・」批判の声も★
安中市土地開発公社の元主査(四三)が、公文書を偽造して金融機関から事業費を不正に借り入れていた問題で、県警捜査二部と安中署は六日夜、詐欺と公文書偽造の疑いで逮捕状を用意し、元主査の本格追及を始めたが、不正に引き出して着服した総額は同市の今年度当初予算の四分の一にあたる四十億円近くにも上ることがわかった。金融機関では債務保証先の市に対して返済を求める意向を表明しており、市民の間からは「五年間もなぜ不正を見抜けなかったのか」「市が返済するとなると市民にその負担がくる・・・」と市の「管理責任」に対して批判の声があがっている。
★別口座と公印盗用★
五日夜に聞かれた安中市議会の緊急全員協議会の席上で、小川勝寿市長は、約四十億円といわれる不正引き出し額について、「そのぐらいの額になるのでは」とおおむね認めた。
安中署の調べでは、元主査は平成二年四月十六日に、実際には存在しない「安中市土地開発公社特別会計」の名義で市内の金融機関に口座を開設。
銀行から融資を受ける際、貸借契約証書の金額欄に決済後に数字を書き足す方法で融資額を水増し、水増し分を「特別会計」口座に振り込ませていた。元主査は、同様の手口を数回繰り返し、預金の引き出し時には公社の理事長印を盗用して払戻謂求書を偽造していた。
五月十八日、公社の職員が、金融機関が発行した借入残高証明に、実際の残高をはるかに超える借入金の存在を見つけ、元主査の不正が発覚した。
同公社に融資していた金融機関では、「顧客の希望があれば、一枚の契約鉦書から二つの口座に融資することはよくあるため、不自然には感じなかった。書類に不備はなく、完全に信用していた」と話す。
しかし、予算規模約十七億円(平成七年度)の公社に対する融資で約四十億円もの水増しはあまりにも不自然で「どうしてだれも気付かなかったのか」と市関係者も首をかしげている。
★目に余る浪費★
元主査は、市役所内では「まじめで仕事ができる人」と評判はよかったものの、その生活は近所の人の間でも「市役所の職員の給料であれだけの生活ができるのだろうか」と目に余るほどの″浪費家″ぶりが目立っていた。
元主査は「自分の金銭消費のために勝手にやった」と認めていることから、着服した四十億近い金を妻の経営する喫茶店の運転資金や店内や自宅に数十点の絵画、骨とう品の収集にも使っていたものとみられている。
元主査は義父の土地だった約三百坪の敷地内に、元からある平屋建てに加え住宅二棟を新築。平屋建てには義母が、最も新しい二階建ての棟には独身の義姉が住み、本宅には元主査家族四人が住んでいた。昨年暮れには「敷地内に犬を放し飼いにしている」との理由でフェンスをアルミ製で高さ二メートルに作り直している。犬は体長一・五-一・七メートルの「ゴールデンレトリバー」で、一年前から飼っていたという。
ベンツなどの外車二台を乗り回し、妻も「ブランドしか着ない」と近所で評判になっていた。
また元主査の妻は自宅から三、四百メートル離れた国道18号沿いに喫茶店を経営しているが、コーヒー一杯千円で、客はあまり入っていなかったという。店内には浮世絵などの日本画数点が飾られており、絵画や骨とう品の収集にもかなりの金額をつぎ込んでいたものとみられる。
近所の主婦は「元主査宅には地下室があり、絵画や骨とう品がかなりあったと聞いている。最近、喫茶店の隣に建てた二階建ての建物も同じように絵画や骨とう品の倉庫らしい」と話していた。
★チェック★
市側の説明によると、不正借り入れが発覚したのは、元主査が今年四月の人事異動で市教育委員会に移った後の五月十八日。
「(公社職員が)たまたま借入残高証明を取ったところ、正規の口座の帳簿にない借入金が見つかった」(小川理事長)。
元主査は昭和五十五年四月に安中土地開発公社が設立されて以来、十五年間にわたり同じ業務に携わっていた。市役所内では、通常二、三年サイクルで職員異動が行われており、「元主査の十五年間は極めて異例」(職員)。職員の一部からは、「同じ職場に長くいすぎる」との声も出ていたが、市幹部の「有能で唱務にたけている。後任が育つまで」との判断から、留任し続けたという。
