■5月15日に利根川下流の埼玉県庄和浄水場で初めて水道水からホルムアルデヒドが検出されて以来、1カ月近くに亘り首都圏民の安全な暮らしへの脅威が取りざたされてきましたが、案の定というか、「原因物質は法規制の対象外で法的責任は問えない」という理屈で幕引きがなされました。
**********上毛新聞2012年6月8日1面
ホルムアルデヒド検出問題 業者の排水汚染源 群馬・埼玉両県原因を特定 法的責任問えず
本件を含む関東の浄水場で有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題で、群馬、埼玉両県と高崎市は6月7日、埼玉県本庄市の化学品メーカー「DOWAハイテック」から廃液処理を請け負った高崎市の産業処理業者「高崎金属工業」の排水が汚染源だった可能性が高いとの最終調査結果を公表した。埼玉県は同日、DOWA社に対し、再発防止を文書で行政指導。高崎市も高崎金属工業に行政指導を検討している。
★高崎市、行政指導を検討
両県によると、廃液に原因物質ヘキサメチレンテトラミン(HMT)が含まれていることや、浄水処理によってホルムアルデヒドを生成することは、DOWA社から高崎金属工業へ伝えられていなかった。埼玉県が実験した結果、高崎金属工業の施設ではHMTは約4割しか処理できないことを確認した。
高崎金属工業はHMT10.8トンを含む廃液65トンを5月10~19日に処理し、HMT6トンを含んだ排水を烏川へ放流。下流の浄水場では5月14~20日にホルムアルデヒドが検出された。
両県と高崎市は①HMTの河川放流量と、国が推計した河川中のHMT量が近い②廃水の放流時期とホルムアルデヒドが検出された時期がほぼ一致③ほかの事業者からの流出はないことを確認済みーなどから、汚染源であることはほぼ間違いないと結論付けた。
一方で、HMTはそれ自体に有害性はなく、廃棄物処理法や水質汚濁防止法の規制外であることから、DOWA社が情報提供しなかったことに法的な責任を問えないと判断。高崎金属工業についても、委託された中和処理を行っており、法令違反はないとした。
DOWA社は「これまでも訂正な手続をしていたが、行政指導を受け、廃棄物の処理について総点検して管理を一層強化したい」とコメントした。
高崎金属工業の赤穂好男社長は「結果的に多くの方に迷惑が及んでしまった。今後も最善の注意をしながら対応したい」と話した。
★物質の法規制必要
本件を含む1都3県の浄水場から有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題は、「飲み水の安全」を脅かしかねない原因物質の多くが規制されていない課題を浮き彫りにした。
今回の原因物質以外に、浄水場の塩素処理でホルムアルデヒドを生成する物質は数100種に上るとされる。いずれもそれ自体に有害性はなく、排出規制はない。
36万世帯が断水するなど汚染は市民生活の混乱を招いた。危機感を募らせた関東地方知事は、こうした汚染源につながる物質の法規制を国に要請。環境省は専門家らによる検討会を設け、規制化を探ることにしている。
群馬県も独自の規制を検討するほか、こうした物質を扱う事業所や産廃業者に廃棄物処理の適正化を指導。水道水の検査強化も継続して安全を確認していく。
**********東京新聞6月8日群馬版
高崎市 産廃業者の指導検討 ホルムアルデヒド問題 社会的影響を考慮
利根川水系から取水する首都圏の浄水場で有害物質「ホルムアルデヒド」が大量に検出された問題。群馬、埼玉両県などは7日に発表した最終調査結果で、原因物質の流出元が産業廃棄物処理業の高崎金属工業(高崎市)と推定できるとした上で、「違法性は認められない」との判断を示した。ただ、高崎市は問題の社会的な影響を考慮し、廃棄物処理法に基づき、同工業に文書による行政指導を検討している。(菅原洋)
群馬県と市、埼玉県によると、化学製品業のDOWAハイテック(埼玉県本庄市)が同工業に処理を委託した廃液中の「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)」は推定約10.8トンで、このうち流出量は同約6トン。 流出量や有害物質の検出時期などを考慮すると、同工業から出た廃液が有害物質の大量検出につながった可能性が高いと最終的に判断した。
一方で群馬県などは、DOWAが同工業に対し、廃液にHMTを含む事実を関係書類上も口頭でも伝えていなかったと認定。同工業はその事実を知らず、書類の成分情報からも事実を推測できずに廃液を処理したとして、同法違反には当たらないとした。群馬県と高崎市は7日、5月20日から続けて来た河川の定点監視を終了した。
同工業の赤穂好男社長は本紙に「廃液の経緯は分からなかったとはいえ、社会にご迷惑を掛けた。これからは廃液を一層精査するように努力したい」とのコメントを出した。
**********朝日新聞デジタル埼玉版2012年6月8日0時3分
ホルムアルデヒド汚染「法的責任問えない」 埼玉県結論
利根川水系の浄水場で国の基準値を上回る濃度のホルムアルデヒドが検出された問題で、埼玉県は7日、原因物質を排出した企業に法的な責任は問えないとする最終報告をまとめた。
原因については、化学メーカー、DOWAハイテック(埼玉県本庄市)が廃液の処理を群馬県高崎市の産廃業者に委託した際、原因物質ヘキサメチレンテトラミン(HMT)を含むことを告知しなかったため、処理し切れなかったHMTが川に流出したとほぼ断定。埼玉県はDOWA社に対し、適正な処理委託をするように文書で指導した。
流域の35万世帯が断水した事態を受け、同県は同社の説明不足が廃棄物処理法の告知義務違反に当たるかどうか検討してきたが、同法の施行規則は告知すべき物質名を定めていない。また、原因物質は水質汚濁防止法の規制対象外でもあるため、法的責任を問う根拠はないと結論づけた。
**********産経新聞 6月8日(金)13時56分配信
ホルムアルデヒド問題 DOWA社の法的責任問えず
関東の浄水場で国の基準を上回る有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題は7日、原因物質の排出業者の法的責任を問えないまま決着することとなった。埼玉県では、排出元である「DOWAハイテック」(本庄市)の行為に問題があるとみて調査を進めたが、要件が整わず法的責任の追及は断念。結局、廃液処理に関する行政指導を行うにとどまった。県は今後、再発防止に向けて国への法規制の要望を強く訴えていく。
埼玉県は当初から、原因はDOWA社が原因物質「ヘキサメチレンテトラミン」(HMT)が廃液に含まれていることを明示せずに処理委託したことにあるとみて、法的責任の有無が判明しない段階からDOWA社の実名を公表。廃液処理を委託された産廃処理業「高崎金属工業」(群馬県高崎市)とのやりとりを詳しく調べてきた。
だが、廃液にHMTが含まれることを伝えたかについて両者の言い分が食い違ったままだったため、DOWA社の責任の有無について確証は得られなかった。
結局、埼玉県はDOWA社の法的責任追及は断念。ただ、平成15年にDOWA社が自社からHMTを河川に排出して同様の水質事故を起こした“前歴”を重視。DOWA社に道義的責任があるという結論は譲らず、「廃液処理に当たり注意すべき事項を明確に伝える必要があった」と文書で指摘する行政指導を行った。
6月7日に記者会見した埼玉県水環境課の半田順春課長は「私個人としては、(DOWA社が)HMTに特化したデータ提供をすべきだったと思う」と、DOWA社の道義的責任に言及した。
県の行政指導を受け、DOWA社は7日、「法律に則った手続きを踏んでいたが、今回の指導を真摯に受け止め、廃棄物処理を総点検して管理体制を強化する」とコメントした。
埼玉県は今後、再発防止のため国にHMTの排出規制を求めていく。しかし、法整備には時間がかかるため、埼玉県では県内のHMTを扱う9業者に対し排水時や処理委託の際の指導要綱を策定することで、独自に再発防止を図るとしている。
**********
■このように、この時期に一斉に、群馬県と埼玉県と高崎市が「原因物質は水質汚濁防止法の規制対象外でもあるため、法的責任を問う根拠はない」と結論づけた背景には、我々住民には知らされない何らかのやりとりがあったものと推測されます。
今回、問題になったのは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(=廃棄物処理法)に基づく告知義務違反だったようです。
廃棄物処理法第12条第6項には「事業者の処理」として次の定めがあります。
第十二条 事業者は、自らその産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除く。第五項から第七項までを除き、以下この条において同じ。)の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(当該基準において海洋を投入処分の場所とすることができる産業廃棄物を定めた場合における当該産業廃棄物にあつては、その投入の場所及び方法が海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律 に基づき定められた場合におけるその投入の場所及び方法に関する基準を除く。以下「産業廃棄物処理基準」という。)に従わなければならない。
