■当会が東吾妻町萩生地区の圃場整備事業で、農道に大同の生スラグが敷砂利として投棄されていた現場をはじめて2014年6月1日に確認して以来、3年10カ月。「臭いものに蓋をしないでほしい」と農道舗装工事施工主体である吾妻農業所長に電話で懇願したにもかかわらず、その直後、有害スラグを撤去せずに舗装工事が行われたため、住民監査請求を2015年1月30日に提出しました。しかし、棄却されたため、2015年4月30日に住民訴訟を提起しました。以来ほぼ3年が経過しようとしていた2018年3月16日(金)午後1時10分に前橋地裁21号法廷で開かれた判決言渡弁論において、裁判長の「主文 原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」という発生が法廷に響き渡りました。この瞬間、大同スラグの不法投棄を追及してきた当会の活動に対して、司法が100%行政側の立場に立ってこの事件を判断していることが明らかになりました。

↑「春の嵐」が吹き荒れる中、大同スラグ訴訟の判決言渡しのあった前橋地裁。↑

↑サクラの蕾も膨らみ始めたばかり。↑
これまでの本件大同スラグ裁判に関する上記の節目については、次の当会のブログを参照下さい。
〇2014年6月5日:敷砂利に大同スラグを使った東吾妻町の農道に急遽舗装を被せ証拠隠滅を図る県環境行政の臭い物にフタ体質↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1309.html#readmore
〇2015年1月30日:大同有毒スラグを斬る!…スラグを撤去せず農道を舗装した県の公金支出に住民監査請求を提出↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1520.html#readmore
〇2015年4月30日:大同有毒スラグを斬る!…東吾妻町萩生地区の農道等への不法投棄問題の解決に向けて住民訴訟を提起↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1602.html#readmore
ここに速報として、判決文の全文を掲載します。
*****判決文*****PDF ⇒ 20180316_1_hanketubun_p118.pdf
20180316_2_hanketubun_p1935.pdf
<P1>
平成30年3月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 清宮貴幸
平成27年(行ウ)第7号 住民訴訟事件
口頭弁論終結日 平成29年12月1日
判 決
群馬県安中市野殿980番地
原 告 小 川 賢
前橋市文京町一丁目15-10
原 告 鈴 木 庸
前橋市大手町一丁目1番1号
被 告 群 馬 県 知 事
大 澤 正 明
同訴訟代理人弁護士 関 夕 三 郎
同 笠 本 秀 一
同指定代理人 富 澤 貞 夫
同 澤 下 勲
同 稲 本 一 秀
同 篠 原 孝 幸
同 油 井 祐 紀
同 安 藤 敏
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,狩野伸雄に対し,649万0800円の賠償の命令をせよ。
第2 事案の概要
<P2>
本件は,群馬県の住民である原告らが,同県が池原工業株式会社(以下「池原工業」という。)との間で同県吾妻郡東吾妻町内の農道の舗装工事(同県吾妻農業事務所(以下単に「吾妻農業事務所」という。)所管)の請負契約を締結し,請負代金649万0800円を支出したことにつき,上記農道に敷砂利として用いられた再生砕石には有害な鉄鋼スラグが含まれるところ,当該再生砕石を撤去することなく請負契約を締結して舗装工事を施工させたことは違法であるなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号ただし書に基づき,同県知事である被告に対し,上記舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令に関する権限の委任を受けていた吾妻農業事務所長狩野伸雄(当時。以下「狩野」という。)に対して上記請負代金に相当する649万0800円の賠償の命令をすることを求めた事案である。
前提となる事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告らは,群馬県の住民である。
イ 吾妻農業事務所長は,群馬県吾妻振興局(旧吾妻県民局)に属する地域機関である吾妻農業事務所の長として,同県知事から,吾妻農業事務所において処理する事務に係る権限のうち,契約に関すること及び支出負担行為に関すること(いずれも設計金額1億円以上の工事費の支出に係るものを除く。)並びに支出命令に関することを含む一部の権限の委任を受けている(群馬県財務規則3条1項)。
[甲10, 乙5]
(2)鉄鋼スラグの環境安全品質基準等
ア 鉄鋼スラグは,鉄鋼製造工程において発生する鉄以外の不純物と石灰が混じった石状の副産物であり,路盤材,セメント材等として広く再利用されている。
<P3>
[甲13,14]