また、市によると、公社の事業費の借り入れは、借入申込書に金額を記入した後、関係各課長の決済を経てから、金融機関に提出していたが、元主査はこうした決済の後に偽造を行っていたためチェックができかった、という。
市役所内の監査は、毎月月末に行われているが、公社では毎年一回、三月の年度末決算にあわせて行われているだけ。年一度の監査でも「別口座は公の帳簿に一切出てこない、公の帳簿の金額は帳じりがあっていた」(市)ため、不正借入は発覚しなかった。
また、元主査が厳重に管理すべき公印を使って金を引き出していたことや「預金残高証明しか取らず、貸出残高証明書とつきあわせなかった」(小川理事長)ことなど、公社のずさんな金銭管理に対して、市民からは市側の管理責任を問う声が上がっている。

<産経新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
**********
■タゴの逮捕前夜とあって、各紙とも警察から取材でかなり情報を仕入れていることがわかります。犯行総額はこの時点でついに37~40億円までに膨れ上がりました。
タゴの不正借入については、表面的な借入手続き上の手口は、ここに紹介されたとおりですが、なぜこのような巨額な不正が発覚しなかったのかについて、市民の疑問に答えている記事はありません。
平成2年4月に、経理に詳しいという触れ込みで高橋弘安次長がタゴの上司として異動してきたことから、タゴは、通帳を調べられてもバレないように、かつて板鼻の古城団地の造成で群馬県企業局の指導で特別会計口座というのを作った経験をヒントに、裏金専用の特別会計口座を群銀安中支店に開設したことになっています。
しかし、経理に詳しいはずの高橋弘安次長は、なぜか一度も自分が安中市土地開発公社に異動した平成2年4月以前の表口座の通帳を見なかったのです。表口座の通帳を見れば、タゴがそれまでに水増し借入をしていた様子が一目瞭然だったはずです。警察もこの点に着目して、少なくとも8月ごろまでは高橋次長を厳しく追及したようです。ところが、ある時点から、突然、高橋次長は余裕ある対応をするようになったのです。
■タゴは公社の設立準備のため、昭和54年10月に都市計画課に異動し、翌年の昭和55年4月に安中市土地開発公社が設立されました。タゴは市内の蚕糸高校を卒業後、昭和45年6月に安中市役所に入ったあと、税務課と農政課を経てから都市計画課に移りましたが、税務課と農政課で、土地の課税台帳や農地転用などの手続のやりかたを習得し、嘱託登記を悪用した土地ころがしのテクニックも会得したものと考えられます。
こうしたテクニックは、タゴが自分で会得したというより、20年間続いた湯浅市長体制で緊張感の無くなった市役所の環境の中で、歴代の市の幹部や政治家、それに開発業者などから伝えられ、醸成されたもので、行政の二重基準(ダブルスタンダード)というべきものです。つまり、一般市民には法令に定めた行政ルールを適用し、一部の関係者だけには特別ルールを適用して便宜を図ることです。タゴ事件では、この手口が最大限活用されたのでした。
■タゴが安中市土地開発公社に在籍した15年間に安中市が行った全ての公共事業の用地取得にタゴは関与していました。その過程で、前記のテクニックが駆使されたのでした。
6月7日の新聞各紙の記事で取り上げている「宅地売買で架空登記」もそのひとつです。これは原市の芝原団地の分譲地一区画を昭和56年9月2日に購入したAさんの名義で、なんとタゴが隣接の分譲地一区画を横領金で購入したのでした。登記簿上はAさんが二区画同時に購入したのですから、土地課税台帳上、Aさんには二区画分の固定資産税と土地計画税の課税通知が来るはずで、すぐにAさんが気付いてバレるはずです。ところが、タゴは土地課税台帳を税務課の職員に改ざんさせて、公社所有にしていたため、ずっとバレませんでした。