6 事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
■ここでいう「政令で定める基準」というのは、廃棄物処理法施行令の第6条の2の「事業者の産業廃棄物の運搬、処分等の委託の基準」のことです。
廃棄物処理法施行令「事業者の産業廃棄物の運搬、処分等の委託の基準」
第六条の二 法第十二条第六項 の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除く。以下この条から第六条の四までにおいて同じ。)の運搬にあつては、他人の産業廃棄物の運搬を業として行うことができる者であつて委託しようとする産業廃棄物の運搬がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。
二 産業廃棄物の処分又は再生にあつては、他人の産業廃棄物の処分又は再生を業として行うことができる者であつて委託しようとする産業廃棄物の処分又は再生がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。
三 輸入された廃棄物(当該廃棄物を輸入した者が自らその処分又は再生を行うものとして法第十五条の四の五第一項 の許可を受けて輸入されたものに限る。)の処分又は再生を委託しないこと。ただし、災害その他の特別な事情があることにより当該廃棄物の適正な処分又は再生が困難であることについて、環境省令で定めるところにより、環境大臣の確認を受けたときは、この限りでない。
四 委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。
イ 委託する産業廃棄物の種類及び数量
ロ 産業廃棄物の運搬を委託するときは、運搬の最終目的地の所在地
ハ 産業廃棄物の処分又は再生を委託するときは、その処分又は再生の場所の所在地、その処分又は再生の方法及びその処分又は再生に係る施設の処理能力
ニ 産業廃棄物の処分又は再生を委託する場合において、当該産業廃棄物が法第十五条の四の五第一項 の許可を受けて輸入された廃棄物であるときは、その旨
ホ 産業廃棄物の処分(最終処分(法第十二条第五項 に規定する最終処分をいう。以下同じ。)を除く。)を委託するときは、当該産業廃棄物に係る最終処分の場所の所在地、最終処分の方法及び最終処分に係る施設の処理能力
ヘ その他環境省令で定める事項
五 前号に規定する委託契約書及び書面をその契約の終了の日から環境省令で定める期間保存すること。
六 第六条の十二第一号の規定による承諾をしたときは、同号に規定する書面の写しをその承諾をした日から環境省令で定める期間保存すること。
■上記の施行令第6条の2第4項へには「その他環境省令で定める事項」とあります。これについては、廃棄物処理法施行規則で、「産業廃棄物を取り扱う際に注意するべき事項」を契約書に明記するか、WDSやPRTR、MSDSなどで情報提供する義務が定められています。
廃棄物処理法施行規則
第八条の四の二 令第六条の二第四号 ヘ(令第六条の十二第四号 の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の環境省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 委託契約の有効期間
二 委託者が受託者に支払う料金
三 受託者が産業廃棄物収集運搬業又は産業廃棄物処分業の許可を受けた者である場合には、その事業の範囲
四 産業廃棄物の運搬に係る委託契約にあつては、受託者が当該委託契約に係る産業廃棄物の積替え又は保管を行う場合には、当該積替え又は保管を行う場所の所在地並びに当該場所において保管できる産業廃棄物の種類及び当該場所に係る積替えのための保管上限
五 前号の場合において、当該委託契約に係る産業廃棄物が安定型産業廃棄物であるときは、当該積替え又は保管を行う場所において他の廃棄物と混合することの許否等に関する事項
六 委託者の有する委託した産業廃棄物の適正な処理のために必要な次に掲げる事項に関する情報
イ 当該産業廃棄物の性状及び荷姿に関する事項
ロ 通常の保管状況の下での腐敗、揮発等当該産業廃棄物の性状の変化に関する事項
ハ 他の廃棄物との混合等により生ずる支障に関する事項
ニ 当該産業廃棄物が次に掲げる産業廃棄物であつて、日本工業規格C〇九五〇号に規定する含有マークが付されたものである場合には、当該含有マークの表示に関する事項
(1)廃パーソナルコンピュータ
(2)廃ユニット形エアコンディショナー
(3)廃テレビジョン受信機
(4)廃電子レンジ
(5)廃衣類乾燥機
(6)廃電気冷蔵庫
(7)廃電気洗濯機
ホ 委託する産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物が含まれる場合は、その旨
ヘ その他当該産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項
七 委託契約の有効期間中に当該産業廃棄物に係る前号の情報に変更があつた場合の当該情報の伝達方法に関する事項
八 受託業務終了時の受託者の委託者への報告に関する事項
九 委託契約を解除した場合の処理されない産業廃棄物の取扱いに関する事項
■上記の廃棄物処理法施行規則第8条の4の2第6号では、廃棄物の処理に係る委託契約の締結に際して、必要な情報の提供を求めています。
このことに関連して、経済産業省では、平成13年1月から「化学物質排出把握管理促進法」により制度化された「MSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)制度」を制定しています。これは、化学物質の適切な管理の改善を促進するため、対象化学物質またはそれを含有する製品を他の事業者に譲渡する際に、その化学物質の性状及び取扱いに関する情報の事前提供を義務付けるものです。
「MSDS」は、ILO(国際労働機関)条約における取り決めや、ISO(国際標準化機構)での標準化をはじめとする国際的な枠組みが整備されていて、海外でも欧米等の多くの国で「MSDS」の提供が義務化されている状況となってきています。
■MSDS制度の他にも、経済産業省は、1999年(平成11年)に、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)を制度化しています。これは、PRTR法(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)ともよばれ、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組みです。
今回の汚染原因物質となったヘキサメチレンテトラミン(HMT)は容易に分解しない有害化学物質であり、海洋汚染防止法では「D類物質等」、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)では「第一種指定化学物質」、食品衛生法では「指定外添加物」として指定されています。
このため、PRTR規制対象のHMTを業者間で移動するに際しては、相手方にきちんと情報を正確に伝えないと、PRTR法第14条に違反することになります。
PRTR法「指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報の提供」
第十四条 指定化学物質等取扱事業者は、指定化学物質等を他の事業者に対し譲渡し、又は提供するときは、その譲渡し、又は提供する時までに、その譲渡し、又は提供する相手方に対し、当該指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報を文書又は磁気ディスクの交付その他経済産業省令で定める方法により提供しなければならない。
2 指定化学物質等取扱事業者は、前項の規定により提供した指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報の内容に変更を行う必要が生じたときは、速やかに、当該指定化学物質等を譲渡し、又は提供した相手方に対し、変更後の当該指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報を文書又は磁気ディスクの交付その他経済産業省令で定める方法により提供するよう努めなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、前二項に規定する情報の提供に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。
したがって、HMTはPRTR法規制対象のため、排出量が管理され、購入量と使用量+廃棄量が一貫していないと、環境中に放出したことになり、行政に対して説明責任が果たせなくなります。なぜなら、対象としてリストアップされた化学物質を製造したり使用したりしている事業者は、環境中に排出した量と、廃棄物や下水として事業所の外へ移動させた量とを自ら把握し、行政機関に年に1回届け出でをしなければならないからです。