イ 鉄鋼スラグのうち,道路用鉄鋼スラグについては,日本工業規格(JIS)A5015が制定されている。同規格に定める環境安全品質基準(以下単に「環境安全品質基準」という。)は,六値クロムについて溶出量1リットル当たり0.05ミリグラム以下,含有量1キログラム当たり250ミリグラム以下,ふっ素について溶出量1リットル当たり0.8ミリグラム以下,含有量1キログラム当たり4000ミリグラム以下である。
上記基準は,いずれも,都道府県知事等が,土壌汚染対策法に基づき,特定有害物質(六価クロム化合物,ふっ素及びその化合物を含む。)によって汚染されており,当該汚染の拡散の防止その他の措置を講ずることが必要な区域として,土地の区域を指定する場合の土壌溶出量基準及び土壌含有量基準と同一である(開法6条1項1号,64条,同法施行規則1条2項3号,31条1項(別表第3),2項(別表第4)等参照)。また,上記基準のうち,溶出量の基準は,環境基本法に基づき定められた土壌の汚染に係る環境基準(人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましいとされる基準)と同一である(同法16条1項,平成3年環境庁告示第46号参照)。
[甲7,48]
ウ なお,鉄鋼スラグについては,資源の有効な利用の促進に関する法律に基づき,製鉄業及び製鋼・製鋼圧延業に属する事業を行う者の鉄鋼スラグの発生抑制等に関する判断の基準となるべき事項として,①事業者は,鉄鋼スラグの利用を促進するため,道路用鉄鋼スラブに加工する場合には,日本工業規格A5015により,有効な用途に応じた製品となるよう,鉄鋼スラグを加工するものとする,②自ら鉄鋼スラグの利用のための加工を行い得ない場合には,当該加工を行い得る者に販売し,又は加工の委託をするものとする等と定められている(同法10条1項,平成13年経済産
<P4>
業省令第55号6条1号,7条等参照)。
(3)農道の整備工事,鉄鋼スラグを含有する再生砕石の使用等
ア 本件ほ場整備事業の施行
平成22年6月10日,国庫補助事業として,群馬県吾妻郡東吾妻町萩生川西地区(以下単に「萩生川西地区」という。)に係る農山漁村地域整備交付金県営農地整備事業(萩生川西地区県営農地整備事業又は萩生川西地区県営土地改良事業とも呼称される。以下「本件は場整備事業」という。)が採択された。本件ほ場整備事業は,土地改良法に基づく土地改良事業(区画整理)であり,施行地域を萩生川西地区とし,工事期間を平成22年度から平成28年度まで,工事完了公告を平成29年度中と予定し,萩生川西地区を「区画整理1工事」から「区画整理8工事」までの8区に分け,順次,農地の区画整理,水路及び農道の整備等を進めるものであった。
[乙19]
イ 本件農道整備工事の施工等
(ア)群馬県は,平成25年3月19日,南波建設株式会社(以下「南波建設」という。)との間で,上記8区全体の補完工事(道路工,用水路工,排水路工及び整地工。以下「本件補完工事」という。)について,以下の請負契約(以下「本件補完工事契約」という。)を締結した。
① 工事名:萩生川西地区 区画整理補完3工事
② 工事場所:群馬県吾妻郡東吾妻町大字萩生地内
③ 工期:同日から同年6月28日まで
④ 請負代金:4273万5000円(内税)
本件補完工事には,「区画整理5工事」区域内にある農道の道路工として,支道6号(西側部分に限る。),支道7号,耕道7号,耕道8号及び支道27号(以下「本件農道」という。)の敷砂利工(以下「本件農道整備工事」という。本件農道整備工事が敷砂利工としてそれ自体完
<P5>
結したものであったか,その後の舗装工を予定したものであったかについては争いがある。),既道4号,支道8号及び支道9号の舗装工等が含まれていた。
(イ)群馬県は,平成25年6月7日,南波建設との間で,本件補完工事契約について,工事内容を変更し,請負代金を4142万2500円(内税)に減額する合意をした。
(ウ)南波建設は,平成25年6月28日,本件補完工事を完成させた。
(エ)群馬県は,平成25年7月19日,南波建設に対し,本件補完工事契約の請負代金4142万2500円を支払った。
[甲8,10,20,乙20]
ウ 本件農道整備工事における鉄鋼スラグを含有する再生砕石の使用
(ア)群馬県県土整備部監理課建設政策室長は,平成22年10月15日付けで,鉄鋼スラグの使用は再生資源の有効活用につながるとして,砕石骨材(クラッシャラン:C-40及びC-100)に電気炉クラッシャラン鉄鋼スラグ(CS-40)を混合した骨材の取扱いを定めた通知(以下「本件監理牒通知」という。)を発出した。本件監理課通知は,上記混合した骨材について,原則としてコンクリート再生骨材(RC)と同様に取り扱うものとし,車道用下層路盤工において,C-40とCS-40とを混合した骨材はRC-40と同様に取り扱うものとしている。
ただし,路床工,路面敷砂利には使用しないとしている。
(イ)南波建設は,本件農道整備工事において,「スラグ混合再生路盤材(RC40)」と呼称される砕石を使用した(以下当該砕石のうち本件農道整備工事に使用されたものを「本件再生砕石」という。)。