しかし、隣接地が空き地になったままなのを不思議におもったAさんが、公社の理事でもある市議に相談したことから、この異常登記が発覚したのです。公社理事会でこの問題を提起した市議から追及されたタゴが、苦し紛れに「すぐに是正する」としながら、実際には、今度は松井田の住民の名義を勝手に使って再度架空売買による架空登記を行っていたのでした。
こうしたデタラメな架空登記にもかかわらず、タゴはそのまま公社に配置され続けたのでした。それを口利きしたのが、小川市長であり、当時市議で公社理事でもあった岡田義弘現市長兼公社理事長だったのです。
当会は、この芝原団地の架空登記問題について、課税台帳の信ぴょう性を問うために裁判を起こしましたが、結局、裁判所は、当初から土地は公社のもので、課税台帳の記載は錯誤だったとして、当会を敗訴にしました。これで、安中市の税務行政の信頼性がゼロであることを痛感させられたのです。また、安中市では、嘱託登記を悪用した土地登記が日常茶飯事で行われてきたる実態が判明したのでした。
■6月7日の報道では、タゴの羽振りの良い生活について、各紙が報じました。それらを列挙すると、①数年前からドイツ製の高級乗用車やスポーツカーを乗り回し、②1着数十万円もするスーツを着こし、③妻も「ブランドしか着ない」と近所で評判になり、④海外旅行に何度も出かけ、⑤ギャンブルや仕手株に手を出していた、ことがわかります。
タゴが、ベンツなどの外車二台を乗り回し、ブランドしか着ない妻のことも、家族ぐるみの付き合いをしていた高橋次長は、よく知っていたはずです。
またタゴの妻が、国道18号沿いに喫茶店「珈琲ぶれいく」を経営していること、タゴの自宅には地下室があり絵画や骨とう品が置いてあったこと、喫茶店の裏に建てた二階建ての建物も骨董品があったということも、当然高橋次長は知っているはずです。また、ベンツでゴルフ場に送り迎えしてもらっていた小川市長も、タゴの羽振りのよさは知っていたはずです。
■にもかかわらず、こうした疑問はなぜかその後もずっと放置され続けたのでした。当時は疑問だったこうした不透明な出来事も、その後の経緯を経たうえで、今事件を振り返ってみると、数多の異常事態の理由(わけ)が、よくわかります。
【ひらく会情報部】
すでに、タゴ、安中市・公社、群銀の間では、それぞれの弁護士を介して、この事件をタゴの単独犯行に仕立てるシナリオが作られており、タゴが安中市土地開発公社特別会計口座と称する裏口座を群馬銀行安中支店に開設した平成2年4月16日以前に、直接、表口座から横領していたころの犯行を示す資料を、逸早く安中市が廃棄したのも、その一環でした。
そのため、群馬銀行も平成2年4月16日以前の表口座に関係するデータの取り扱いについては警察の求めに応じて提供はしたものの、開示された刑事記録を見る限り、積極的に説明した経緯は見られません。安中警察署で事件の真相解明に尽力する警察官にとっては、慣れない金融関係の用語や、昭和50年代半ばから積み重ねられた膨大な取引の数字の羅列を前に悪戦苦闘を強いられて、結局、裏口座開設以降に的を絞ることを余儀なくされていったのでした。
それでは、平成7年6月7日(火)の朝刊各紙の報道記事を見てみましょう。
**********
★元職員の逮捕状請求 安中市土地公社不正借り入れ 公文書偽造と詐欺容疑★
安中市の元土地開発公社担当職員が公文書を偽造し、金融機関から不正借り入れしていた事件で、安中署は六日深夜、詐欺などの疑いで、この元職員(四三)の逮捕状を地裁高崎支部に請求、きょう七日にも逮捕する方針。
調べによると、元職員は都市計画課に在籍していた当時、土地開発公社の事業費を金融機関から借り入れる際、申込書を改ざん、正規の借り入れ額に上乗せして、差額をだまし取ろうと計画。金融機関に提出した疑い。
元職員の不正借入れ総額は三十七億円に上るとみられるが、約二億円分についての容疑を固めた。