行政機関は、そのデータを整理し集計し、また、家庭や農地、自動車などから排出されている対象化学物質の量を推計して、2つのデータを併せて公表しています。PRTR法によって、毎年どんな化学物質が、どの発生源から、どれだけ排出されているかを知ることができるようになります。諸外国でも導入が進んでおり、日本では上記の通り平成11年、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)により制度化されました。
■このMSDSとPRTRの流れをくんで、平成18年4月18日に、廃棄物処理法施行規則第8条の4の2第6号で定めている、廃棄物処理の委託契約における「委託基準」で義務付けられている「廃棄物情報の提供について」について、その望ましいあり方を示すガイドライン(WDSガイドライン)を発表しました。
これはサンパイ排出事業者は、適正処理のために必要な廃棄物情報を処理業者へ提供することになっているものの、実際に提供される情報が不十分なために、それに起因する事故や有害物質の混入等が多発していることから、本「ガイドライン」を策定して対処しようとするものです。
廃棄物情報の提供に関するガイドライン― WDSガイドライン ―(Waste Data Sheet ガイドライン)平成18年3月環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部
http://www.env.go.jp/recycle/misc/wds/main.pdf
このガイドラインの冒頭には次の目的が明記されています。
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廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第137 号。以下「法」という。)に定める産業廃棄物の委託基準では、産業廃棄物の排出事業者は、適正処理のために必要な廃棄物情報を処理業者に提供することとされている。本ガイドラインは、廃棄物の処理過程における事故を未然に防止し、環境上適正な処理を確保することを目的として、排出事業者が提供すべき廃棄物の性状等の情報について具体的に解説し、排出事業者が処理業者へ産業廃棄物の処理を委託する際の廃棄物情報の提供の望ましいあり方を示すものである。
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この「ガイドライン」では、従来使用しているデータシートが、必要な情報項目を満たしている場合には、継続的にそのシートを使用して差し支えないとし、また、データの提出が困難であれば、廃棄物サンプルや発生工程図、既存のMSDS データの提供により対応してもよいとされています。
環境省では、このガイドラインに沿って、WDSが普及し、排出事業者と処理業者の双方向コミュニケーションが促進され、信頼関係構築の一助となることを期待していました。しかし、どうやらこれはあくまでもガイドラインであって、これを守らなくても罰することができないのではないか、ということに、今回の水道水ホルムアルデヒド事件の関係者は、その幕引きの根拠として目をつけたようです。
■DOWAハイテック社ではHMTの廃棄量をゴマ化すために、2社のサンパイ業者に依託し、片方には物質と総量を明記して、焼却させ、もう片方の高崎金属工業にはHMT含有扱いで物質の総量は知らせず、 書類上より含有量が高い産廃物を依託。高崎金属工業では、HMTの記載がないことを理由に、本来であれば、慎重に取り扱うべきところを、中和処理だけを行って、烏川に放流したということになります。
このようにHMTはPRTR法対象の特別管理産業廃棄物であるにも関わらず、今回の事件では、有害物質ではなく、あたかも一般のサンパイのように扱われているのが気になります。
そもそも、廃酸には、焼却法と中和沈殿法という処理方法がありますが、HMTは、焼却法でしか処理ができません。DOWAハイテックは、HMT含有サンパイであることを認識しながら、そのことを処理業者に知らせていなかったことになります。
このことについて、前述の通り、廃棄物処理法では委託契約の際に廃棄物の性質などを書面で告知を義務付けています。高崎金属工業では「DOWAハイテック社から廃液にHMTが含まれていると知らされなかった」とし、DOWAハイテック社は「廃液の分析値の中に(HMTを含む)全窒素があるので、通常の業者なら含まれていることは分かる」と主張しています、
そもそもDOWAハイテックは9年前まで自社内で廃酸液を中和沈殿処理して、2003年にHMTを外部に漏らして大騒動を起こしました。その後は自社処理を止め、焼却処理をするサンパイ業者に廃液処理をさせていたと考えられます。
同じ中和沈殿法を使う高崎金属工業に、HMT含有サンパイ液を処理させればどうなるかは、DOWAハイテック社の担当者も責任者もよく理解していたはずです。DOWAハイテックは「廃液の分析値の中に(HMTを含む)全窒素があるので、通常の業者なら含まれていることは分かる」としていますが、本当に全窒素にHMTが大量に含まれていることがサンパイ処理業界では常識的なことなのかどうかについての、具体的な説明はありません。
うがった見方をすれば、DOWAハイテック社は、これまで焼却処理を委託していたサンパイ業者と何らかの理由でトラブルがあり、廃液処理が滞ってしまい、DOWAの担当者が中和沈殿処理でもバレないだろうと考えて、JFEグループの運搬業者を介して、群馬県のサンパイ業者である高崎金属工業にコンタクトして、わざとHMT含有を隠した状態で廃液処理を委託したことも考えられます。
もしも、これがバレても、「知らなかった。なお、HMTは有害物質でもなく、告知義務もない」と、釈明すればなんとかなると思っていたことも考えられます。
■また、DOWAハイテックは廃酸液60トンを5月10日から6回に分けてタンクローリーで高崎金属工業に搬入しています。1日あたり10トンずつ産廃業者が処理してくれていれば、国の基準を超すホルムアルデヒドが浄水場で発生することは無かったかもしれません。しかし、高崎金属工業では中和沈殿法の設備を効率よく稼働させるため、60トンの廃液搬入が完了した16日以降に一気に処理したことも考えられます。
そうすれば、利根川水系に未処理の高濃度HMT水が一気に大量に流出し、17日以降に下流の浄水場で取水した水を塩素処理したことにより水道水中に、ホルムアルデヒドが発生して検出されることになります。
もし、DOWAハイテックが、HMT含有サンパイ水について「【主成分】全窒素(T-N):○○mg/L」という内容の成分表を出していた場合、高崎金属工業は、「それでは中和沈殿処理して、あとは処理した後の水を、水質汚濁防止法の基準に従って、全窒素(T-N)の最高値が120mg/Lを超えず、日間平均が60mg/Lを越えないように、川に流すことにする」と判断にしたことも考えられます。
■しかし、報道によれば、水道水中のホルムアルデヒドが検出され始めたのは5月15日の庄和浄水場が発端だとされています。高崎金属工業が、いつHMT含有サンパイ液をどの程度受入て、それを、いつどの程度ずつ処理して放流したのかが、現時点では分かりません。したがって、一体何がどうなったのかも、依然として闇の中です。
HMT含有サンパイ液の処理費用についても、中和沈殿処理の場合と、焼却処分では、後者の処理費用のほうが、もの凄く高額になることは自明です。DOWAハイテック社が合計150トンの廃液のうち、90トンはきちんと焼却処分設備がある産廃業者に出してヘキサメチレンテトラミンをきちんと処理したことにしておいて、処理費用と時間を節約するために、残りの60トンを普通の廃液として高崎金属工業に出したことも考えられます。
今回、DOWAハイテック社は、高崎金属工業ともう1社に対しても、HMTを含むことを告げずに、処理を委託していたと考えられます。しかし、前者は60トンを中和処理のみで600m程離れた烏川に流し、後者は90トンを群馬県外の別業者へ再委託して、焼却処分したため、川へは放流しなかったと考えられるため、DOWAハイテック社が2社に提示した内容には、費用を含め、条件的になにか相違があったのかもしれません。
■廃棄物処理法の委託基準として、折角、同法で「産業廃棄物を取り扱う際に注意するべき事項」を契約書に明記するか、MSDSやWDSなどで情報提供する義務が定められているにもかかわらず、「あくまでガイドラインだから」とか、「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)が有害物質ではないから」などという理屈で、「告知義務違反ではない」としたようです。
ガイドラインには、告知義務のある個別の化学物質が限定列挙されているわけではありません。しかし、少なくとも、排出事業者(=委託者)が危険性を認識している化学物質に関しては、処理委託の契約締結時に処理業者に情報提供する方法を定めておかねばなりません。