関係者の話を総合すると、元職員は平成二年四月十六日に市内の金融機関で、実際には存在しない「安中市土地開発公社特別会計」名義の口座を開設。理事長印など公印を盗用して金銭借入申込書、金銭貸借契約書など必要書類を偽造、正規の借り入れ額に上乗せし、不正借り入れ分を別口座に入金させていた。引き出しに際しては、再び公印を用いて預金払戻請求書を偽造、金を引き出していた。
「安中市土地開発公社特別会計」名義の口座を五年間で十数回使い、不正に引き出した総額は約三十七億円に上るとみられている。
元職員は昭和四十五年六月に市職員に採用され、税務課、農政課を経て同五十四年十月に建設部都市計画課に異動した。翌五十五年四月に安中市土地開発公社が設立され、以来十五年間、同課に勤務し、公社の業務に携わってきた。今年四月の人事異動で、市教委社会教育係長に昇任していた。
元職員は、市の調べに対して不正借り入れを認めたため、先月三十一日に懲戒免職処分を受けている。(関連記事16面)
★宅地売買で架空登記 安中市土地開発公社分譲地★
★疑惑の元職員関与? 買い戻し、別人に販売★
安中市土地開発公社が分譲した住宅地売買にからみ、実際には宅地を購入していない人の名を使った架空登記が行われていたことが六日、明らかになった。この架空登記に、公文書を偽造したとして懲戒免職処分を受けた元土地開発公社担当職員が関与した疑いがもたれている。土地は同公社が販売した同市原市の芝原住宅団地の一区画で、名前を使われた人は上毛新聞社の取材に対して土地の購入を強く否定。公社のずさんな体質を批判している。
問題の土地は昭和五十六年、同公社が売り出した十三区画の住宅団地の一区画(約百八十五平方メートル)。登記簿上では、同年九月二日にAさん夫婦が購入し、翌三日に所有権移転の登記が行われた。その後、平成四年三月三十日にAさん夫婦から同公社が買い戻し、翌三十一日に松井田町内のBさん夫婦が公社から購入した形になっている。
Aさん夫婦は、昭和五十六年九月二日、同団地の別の区画(百八十一平方メートル)を購入し、同年十月二十三日に所有権を移転し、現在は家を建てて生活している。
登記簿上では、Aさん夫婦は同団地の二区画を同時に購入、まもなく一区画分に家を建て、平成四年に残り一区画を手放したことになる。しかし、Aさんは「二区画も買える余裕はなかったし、買った覚えもない。なぜ、自分たち夫婦の名前が、よその土地の登記簿にあるのか。誰がそんなことをしたのか、わからない」と話す。
二区画への登記は「単純ミスによる誤登記」とする声もあるが、法務局によると「ミスだとすれば、一般的には『錯誤により抹消』だけで済むはず」としている。しかし、同公社はAさん夫婦に売った土地をいったん買い戻しているため、「錯誤ではない」とみられている。
平成五年五月の公社理事会でこの事実関係を質した理事の一人は「この不明朗な登記には、元職員がかかわっていた」と指摘。市幹部の一人も「元職員は当時、事実関係を認めていた」と話している。

<上毛新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
★元主査を事情聴取 安中土地公社不正借り入れ★
★詐欺、公文書偽造容疑で県警 問われる公社責任★
安中市土地開発公社の元主査(四三)が、公社の事業資金を金融機関から借り入れる際、金銭消費貸借契約書を偽造して借り入れ額を水増しし、秘密口座に振り込ませて水増し分を着服していた事件で、県警捜査二課と安中署は六日、詐欺と公文書偽造容疑で同主査に出頭を求め、事情聴取を始めた。同公社理事会では、二年前にも不明朗な土地取引を指摘されており、疑惑を放置してきた同公社の責任が間われるのは必至だ。
調べによると、元主査は九〇年ごろから、公社の事業資金を金融機関から借り入れる際、金銭消費貸借契約僣の金額欄の先頭に数字を足して借り入れ額を水増しし、巨額の融資金をだまし取っていた疑い。市関係者によると、水増し融資の帳簿上の総額は約三十八億に上るとみられている。元主査は容疑を認めているため、すでに懲戒免職処分となった。
不明朗な土地取引と指摘されたのは、安中市原市の芝原住宅団地内の一区画。同公社の九一年度決算で土地の売却益として約六百二十万円が計上されていたことから、市議(五八)が同土地の登記をとった。
登記によると同土地は七一年九月、同公社から同市内の無職男性(六三)に売却され、九二年三月に同公社が買い戻し、翌日碓氷郡内の男性に売却されている。土地取引を不自然に思った同市議が同市内の無職男性に聞いたところ、「その土地を購入したことはない。登記されているとすれば、勝手に名前を使われたのではないか」と説明した。
このため、同市議は九三年五月の同公社理事会で「不明朗な土地取引があるので究明して欲しい」と要請。公社理事長でもある小川勝寿市長は調査を約束した。都市計画課で調査したが、「特に不正とは言えない」と判断し、小川市長に報告した。
しかし、当時の同課幹部は「(元主査は同公社に)長く居過ぎた。大変申し訳ない。いずれこの処理をしていきたい」などと同市議に説明したという。しかし、元主査は翌年度も同じポストに居すわったままだった。
同市議は「元主査の羽振りの良さは有名だった。十年ほど前にも不正がないかを調査するよう当時の建設部長に依頼するなど、何度も真相を明らかにするチャンスはあったはずだ」と厳しく指摘している。
不明朗な土地取引に閲しての小川市長との一問一答は次の通り。
--不明朗な土地取引をどう調査したのか
最初に指摘を受けた時は、チンプンカンプンだった。部下に調査を指示し、調査結果では、特に不正とは言えないとのことだった
--調査結果をどう受け止めたのか
とにかくチンブンカンプンだった。特に不正だという風には思わなかった
--きちんと調査していれば、巨額詐欺も早期に発見出来たのではないか
当時は、(土地取引は)重要な問題だとは思わなかったので念入りな調査は行わなかった
--問題が起きた後も元主査を同じポストに置き続けたのはなぜか
後進が育つまでやってもらいたいという気持ちだった。当時は多胡容疑者の問題は決着したという認識だった
★「返済信じている」群馬銀★
一方、詐欺の被害を受けた群馬銀行ではこの日、社内で対応協議に追われた。同行広報室では「安中市の保証を得て、公社に融資した。公社を信頼しており、返済してもらえると信じている」と話している。
★派手な生活目立つ 元主査★
同市によると、元主査は七〇年六月に同市役所に入庁。税務、農政課を経て、七九年十月から今年三月までの約十六年間、都市計画課に勤務。八〇年四月からは同公社を兼務していたが、今年四月に市教委社会教育課係長に昇任している。元主査(四三)は数年前からドイツ製の高級乗用車やスポーツカーを乗り回し、一着数十万円もするスーツを着こなすなど、派手な生活ぶりが目立っていた。
自宅は市の中心部にあり、妻の親族と同じ敷地の中に別々に二階建ての家を建てており、門は共有になっている。
職場では主に経理を担当し、用地買収や一般事務などもこなすなど仕事熱心だったという。大規模事業に伴う事業費借り入れの起案も自ら行っていたほか、市長が決裁した金銭消費賃借契約書などの書類を金融機関へ持ち込んだりもしていた。
職場の同原らによると、元主査は「仕事の処理能力が高く、一生懸命やっていた」「外見は目立っていたが、性格はおとなしい」など評判がよかったが、一方で、海外旅行に何度も出掛け、近くの住民には「どこにそんなお金があるんだろう」と不審がる人もいた。
ギャンブルや仕手株に手を出していた、と証言する人もおり、着服した金の使途は多岐にわたると見られる。

<読売新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
★甘かったチェック体制 安中市開発公社の不正★
★「上司の信頼」突く 元主査取り調べに衝撃★
安中市土地開発公社(理事長示川勝寿市長)を舞台に、同公社元主査(四三)が事業費借入金を水増しし、上乗せ分を使い込んでいた事件は、元主査が公社側の「チェック体制の甘さ」や「上司の信頼」を巧みに突いたものだった。その総額は三十奴原円に上るものとみられる。信頼しきっていた職員の裏切り行為に幹部らは大きなショックを受けているが、今後公社の管理体制が厳しく問われそうだ。