今回、群馬県も埼玉県も高崎市も、この委託基準に関する詳細な説明を行った気配がありません。たぶん、意図的だったと考えられます。DOWAハイテックは、9年前の2003年にも同様の水質汚染事件を起こしたことについて、埼玉県は逸早く公表していたわけですから、当然「DOWAハイテック社はHMT含有のサンパイが有害であるという事実を知っていた」と認識するのが妥当のはずです。だから、廃棄物処理法に定める委託基準違反に問えたはずですが、なぜか、事件発生後約1カ月近く経過した今、行政指導で幕引きが行なわれました。
■この背景としては、我々一般住民の知らないところで、外部から行政への指導があったものと推察されます。なぜなら、今回の事件で、いろいろ疑問点が浮上しているからです。
とくに、当会がこれまで指摘してきたように、DOWAハイテックからHMT含有廃液のサンパイ処理を委託された高崎金属工業がHMTの排出源と判明したのが、埼玉県から群馬県に通報のあった5月17日午前の段階であり、5月19日と21日には同社に両県と高崎市が立入検査に入っていました。しかし、マスコミを通じて同社が排出源として公表されたのは5月25日でした。
高崎金属工業は、倉賀野工業団地の鍍金組合で出資運営されていますが、なぜかそのことはマスコミで報じられていません。
DOWAハイテック社の親会社は、東証一部上場のDOWAホールディングス株式会社で、傘下にサンパイ業(環境・リサイクル)のDOWAエコシステムがあります。同社は、9年前には、自分でHMTを流して、ホルムアルデヒド汚染騒動を起こして埼玉県から厳重注意されているのに、今回、再度委託者として同様な事件を起こしました。
また、DOWAハイテック社は今回の事件の委託者ですが、同社がHMT含有廃液の収集運搬を委託した先のサンパイ収集運搬業者の名前がJFEグループ会社とされているだけで、具体的な会社名が明らかにされていません。
■埼玉県の環境部産業廃棄物指導課(電話:048-830-3130)は、どの産業廃棄物収集運搬業者に対して、5月28日(月)に、廃棄物処理法第18条に基づく報告徴収を行い、①DOWAハイテック社との産業廃棄物収集運搬委託契約書、②DOWAハイテック社が交付した産業廃棄物管理票を6月1日(金)までに提出するように指示していました。これによりDOWAハイテック社と収集運搬業者との間の委託契約の詳細を明らかにし、不適正な行為が行われていた実態が判明した場合には、必要な措置を講じることができるからです。
DOWAハイテック社から収集運搬業務を委託された業者に関連して、東京新聞が6月4日付群馬版で次の通り報じました。
**********東京新聞2012年6月4日群馬版
ホルムアルデヒド問題 廃液関係書類を提出 埼玉県に横浜の運搬業者
有害物質ホルムアルデヒドの原因物質が利根川水系に大量に流出した問題で、原因物質を含む廃液を化学製品業「DOWAハイテック」(埼玉県本庄市)から産業廃棄物処理業「高崎金属工業」(高崎市)に搬入した横浜市の産廃収集運搬業者から、埼玉県が搬入に伴う契約書や廃液の管理票の提出を受けたことが分かった。(杉本慶一、菅原洋)
★事情知る可能性も 解明に向け調査
埼玉県はDOWAと同工業の間に介在した運搬業者が、問題解明の手掛かりを知る可能性もあるとみて調査している。
運搬業者は大手製造業の系列で、群馬県内に営業所があり、廃棄物の中間処理、再利用、汚泥処理などを幅広く手掛けている。
東京新聞が入手した廃液を試験報告書の写しによると、運搬業者は3月30日に廃液を伊勢崎市の環境関連企業に持ち込んで分析を依頼し、4月4日に結果を受け取った。その後、同工業に報告書の他、廃液のサンプルも渡したとみられる。
報告書には、窒素化合物の総称「全窒素」とは書いてあるが、総省に含まれる原因物質「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)」の記載はなかった。
この点についてDOWAは「全窒素との記載でHMTを含むのが分かるはず」との趣旨の主張をしている。一方、同工業は「全窒素との記載ではHMTを含むとは分からず、知っていたら引き受けなかった」と食い違っており、今回の問題の焦点に浮上している。
またDOWAと同工業の取引は今回が初めてだったが、この運搬業者が仲介したという。埼玉県は、DOWAが廃液の処理を運搬業者に任せきりにしたとみて調べている。
運搬業者DOWAの依頼を受け、5月10~18日に6回、HMTを含む廃液約60トンを同工業に搬入。埼玉県は、同工業の処理設備ではHMTが十分に分解されず、利根川支流の烏川(からすがわ)に排出された可能性が高いとみている。
HMTは首都圏の浄水場で河川水の浄化処理に使う塩素と化学反応し、ホルムアルデヒドになったとされる。
**********
■これと前後して、東京新聞6月2日付群馬版記事によれば、群馬県と高崎市は6月1日に中間報告を行い、HMTを巡る処理問題で「高崎金属工業には現時点で不手際は確認できない」とし、6月4日の週に、高崎金属工業に再度立入調査をして、DOWAハイテック社との説明の食い違いを確認する予定であるとしていました。
**********東京新聞2012年6月2日群馬版
ホルムアルデヒド 不手際確認できず
県と高崎市中間報告 産廃会社、4度目調査へ
利根川水系から取水する首都圏の浄水場で水道水から有害物質「ホルムアルデヒド」が検出された問題で、群馬県と高崎市は6月1日、中間報告を発表した。原因物質「ヘキサメチレンテトラミン(MHT)」を流出させたとみられる産業廃棄物処理業の高崎金属工業(高崎市)を調査したものの、現時点で不手際は確認できないなどとしている。
県と市によると、同社は5月10~18日、製造業のDOWAハイテック(埼玉県本庄市)から廃液の処理を委託された。問題発覚後の同月29日、市はDOWA側が高崎金属工業に示した廃液の試験報告書、契約書、管理表などを同社に提出させ、立入調査や事情聴取もした。
試験報告書には、窒素化合物の総称「全窒素」とは書いてあるが、総称に含まれるHMTとの記載はなかった。DOWAは「全窒素との記載でHMTと推測できるはず」と主張している。しかし、中間報告発表の記者会見で、県は「全窒素との記載で、直ちにHMTとは分からない。一般的には、二つは結び付かない」と述べ、市も同様の見方を示している。
契約書など提出書類にもHMTの表記はないという。高崎市などは来週にも、高崎金属工業に四度目の立ち入り調査を行うなどして、両社の主張が食い違う点などについて調査を進める。
また県は1日、HMTの適正な管理と処理を、県内の経済団体や産廃業者15社に要請した。
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■ところが、こうした矢先に冒頭の記事の通り、6月7日に、一斉に群馬県、埼玉県、高崎市が揃って幕引き宣言を出したのでした。
背景としては、やはり、日本を代表する大手企業のひとつのJFEグループや、廃棄物処理・土壌浄化・資源リサイクルなどの分野でリーディングカンパニーとして有名なDOWAグループに対して、いろいろな動きが合った結果だとみることができます。
たとえば、DOWAホールディング株式会社代表取締役会長の吉川廣和氏は、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の委員長として活動しています。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keieizaimutyousa/0524keiei_zaimu.pdf
また、JFEホールディングス株式会社相談役(2005年から同社代表取締役社長、2010年から現職)の数土文夫氏は、平成23年4月1日から「NHK経営委員会」の委員になり、平成23年4月12日~24年5月24日まで委員長として活動し、経営委員長を兼務したままで東電の社外取締役に就く意向でしたが、5月24日に任期半ばで突然経営委員長辞任を表明し、同25日に退任し、同30日には委員も辞めました。
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/member/m_sudo.html
また、NHKと東電の癒着関係は以前から有名で、NHKの10年度の財務諸表を見ると、総額927億円の事業債(社債)を保有していることがわかります。公共放送をつかさどる非営利法人が資産運用していること自体が問題ですが、社債の保有金額トップは東電で145億円分を保有、2位以下も中部電68億円、関電65億円、中国電51億円、東北電45億円と、上位5社はすべて電力会社が占めていました。そのためか、地方のNHKの番組審議会メンバーには電力会社の役員がズラリと名を連ねています。
これで、今回の幕引きと、マスコミ、とくにNHKがこの問題について及び腰だったことがよく理解できます。
■この国家テロとも並び称されるほど広範囲に影響を与えた水道水ホルムアルデヒド汚染問題が、あっけなく幕引きされたうらで一体何があったのかをきちんと検証する必要があると思います。当会では、近々、群馬県に対して、関係する情報開示請求を行い、再発防止のための真相究明と責任所在明確化に向けて尽力してみるつもりです。