市の調べによると、元主査は公社が事業資金を銀行から借り入れる際、金銭借り入れ申込書の金額欄の数字を改ざんして水増し、上乗せ分を勝手に「安中土地開発公社」として開設した別口座に振り込ませていた。
金銭借り入れ申込書は元主査が作成、公社側の借り入れ金額を「金OOO円」と記入する際、「金」と「OOO円」の間に二ケタの余白を残して実際の金額を記入、決済を受けて銀行に届ける間にこのスペースに数字を書き加えて水増しをしていた。
元主査は、これを数回繰り返し、特別会計口座に振り込まれた金銭は、公社の理事長印を盗用して預金払戻し請求書を偽造し金銭を引き出していた。
公社側では、監査の際、金融機関からの借り入れ残高証明書を取らず、口座の通帳だけでチェック、借り入れ金額が通帳と合っているかどうかの確認だけで済ませていた。
元主査は職場で、「仕事ができる」との評価を受けており、上司の「信頼」が裏目に出た形となった。
★評判だった派手な生活★
元主査は地元の高校を卒業後、一九七〇年六月に市職員となり、税務課、農政課を経て七八年十月から市建設部都市計画課に移り、土地開発公社職員も併任していた。
元主査は、夫婦で外国製の高級乗用車を乗り回したり、妻が喫茶店を径営するなど、市職員としては考えられない生活ぶりで、近所の人たちは「なんて金回りのいい人なんだろうと思っていた」と話している。

<毎日新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
★安中市元主査不正借り入れ 横領総額約40億円に★
★骨董品や外車に使う 5年間なぜ気付かぬ 関係者も疑問★
★「返済は市民負担・・・」批判の声も★
安中市土地開発公社の元主査(四三)が、公文書を偽造して金融機関から事業費を不正に借り入れていた問題で、県警捜査二部と安中署は六日夜、詐欺と公文書偽造の疑いで逮捕状を用意し、元主査の本格追及を始めたが、不正に引き出して着服した総額は同市の今年度当初予算の四分の一にあたる四十億円近くにも上ることがわかった。金融機関では債務保証先の市に対して返済を求める意向を表明しており、市民の間からは「五年間もなぜ不正を見抜けなかったのか」「市が返済するとなると市民にその負担がくる・・・」と市の「管理責任」に対して批判の声があがっている。
★別口座と公印盗用★
五日夜に聞かれた安中市議会の緊急全員協議会の席上で、小川勝寿市長は、約四十億円といわれる不正引き出し額について、「そのぐらいの額になるのでは」とおおむね認めた。
安中署の調べでは、元主査は平成二年四月十六日に、実際には存在しない「安中市土地開発公社特別会計」の名義で市内の金融機関に口座を開設。
銀行から融資を受ける際、貸借契約証書の金額欄に決済後に数字を書き足す方法で融資額を水増し、水増し分を「特別会計」口座に振り込ませていた。元主査は、同様の手口を数回繰り返し、預金の引き出し時には公社の理事長印を盗用して払戻謂求書を偽造していた。
五月十八日、公社の職員が、金融機関が発行した借入残高証明に、実際の残高をはるかに超える借入金の存在を見つけ、元主査の不正が発覚した。
同公社に融資していた金融機関では、「顧客の希望があれば、一枚の契約鉦書から二つの口座に融資することはよくあるため、不自然には感じなかった。書類に不備はなく、完全に信用していた」と話す。
しかし、予算規模約十七億円(平成七年度)の公社に対する融資で約四十億円もの水増しはあまりにも不自然で「どうしてだれも気付かなかったのか」と市関係者も首をかしげている。
★目に余る浪費★
元主査は、市役所内では「まじめで仕事ができる人」と評判はよかったものの、その生活は近所の人の間でも「市役所の職員の給料であれだけの生活ができるのだろうか」と目に余るほどの″浪費家″ぶりが目立っていた。
元主査は「自分の金銭消費のために勝手にやった」と認めていることから、着服した四十億近い金を妻の経営する喫茶店の運転資金や店内や自宅に数十点の絵画、骨とう品の収集にも使っていたものとみられている。
元主査は義父の土地だった約三百坪の敷地内に、元からある平屋建てに加え住宅二棟を新築。平屋建てには義母が、最も新しい二階建ての棟には独身の義姉が住み、本宅には元主査家族四人が住んでいた。昨年暮れには「敷地内に犬を放し飼いにしている」との理由でフェンスをアルミ製で高さ二メートルに作り直している。犬は体長一・五-一・七メートルの「ゴールデンレトリバー」で、一年前から飼っていたという。
ベンツなどの外車二台を乗り回し、妻も「ブランドしか着ない」と近所で評判になっていた。
また元主査の妻は自宅から三、四百メートル離れた国道18号沿いに喫茶店を経営しているが、コーヒー一杯千円で、客はあまり入っていなかったという。店内には浮世絵などの日本画数点が飾られており、絵画や骨とう品の収集にもかなりの金額をつぎ込んでいたものとみられる。
近所の主婦は「元主査宅には地下室があり、絵画や骨とう品がかなりあったと聞いている。最近、喫茶店の隣に建てた二階建ての建物も同じように絵画や骨とう品の倉庫らしい」と話していた。
★チェック★
市側の説明によると、不正借り入れが発覚したのは、元主査が今年四月の人事異動で市教育委員会に移った後の五月十八日。
「(公社職員が)たまたま借入残高証明を取ったところ、正規の口座の帳簿にない借入金が見つかった」(小川理事長)。
元主査は昭和五十五年四月に安中土地開発公社が設立されて以来、十五年間にわたり同じ業務に携わっていた。市役所内では、通常二、三年サイクルで職員異動が行われており、「元主査の十五年間は極めて異例」(職員)。職員の一部からは、「同じ職場に長くいすぎる」との声も出ていたが、市幹部の「有能で唱務にたけている。後任が育つまで」との判断から、留任し続けたという。
また、市によると、公社の事業費の借り入れは、借入申込書に金額を記入した後、関係各課長の決済を経てから、金融機関に提出していたが、元主査はこうした決済の後に偽造を行っていたためチェックができかった、という。
市役所内の監査は、毎月月末に行われているが、公社では毎年一回、三月の年度末決算にあわせて行われているだけ。年一度の監査でも「別口座は公の帳簿に一切出てこない、公の帳簿の金額は帳じりがあっていた」(市)ため、不正借入は発覚しなかった。
また、元主査が厳重に管理すべき公印を使って金を引き出していたことや「預金残高証明しか取らず、貸出残高証明書とつきあわせなかった」(小川理事長)ことなど、公社のずさんな金銭管理に対して、市民からは市側の管理責任を問う声が上がっている。

<産経新聞1995年(平成7年)6月7日(水曜日)>
**********
■タゴの逮捕前夜とあって、各紙とも警察から取材でかなり情報を仕入れていることがわかります。犯行総額はこの時点でついに37~40億円までに膨れ上がりました。
タゴの不正借入については、表面的な借入手続き上の手口は、ここに紹介されたとおりですが、なぜこのような巨額な不正が発覚しなかったのかについて、市民の疑問に答えている記事はありません。
平成2年4月に、経理に詳しいという触れ込みで高橋弘安次長がタゴの上司として異動してきたことから、タゴは、通帳を調べられてもバレないように、かつて板鼻の古城団地の造成で群馬県企業局の指導で特別会計口座というのを作った経験をヒントに、裏金専用の特別会計口座を群銀安中支店に開設したことになっています。
しかし、経理に詳しいはずの高橋弘安次長は、なぜか一度も自分が安中市土地開発公社に異動した平成2年4月以前の表口座の通帳を見なかったのです。表口座の通帳を見れば、タゴがそれまでに水増し借入をしていた様子が一目瞭然だったはずです。警察もこの点に着目して、少なくとも8月ごろまでは高橋次長を厳しく追及したようです。ところが、ある時点から、突然、高橋次長は余裕ある対応をするようになったのです。