【ひらく会情報部】
**********上毛新聞2012年6月8日1面
ホルムアルデヒド検出問題 業者の排水汚染源 群馬・埼玉両県原因を特定 法的責任問えず
本件を含む関東の浄水場で有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題で、群馬、埼玉両県と高崎市は6月7日、埼玉県本庄市の化学品メーカー「DOWAハイテック」から廃液処理を請け負った高崎市の産業処理業者「高崎金属工業」の排水が汚染源だった可能性が高いとの最終調査結果を公表した。埼玉県は同日、DOWA社に対し、再発防止を文書で行政指導。高崎市も高崎金属工業に行政指導を検討している。
★高崎市、行政指導を検討
両県によると、廃液に原因物質ヘキサメチレンテトラミン(HMT)が含まれていることや、浄水処理によってホルムアルデヒドを生成することは、DOWA社から高崎金属工業へ伝えられていなかった。埼玉県が実験した結果、高崎金属工業の施設ではHMTは約4割しか処理できないことを確認した。
高崎金属工業はHMT10.8トンを含む廃液65トンを5月10~19日に処理し、HMT6トンを含んだ排水を烏川へ放流。下流の浄水場では5月14~20日にホルムアルデヒドが検出された。
両県と高崎市は①HMTの河川放流量と、国が推計した河川中のHMT量が近い②廃水の放流時期とホルムアルデヒドが検出された時期がほぼ一致③ほかの事業者からの流出はないことを確認済みーなどから、汚染源であることはほぼ間違いないと結論付けた。
一方で、HMTはそれ自体に有害性はなく、廃棄物処理法や水質汚濁防止法の規制外であることから、DOWA社が情報提供しなかったことに法的な責任を問えないと判断。高崎金属工業についても、委託された中和処理を行っており、法令違反はないとした。
DOWA社は「これまでも訂正な手続をしていたが、行政指導を受け、廃棄物の処理について総点検して管理を一層強化したい」とコメントした。
高崎金属工業の赤穂好男社長は「結果的に多くの方に迷惑が及んでしまった。今後も最善の注意をしながら対応したい」と話した。
★物質の法規制必要
本件を含む1都3県の浄水場から有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題は、「飲み水の安全」を脅かしかねない原因物質の多くが規制されていない課題を浮き彫りにした。
今回の原因物質以外に、浄水場の塩素処理でホルムアルデヒドを生成する物質は数100種に上るとされる。いずれもそれ自体に有害性はなく、排出規制はない。
36万世帯が断水するなど汚染は市民生活の混乱を招いた。危機感を募らせた関東地方知事は、こうした汚染源につながる物質の法規制を国に要請。環境省は専門家らによる検討会を設け、規制化を探ることにしている。
群馬県も独自の規制を検討するほか、こうした物質を扱う事業所や産廃業者に廃棄物処理の適正化を指導。水道水の検査強化も継続して安全を確認していく。
**********東京新聞6月8日群馬版
高崎市 産廃業者の指導検討 ホルムアルデヒド問題 社会的影響を考慮
利根川水系から取水する首都圏の浄水場で有害物質「ホルムアルデヒド」が大量に検出された問題。群馬、埼玉両県などは7日に発表した最終調査結果で、原因物質の流出元が産業廃棄物処理業の高崎金属工業(高崎市)と推定できるとした上で、「違法性は認められない」との判断を示した。ただ、高崎市は問題の社会的な影響を考慮し、廃棄物処理法に基づき、同工業に文書による行政指導を検討している。(菅原洋)
群馬県と市、埼玉県によると、化学製品業のDOWAハイテック(埼玉県本庄市)が同工業に処理を委託した廃液中の「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)」は推定約10.8トンで、このうち流出量は同約6トン。 流出量や有害物質の検出時期などを考慮すると、同工業から出た廃液が有害物質の大量検出につながった可能性が高いと最終的に判断した。
一方で群馬県などは、DOWAが同工業に対し、廃液にHMTを含む事実を関係書類上も口頭でも伝えていなかったと認定。同工業はその事実を知らず、書類の成分情報からも事実を推測できずに廃液を処理したとして、同法違反には当たらないとした。群馬県と高崎市は7日、5月20日から続けて来た河川の定点監視を終了した。
同工業の赤穂好男社長は本紙に「廃液の経緯は分からなかったとはいえ、社会にご迷惑を掛けた。これからは廃液を一層精査するように努力したい」とのコメントを出した。
**********朝日新聞デジタル埼玉版2012年6月8日0時3分
ホルムアルデヒド汚染「法的責任問えない」 埼玉県結論
利根川水系の浄水場で国の基準値を上回る濃度のホルムアルデヒドが検出された問題で、埼玉県は7日、原因物質を排出した企業に法的な責任は問えないとする最終報告をまとめた。
原因については、化学メーカー、DOWAハイテック(埼玉県本庄市)が廃液の処理を群馬県高崎市の産廃業者に委託した際、原因物質ヘキサメチレンテトラミン(HMT)を含むことを告知しなかったため、処理し切れなかったHMTが川に流出したとほぼ断定。埼玉県はDOWA社に対し、適正な処理委託をするように文書で指導した。
流域の35万世帯が断水した事態を受け、同県は同社の説明不足が廃棄物処理法の告知義務違反に当たるかどうか検討してきたが、同法の施行規則は告知すべき物質名を定めていない。また、原因物質は水質汚濁防止法の規制対象外でもあるため、法的責任を問う根拠はないと結論づけた。
**********産経新聞 6月8日(金)13時56分配信
ホルムアルデヒド問題 DOWA社の法的責任問えず
関東の浄水場で国の基準を上回る有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題は7日、原因物質の排出業者の法的責任を問えないまま決着することとなった。埼玉県では、排出元である「DOWAハイテック」(本庄市)の行為に問題があるとみて調査を進めたが、要件が整わず法的責任の追及は断念。結局、廃液処理に関する行政指導を行うにとどまった。県は今後、再発防止に向けて国への法規制の要望を強く訴えていく。
埼玉県は当初から、原因はDOWA社が原因物質「ヘキサメチレンテトラミン」(HMT)が廃液に含まれていることを明示せずに処理委託したことにあるとみて、法的責任の有無が判明しない段階からDOWA社の実名を公表。廃液処理を委託された産廃処理業「高崎金属工業」(群馬県高崎市)とのやりとりを詳しく調べてきた。
だが、廃液にHMTが含まれることを伝えたかについて両者の言い分が食い違ったままだったため、DOWA社の責任の有無について確証は得られなかった。
結局、埼玉県はDOWA社の法的責任追及は断念。ただ、平成15年にDOWA社が自社からHMTを河川に排出して同様の水質事故を起こした“前歴”を重視。DOWA社に道義的責任があるという結論は譲らず、「廃液処理に当たり注意すべき事項を明確に伝える必要があった」と文書で指摘する行政指導を行った。
6月7日に記者会見した埼玉県水環境課の半田順春課長は「私個人としては、(DOWA社が)HMTに特化したデータ提供をすべきだったと思う」と、DOWA社の道義的責任に言及した。
県の行政指導を受け、DOWA社は7日、「法律に則った手続きを踏んでいたが、今回の指導を真摯に受け止め、廃棄物処理を総点検して管理体制を強化する」とコメントした。
埼玉県は今後、再発防止のため国にHMTの排出規制を求めていく。しかし、法整備には時間がかかるため、埼玉県では県内のHMTを扱う9業者に対し排水時や処理委託の際の指導要綱を策定することで、独自に再発防止を図るとしている。
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■このように、この時期に一斉に、群馬県と埼玉県と高崎市が「原因物質は水質汚濁防止法の規制対象外でもあるため、法的責任を問う根拠はない」と結論づけた背景には、我々住民には知らされない何らかのやりとりがあったものと推測されます。
今回、問題になったのは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(=廃棄物処理法)に基づく告知義務違反だったようです。
廃棄物処理法第12条第6項には「事業者の処理」として次の定めがあります。
第十二条 事業者は、自らその産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除く。第五項から第七項までを除き、以下この条において同じ。)の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(当該基準において海洋を投入処分の場所とすることができる産業廃棄物を定めた場合における当該産業廃棄物にあつては、その投入の場所及び方法が海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律 に基づき定められた場合におけるその投入の場所及び方法に関する基準を除く。以下「産業廃棄物処理基準」という。)に従わなければならない。
6 事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
■ここでいう「政令で定める基準」というのは、廃棄物処理法施行令の第6条の2の「事業者の産業廃棄物の運搬、処分等の委託の基準」のことです。
廃棄物処理法施行令「事業者の産業廃棄物の運搬、処分等の委託の基準」
第六条の二 法第十二条第六項 の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除く。以下この条から第六条の四までにおいて同じ。)の運搬にあつては、他人の産業廃棄物の運搬を業として行うことができる者であつて委託しようとする産業廃棄物の運搬がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。
二 産業廃棄物の処分又は再生にあつては、他人の産業廃棄物の処分又は再生を業として行うことができる者であつて委託しようとする産業廃棄物の処分又は再生がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。
三 輸入された廃棄物(当該廃棄物を輸入した者が自らその処分又は再生を行うものとして法第十五条の四の五第一項 の許可を受けて輸入されたものに限る。)の処分又は再生を委託しないこと。ただし、災害その他の特別な事情があることにより当該廃棄物の適正な処分又は再生が困難であることについて、環境省令で定めるところにより、環境大臣の確認を受けたときは、この限りでない。
四 委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。
イ 委託する産業廃棄物の種類及び数量
ロ 産業廃棄物の運搬を委託するときは、運搬の最終目的地の所在地
ハ 産業廃棄物の処分又は再生を委託するときは、その処分又は再生の場所の所在地、その処分又は再生の方法及びその処分又は再生に係る施設の処理能力
ニ 産業廃棄物の処分又は再生を委託する場合において、当該産業廃棄物が法第十五条の四の五第一項 の許可を受けて輸入された廃棄物であるときは、その旨
ホ 産業廃棄物の処分(最終処分(法第十二条第五項 に規定する最終処分をいう。以下同じ。)を除く。)を委託するときは、当該産業廃棄物に係る最終処分の場所の所在地、最終処分の方法及び最終処分に係る施設の処理能力
ヘ その他環境省令で定める事項
五 前号に規定する委託契約書及び書面をその契約の終了の日から環境省令で定める期間保存すること。
六 第六条の十二第一号の規定による承諾をしたときは、同号に規定する書面の写しをその承諾をした日から環境省令で定める期間保存すること。
■上記の施行令第6条の2第4項へには「その他環境省令で定める事項」とあります。これについては、廃棄物処理法施行規則で、「産業廃棄物を取り扱う際に注意するべき事項」を契約書に明記するか、WDSやPRTR、MSDSなどで情報提供する義務が定められています。
廃棄物処理法施行規則
第八条の四の二 令第六条の二第四号 ヘ(令第六条の十二第四号 の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の環境省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 委託契約の有効期間
二 委託者が受託者に支払う料金
三 受託者が産業廃棄物収集運搬業又は産業廃棄物処分業の許可を受けた者である場合には、その事業の範囲
四 産業廃棄物の運搬に係る委託契約にあつては、受託者が当該委託契約に係る産業廃棄物の積替え又は保管を行う場合には、当該積替え又は保管を行う場所の所在地並びに当該場所において保管できる産業廃棄物の種類及び当該場所に係る積替えのための保管上限
五 前号の場合において、当該委託契約に係る産業廃棄物が安定型産業廃棄物であるときは、当該積替え又は保管を行う場所において他の廃棄物と混合することの許否等に関する事項
六 委託者の有する委託した産業廃棄物の適正な処理のために必要な次に掲げる事項に関する情報
イ 当該産業廃棄物の性状及び荷姿に関する事項
ロ 通常の保管状況の下での腐敗、揮発等当該産業廃棄物の性状の変化に関する事項
ハ 他の廃棄物との混合等により生ずる支障に関する事項
ニ 当該産業廃棄物が次に掲げる産業廃棄物であつて、日本工業規格C〇九五〇号に規定する含有マークが付されたものである場合には、当該含有マークの表示に関する事項
(1)廃パーソナルコンピュータ
(2)廃ユニット形エアコンディショナー
(3)廃テレビジョン受信機
(4)廃電子レンジ
(5)廃衣類乾燥機
(6)廃電気冷蔵庫
(7)廃電気洗濯機
ホ 委託する産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物が含まれる場合は、その旨
ヘ その他当該産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項
七 委託契約の有効期間中に当該産業廃棄物に係る前号の情報に変更があつた場合の当該情報の伝達方法に関する事項
八 受託業務終了時の受託者の委託者への報告に関する事項
九 委託契約を解除した場合の処理されない産業廃棄物の取扱いに関する事項
■上記の廃棄物処理法施行規則第8条の4の2第6号では、廃棄物の処理に係る委託契約の締結に際して、必要な情報の提供を求めています。
このことに関連して、経済産業省では、平成13年1月から「化学物質排出把握管理促進法」により制度化された「MSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)制度」を制定しています。これは、化学物質の適切な管理の改善を促進するため、対象化学物質またはそれを含有する製品を他の事業者に譲渡する際に、その化学物質の性状及び取扱いに関する情報の事前提供を義務付けるものです。
「MSDS」は、ILO(国際労働機関)条約における取り決めや、ISO(国際標準化機構)での標準化をはじめとする国際的な枠組みが整備されていて、海外でも欧米等の多くの国で「MSDS」の提供が義務化されている状況となってきています。
■MSDS制度の他にも、経済産業省は、1999年(平成11年)に、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)を制度化しています。これは、PRTR法(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)ともよばれ、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組みです。
今回の汚染原因物質となったヘキサメチレンテトラミン(HMT)は容易に分解しない有害化学物質であり、海洋汚染防止法では「D類物質等」、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)では「第一種指定化学物質」、食品衛生法では「指定外添加物」として指定されています。
このため、PRTR規制対象のHMTを業者間で移動するに際しては、相手方にきちんと情報を正確に伝えないと、PRTR法第14条に違反することになります。
PRTR法「指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報の提供」
第十四条 指定化学物質等取扱事業者は、指定化学物質等を他の事業者に対し譲渡し、又は提供するときは、その譲渡し、又は提供する時までに、その譲渡し、又は提供する相手方に対し、当該指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報を文書又は磁気ディスクの交付その他経済産業省令で定める方法により提供しなければならない。
2 指定化学物質等取扱事業者は、前項の規定により提供した指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報の内容に変更を行う必要が生じたときは、速やかに、当該指定化学物質等を譲渡し、又は提供した相手方に対し、変更後の当該指定化学物質等の性状及び取扱いに関する情報を文書又は磁気ディスクの交付その他経済産業省令で定める方法により提供するよう努めなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、前二項に規定する情報の提供に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。
したがって、HMTはPRTR法規制対象のため、排出量が管理され、購入量と使用量+廃棄量が一貫していないと、環境中に放出したことになり、行政に対して説明責任が果たせなくなります。なぜなら、対象としてリストアップされた化学物質を製造したり使用したりしている事業者は、環境中に排出した量と、廃棄物や下水として事業所の外へ移動させた量とを自ら把握し、行政機関に年に1回届け出でをしなければならないからです。