■タゴは公社の設立準備のため、昭和54年10月に都市計画課に異動し、翌年の昭和55年4月に安中市土地開発公社が設立されました。タゴは市内の蚕糸高校を卒業後、昭和45年6月に安中市役所に入ったあと、税務課と農政課を経てから都市計画課に移りましたが、税務課と農政課で、土地の課税台帳や農地転用などの手続のやりかたを習得し、嘱託登記を悪用した土地ころがしのテクニックも会得したものと考えられます。
こうしたテクニックは、タゴが自分で会得したというより、20年間続いた湯浅市長体制で緊張感の無くなった市役所の環境の中で、歴代の市の幹部や政治家、それに開発業者などから伝えられ、醸成されたもので、行政の二重基準(ダブルスタンダード)というべきものです。つまり、一般市民には法令に定めた行政ルールを適用し、一部の関係者だけには特別ルールを適用して便宜を図ることです。タゴ事件では、この手口が最大限活用されたのでした。
■タゴが安中市土地開発公社に在籍した15年間に安中市が行った全ての公共事業の用地取得にタゴは関与していました。その過程で、前記のテクニックが駆使されたのでした。
6月7日の新聞各紙の記事で取り上げている「宅地売買で架空登記」もそのひとつです。これは原市の芝原団地の分譲地一区画を昭和56年9月2日に購入したAさんの名義で、なんとタゴが隣接の分譲地一区画を横領金で購入したのでした。登記簿上はAさんが二区画同時に購入したのですから、土地課税台帳上、Aさんには二区画分の固定資産税と土地計画税の課税通知が来るはずで、すぐにAさんが気付いてバレるはずです。ところが、タゴは土地課税台帳を税務課の職員に改ざんさせて、公社所有にしていたため、ずっとバレませんでした。
しかし、隣接地が空き地になったままなのを不思議におもったAさんが、公社の理事でもある市議に相談したことから、この異常登記が発覚したのです。公社理事会でこの問題を提起した市議から追及されたタゴが、苦し紛れに「すぐに是正する」としながら、実際には、今度は松井田の住民の名義を勝手に使って再度架空売買による架空登記を行っていたのでした。
こうしたデタラメな架空登記にもかかわらず、タゴはそのまま公社に配置され続けたのでした。それを口利きしたのが、小川市長であり、当時市議で公社理事でもあった岡田義弘現市長兼公社理事長だったのです。
当会は、この芝原団地の架空登記問題について、課税台帳の信ぴょう性を問うために裁判を起こしましたが、結局、裁判所は、当初から土地は公社のもので、課税台帳の記載は錯誤だったとして、当会を敗訴にしました。これで、安中市の税務行政の信頼性がゼロであることを痛感させられたのです。また、安中市では、嘱託登記を悪用した土地登記が日常茶飯事で行われてきたる実態が判明したのでした。
■6月7日の報道では、タゴの羽振りの良い生活について、各紙が報じました。それらを列挙すると、①数年前からドイツ製の高級乗用車やスポーツカーを乗り回し、②1着数十万円もするスーツを着こし、③妻も「ブランドしか着ない」と近所で評判になり、④海外旅行に何度も出かけ、⑤ギャンブルや仕手株に手を出していた、ことがわかります。
タゴが、ベンツなどの外車二台を乗り回し、ブランドしか着ない妻のことも、家族ぐるみの付き合いをしていた高橋次長は、よく知っていたはずです。
またタゴの妻が、国道18号沿いに喫茶店「珈琲ぶれいく」を経営していること、タゴの自宅には地下室があり絵画や骨とう品が置いてあったこと、喫茶店の裏に建てた二階建ての建物も骨董品があったということも、当然高橋次長は知っているはずです。また、ベンツでゴルフ場に送り迎えしてもらっていた小川市長も、タゴの羽振りのよさは知っていたはずです。
■にもかかわらず、こうした疑問はなぜかその後もずっと放置され続けたのでした。当時は疑問だったこうした不透明な出来事も、その後の経緯を経たうえで、今事件を振り返ってみると、数多の異常事態の理由(わけ)が、よくわかります。
【ひらく会情報部】