行政機関は、そのデータを整理し集計し、また、家庭や農地、自動車などから排出されている対象化学物質の量を推計して、2つのデータを併せて公表しています。PRTR法によって、毎年どんな化学物質が、どの発生源から、どれだけ排出されているかを知ることができるようになります。諸外国でも導入が進んでおり、日本では上記の通り平成11年、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)により制度化されました。
■このMSDSとPRTRの流れをくんで、平成18年4月18日に、廃棄物処理法施行規則第8条の4の2第6号で定めている、廃棄物処理の委託契約における「委託基準」で義務付けられている「廃棄物情報の提供について」について、その望ましいあり方を示すガイドライン(WDSガイドライン)を発表しました。
これはサンパイ排出事業者は、適正処理のために必要な廃棄物情報を処理業者へ提供することになっているものの、実際に提供される情報が不十分なために、それに起因する事故や有害物質の混入等が多発していることから、本「ガイドライン」を策定して対処しようとするものです。
廃棄物情報の提供に関するガイドライン― WDSガイドライン ―(Waste Data Sheet ガイドライン)平成18年3月環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部
http://www.env.go.jp/recycle/misc/wds/main.pdf
このガイドラインの冒頭には次の目的が明記されています。
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廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第137 号。以下「法」という。)に定める産業廃棄物の委託基準では、産業廃棄物の排出事業者は、適正処理のために必要な廃棄物情報を処理業者に提供することとされている。本ガイドラインは、廃棄物の処理過程における事故を未然に防止し、環境上適正な処理を確保することを目的として、排出事業者が提供すべき廃棄物の性状等の情報について具体的に解説し、排出事業者が処理業者へ産業廃棄物の処理を委託する際の廃棄物情報の提供の望ましいあり方を示すものである。
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この「ガイドライン」では、従来使用しているデータシートが、必要な情報項目を満たしている場合には、継続的にそのシートを使用して差し支えないとし、また、データの提出が困難であれば、廃棄物サンプルや発生工程図、既存のMSDS データの提供により対応してもよいとされています。
環境省では、このガイドラインに沿って、WDSが普及し、排出事業者と処理業者の双方向コミュニケーションが促進され、信頼関係構築の一助となることを期待していました。しかし、どうやらこれはあくまでもガイドラインであって、これを守らなくても罰することができないのではないか、ということに、今回の水道水ホルムアルデヒド事件の関係者は、その幕引きの根拠として目をつけたようです。
■DOWAハイテック社ではHMTの廃棄量をゴマ化すために、2社のサンパイ業者に依託し、片方には物質と総量を明記して、焼却させ、もう片方の高崎金属工業にはHMT含有扱いで物質の総量は知らせず、 書類上より含有量が高い産廃物を依託。高崎金属工業では、HMTの記載がないことを理由に、本来であれば、慎重に取り扱うべきところを、中和処理だけを行って、烏川に放流したということになります。
このようにHMTはPRTR法対象の特別管理産業廃棄物であるにも関わらず、今回の事件では、有害物質ではなく、あたかも一般のサンパイのように扱われているのが気になります。
そもそも、廃酸には、焼却法と中和沈殿法という処理方法がありますが、HMTは、焼却法でしか処理ができません。DOWAハイテックは、HMT含有サンパイであることを認識しながら、そのことを処理業者に知らせていなかったことになります。
このことについて、前述の通り、廃棄物処理法では委託契約の際に廃棄物の性質などを書面で告知を義務付けています。高崎金属工業では「DOWAハイテック社から廃液にHMTが含まれていると知らされなかった」とし、DOWAハイテック社は「廃液の分析値の中に(HMTを含む)全窒素があるので、通常の業者なら含まれていることは分かる」と主張しています、
そもそもDOWAハイテックは9年前まで自社内で廃酸液を中和沈殿処理して、2003年にHMTを外部に漏らして大騒動を起こしました。その後は自社処理を止め、焼却処理をするサンパイ業者に廃液処理をさせていたと考えられます。
同じ中和沈殿法を使う高崎金属工業に、HMT含有サンパイ液を処理させればどうなるかは、DOWAハイテック社の担当者も責任者もよく理解していたはずです。DOWAハイテックは「廃液の分析値の中に(HMTを含む)全窒素があるので、通常の業者なら含まれていることは分かる」としていますが、本当に全窒素にHMTが大量に含まれていることがサンパイ処理業界では常識的なことなのかどうかについての、具体的な説明はありません。
うがった見方をすれば、DOWAハイテック社は、これまで焼却処理を委託していたサンパイ業者と何らかの理由でトラブルがあり、廃液処理が滞ってしまい、DOWAの担当者が中和沈殿処理でもバレないだろうと考えて、JFEグループの運搬業者を介して、群馬県のサンパイ業者である高崎金属工業にコンタクトして、わざとHMT含有を隠した状態で廃液処理を委託したことも考えられます。
もしも、これがバレても、「知らなかった。なお、HMTは有害物質でもなく、告知義務もない」と、釈明すればなんとかなると思っていたことも考えられます。
■また、DOWAハイテックは廃酸液60トンを5月10日から6回に分けてタンクローリーで高崎金属工業に搬入しています。1日あたり10トンずつ産廃業者が処理してくれていれば、国の基準を超すホルムアルデヒドが浄水場で発生することは無かったかもしれません。しかし、高崎金属工業では中和沈殿法の設備を効率よく稼働させるため、60トンの廃液搬入が完了した16日以降に一気に処理したことも考えられます。
そうすれば、利根川水系に未処理の高濃度HMT水が一気に大量に流出し、17日以降に下流の浄水場で取水した水を塩素処理したことにより水道水中に、ホルムアルデヒドが発生して検出されることになります。
もし、DOWAハイテックが、HMT含有サンパイ水について「【主成分】全窒素(T-N):○○mg/L」という内容の成分表を出していた場合、高崎金属工業は、「それでは中和沈殿処理して、あとは処理した後の水を、水質汚濁防止法の基準に従って、全窒素(T-N)の最高値が120mg/Lを超えず、日間平均が60mg/Lを越えないように、川に流すことにする」と判断にしたことも考えられます。
■しかし、報道によれば、水道水中のホルムアルデヒドが検出され始めたのは5月15日の庄和浄水場が発端だとされています。高崎金属工業が、いつHMT含有サンパイ液をどの程度受入て、それを、いつどの程度ずつ処理して放流したのかが、現時点では分かりません。したがって、一体何がどうなったのかも、依然として闇の中です。
HMT含有サンパイ液の処理費用についても、中和沈殿処理の場合と、焼却処分では、後者の処理費用のほうが、もの凄く高額になることは自明です。DOWAハイテック社が合計150トンの廃液のうち、90トンはきちんと焼却処分設備がある産廃業者に出してヘキサメチレンテトラミンをきちんと処理したことにしておいて、処理費用と時間を節約するために、残りの60トンを普通の廃液として高崎金属工業に出したことも考えられます。
今回、DOWAハイテック社は、高崎金属工業ともう1社に対しても、HMTを含むことを告げずに、処理を委託していたと考えられます。しかし、前者は60トンを中和処理のみで600m程離れた烏川に流し、後者は90トンを群馬県外の別業者へ再委託して、焼却処分したため、川へは放流しなかったと考えられるため、DOWAハイテック社が2社に提示した内容には、費用を含め、条件的になにか相違があったのかもしれません。
■廃棄物処理法の委託基準として、折角、同法で「産業廃棄物を取り扱う際に注意するべき事項」を契約書に明記するか、MSDSやWDSなどで情報提供する義務が定められているにもかかわらず、「あくまでガイドラインだから」とか、「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)が有害物質ではないから」などという理屈で、「告知義務違反ではない」としたようです。
ガイドラインには、告知義務のある個別の化学物質が限定列挙されているわけではありません。しかし、少なくとも、排出事業者(=委託者)が危険性を認識している化学物質に関しては、処理委託の契約締結時に処理業者に情報提供する方法を定めておかねばなりません。
今回、群馬県も埼玉県も高崎市も、この委託基準に関する詳細な説明を行った気配がありません。たぶん、意図的だったと考えられます。DOWAハイテックは、9年前の2003年にも同様の水質汚染事件を起こしたことについて、埼玉県は逸早く公表していたわけですから、当然「DOWAハイテック社はHMT含有のサンパイが有害であるという事実を知っていた」と認識するのが妥当のはずです。だから、廃棄物処理法に定める委託基準違反に問えたはずですが、なぜか、事件発生後約1カ月近く経過した今、行政指導で幕引きが行なわれました。
■この背景としては、我々一般住民の知らないところで、外部から行政への指導があったものと推察されます。なぜなら、今回の事件で、いろいろ疑問点が浮上しているからです。
とくに、当会がこれまで指摘してきたように、DOWAハイテックからHMT含有廃液のサンパイ処理を委託された高崎金属工業がHMTの排出源と判明したのが、埼玉県から群馬県に通報のあった5月17日午前の段階であり、5月19日と21日には同社に両県と高崎市が立入検査に入っていました。しかし、マスコミを通じて同社が排出源として公表されたのは5月25日でした。
高崎金属工業は、倉賀野工業団地の鍍金組合で出資運営されていますが、なぜかそのことはマスコミで報じられていません。
DOWAハイテック社の親会社は、東証一部上場のDOWAホールディングス株式会社で、傘下にサンパイ業(環境・リサイクル)のDOWAエコシステムがあります。同社は、9年前には、自分でHMTを流して、ホルムアルデヒド汚染騒動を起こして埼玉県から厳重注意されているのに、今回、再度委託者として同様な事件を起こしました。
また、DOWAハイテック社は今回の事件の委託者ですが、同社がHMT含有廃液の収集運搬を委託した先のサンパイ収集運搬業者の名前がJFEグループ会社とされているだけで、具体的な会社名が明らかにされていません。
■埼玉県の環境部産業廃棄物指導課(電話:048-830-3130)は、どの産業廃棄物収集運搬業者に対して、5月28日(月)に、廃棄物処理法第18条に基づく報告徴収を行い、①DOWAハイテック社との産業廃棄物収集運搬委託契約書、②DOWAハイテック社が交付した産業廃棄物管理票を6月1日(金)までに提出するように指示していました。これによりDOWAハイテック社と収集運搬業者との間の委託契約の詳細を明らかにし、不適正な行為が行われていた実態が判明した場合には、必要な措置を講じることができるからです。
DOWAハイテック社から収集運搬業務を委託された業者に関連して、東京新聞が6月4日付群馬版で次の通り報じました。
**********東京新聞2012年6月4日群馬版
ホルムアルデヒド問題 廃液関係書類を提出 埼玉県に横浜の運搬業者
有害物質ホルムアルデヒドの原因物質が利根川水系に大量に流出した問題で、原因物質を含む廃液を化学製品業「DOWAハイテック」(埼玉県本庄市)から産業廃棄物処理業「高崎金属工業」(高崎市)に搬入した横浜市の産廃収集運搬業者から、埼玉県が搬入に伴う契約書や廃液の管理票の提出を受けたことが分かった。(杉本慶一、菅原洋)
★事情知る可能性も 解明に向け調査
埼玉県はDOWAと同工業の間に介在した運搬業者が、問題解明の手掛かりを知る可能性もあるとみて調査している。
運搬業者は大手製造業の系列で、群馬県内に営業所があり、廃棄物の中間処理、再利用、汚泥処理などを幅広く手掛けている。
東京新聞が入手した廃液を試験報告書の写しによると、運搬業者は3月30日に廃液を伊勢崎市の環境関連企業に持ち込んで分析を依頼し、4月4日に結果を受け取った。その後、同工業に報告書の他、廃液のサンプルも渡したとみられる。
報告書には、窒素化合物の総称「全窒素」とは書いてあるが、総省に含まれる原因物質「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)」の記載はなかった。
この点についてDOWAは「全窒素との記載でHMTを含むのが分かるはず」との趣旨の主張をしている。一方、同工業は「全窒素との記載ではHMTを含むとは分からず、知っていたら引き受けなかった」と食い違っており、今回の問題の焦点に浮上している。
またDOWAと同工業の取引は今回が初めてだったが、この運搬業者が仲介したという。埼玉県は、DOWAが廃液の処理を運搬業者に任せきりにしたとみて調べている。
運搬業者DOWAの依頼を受け、5月10~18日に6回、HMTを含む廃液約60トンを同工業に搬入。埼玉県は、同工業の処理設備ではHMTが十分に分解されず、利根川支流の烏川(からすがわ)に排出された可能性が高いとみている。
HMTは首都圏の浄水場で河川水の浄化処理に使う塩素と化学反応し、ホルムアルデヒドになったとされる。
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■これと前後して、東京新聞6月2日付群馬版記事によれば、群馬県と高崎市は6月1日に中間報告を行い、HMTを巡る処理問題で「高崎金属工業には現時点で不手際は確認できない」とし、6月4日の週に、高崎金属工業に再度立入調査をして、DOWAハイテック社との説明の食い違いを確認する予定であるとしていました。
**********東京新聞2012年6月2日群馬版
ホルムアルデヒド 不手際確認できず
県と高崎市中間報告 産廃会社、4度目調査へ
利根川水系から取水する首都圏の浄水場で水道水から有害物質「ホルムアルデヒド」が検出された問題で、群馬県と高崎市は6月1日、中間報告を発表した。原因物質「ヘキサメチレンテトラミン(MHT)」を流出させたとみられる産業廃棄物処理業の高崎金属工業(高崎市)を調査したものの、現時点で不手際は確認できないなどとしている。
県と市によると、同社は5月10~18日、製造業のDOWAハイテック(埼玉県本庄市)から廃液の処理を委託された。問題発覚後の同月29日、市はDOWA側が高崎金属工業に示した廃液の試験報告書、契約書、管理表などを同社に提出させ、立入調査や事情聴取もした。
試験報告書には、窒素化合物の総称「全窒素」とは書いてあるが、総称に含まれるHMTとの記載はなかった。DOWAは「全窒素との記載でHMTと推測できるはず」と主張している。しかし、中間報告発表の記者会見で、県は「全窒素との記載で、直ちにHMTとは分からない。一般的には、二つは結び付かない」と述べ、市も同様の見方を示している。
契約書など提出書類にもHMTの表記はないという。高崎市などは来週にも、高崎金属工業に四度目の立ち入り調査を行うなどして、両社の主張が食い違う点などについて調査を進める。
また県は1日、HMTの適正な管理と処理を、県内の経済団体や産廃業者15社に要請した。
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■ところが、こうした矢先に冒頭の記事の通り、6月7日に、一斉に群馬県、埼玉県、高崎市が揃って幕引き宣言を出したのでした。
背景としては、やはり、日本を代表する大手企業のひとつのJFEグループや、廃棄物処理・土壌浄化・資源リサイクルなどの分野でリーディングカンパニーとして有名なDOWAグループに対して、いろいろな動きが合った結果だとみることができます。
たとえば、DOWAホールディング株式会社代表取締役会長の吉川廣和氏は、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の委員長として活動しています。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keieizaimutyousa/0524keiei_zaimu.pdf
また、JFEホールディングス株式会社相談役(2005年から同社代表取締役社長、2010年から現職)の数土文夫氏は、平成23年4月1日から「NHK経営委員会」の委員になり、平成23年4月12日~24年5月24日まで委員長として活動し、経営委員長を兼務したままで東電の社外取締役に就く意向でしたが、5月24日に任期半ばで突然経営委員長辞任を表明し、同25日に退任し、同30日には委員も辞めました。
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/member/m_sudo.html
また、NHKと東電の癒着関係は以前から有名で、NHKの10年度の財務諸表を見ると、総額927億円の事業債(社債)を保有していることがわかります。公共放送をつかさどる非営利法人が資産運用していること自体が問題ですが、社債の保有金額トップは東電で145億円分を保有、2位以下も中部電68億円、関電65億円、中国電51億円、東北電45億円と、上位5社はすべて電力会社が占めていました。そのためか、地方のNHKの番組審議会メンバーには電力会社の役員がズラリと名を連ねています。
これで、今回の幕引きと、マスコミ、とくにNHKがこの問題について及び腰だったことがよく理解できます。
■この国家テロとも並び称されるほど広範囲に影響を与えた水道水ホルムアルデヒド汚染問題が、あっけなく幕引きされたうらで一体何があったのかをきちんと検証する必要があると思います。当会では、近々、群馬県に対して、関係する情報開示請求を行い、再発防止のための真相究明と責任所在明確化に向けて尽力してみるつもりです。
【ひらく会情報部】