(ウ)「スラグ混合再生路盤材(RC40)」は,大同エコメット株式会社(以下「大同エコメット」という。)が,大同特殊鋼株式会社(以下「大同特殊鋼」という。)から委託を受け,大同特殊鋼渋川工場において発
<P6>
生した鉄鋼スラグ(以下「渋川工場スラグ」という。)を処理し,天然砕石と混合することにより製造した再生砕石(上記(ア))に従い,RC-40と同様に取り扱われる。)である。これを株式会社佐藤建設工業(以下「佐藤建設」という。)が大同特殊鋼から購入して南波建設に販売し、南波建設が本件農道整備工事に使用したものである。
[甲9,15,17,27,28,41,44,57,乙2]
(4)渋川工場スラグに関する問題の発覚
群馬県環境森林部は,平成26年1月27日,大同特殊鋼が,渋川工場スラグを業者に販売する際,販売価格を上回る運搬費等を業者に支払うといういわゆる逆有償取引をした疑いがあるなどとして,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)19条1項による大同特殊鋼渋川工場の立入検査をし,翌28日には当該立入検査に関する報道がされたが,その際,既に,群馬県渋川市において,渋川工場スラグを使用して整備した道路及び駐車場から環境安全品質基準を上回る六価クロム等が検出されていたことが併せて報道された。
[甲13,14]
(5)本件舗装工事契約の締結,本件舗装工事の施工等
ア 群馬県は,平成26年6月12日,池原工業との聞で,本件農道の舗装を内容とする工事(以下「本件舗装工事」という。)について,以下の請負契約(以下「本件舗装工事契約」という。)を締結した。
① 工事名:萩生川西地区農道舗装工事
② 工事場所:群馬県吾妻郡東吾妻町大字萩生地先(本件農道)
③ 工期:同日から同年7月31日まで
④ 請負代金:529万2000円(内祝)
[甲21,乙19,28]
イ 群馬県は,平成26年7月11日,池原工業との間で,本件舗装工事契
<P7>
約について,工事内容を変更し,請負代金を649万0800円(内税)に増額する合意をした。
[甲21,乙29]
ウ 池原工業は,平成26年7月31日,本件舗装工事を完成させた。
[甲10]
エ 群馬県は,平成26年8月18日,池原工業に対し,本件舗装工事契約の請負代金649万0800円を支払った。
[甲10]
オ 本件舗装工事契約の締結,上記イのエ事内容の変更等の合意及び上記エの請負代金の支払の当時の吾妻農業事務所長は,狩野であった。
[乙28~30]
カ なお,本件舗装工事契約の請負代金は,地域公共事業調整費から支出された。
地域公共事業調整費は,行政県税事務所が地域の政策課題に機動的かつ柔軟に対応することにより,自主的かつ主体的に地域の振興及び活性化を図ること並びに複数分野に関わる基盤整備に対応することを目的とする地域調整費の一種であり,その使途は,①環境森林事務所,森林事務所,農業事務所及び土木事務所が事業主体となって実施する公共事業の経費で,地域総合行政及び地域振興行政の椎遂に資する公共事業に要する経費のうち,複数分野に関わるものに要する経費,②その他,上記目的を達成するために行政県税事務所長が特に必要と認めた事業に要する経費とされている。
[乙4,27~30]
(6)原告らの住民監査請求及び監査の結果
ア 原告らは,平成27年1月30目,群馬県監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づき,おおむね以下の内容を記載した請求書による住民
<P8>
監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした(下記490万円は,本件舗装工事契約の当初の請負代金額529万2000円の外税価格である。)。
(ア)吾妻農業事務所は本件農道にいわば蓋をする目的で,池原工業と本件舗装工事契約を締結し,原告らが再三にわたり大同特殊鋼に由来する有害な鉄鋼スラグを撤去しないまま本件舗装工事を施工しないよう申し入れたにもかかわらず,本件舗装工事を強行した。群馬県が大同特殊鋼に鉄鋼スラグを撤去させていれば,本件舗装工事は実施する必要がなかったし,また,今後,大同特殊鋼が鉄鋼スラグを撤去することになった場合には,舗装を剥ぎ敢る必要があるから,本件舗装工事の請負代金490万円を無駄に消費したことになり,同県に対し,同額の損害を与えた。
本来,最少のコストで最大の効果を上げるために使わなければならない公金を上記のように支出したことは,同県民に対する裏切りである。
(イ)よって,原告らは,群馬県監査委員に対し,同県知事及び本件舗装工事の支出手続に関わった全ての関係者から490万円を同県に対して返還させることを,同県知事に勧告することを求める。
[甲1~3]
イ 群馬県監査委員は,本件監査請求につき,原告らが,群馬県知事又は関係職員が本件舗装工事の施工により公金490万円を支出したことは地方自治法242条1項に規定する公金の不当な支出に当たる旨を主張するものと解した上で,平成27年3月30日,本件舗装工事に係る公金の支出について違法又は不当というべきものはなく,原告らの請求に理由がないものと認め,本件監査請求を棄却する旨の監査の結果を記載した書面を原告らに発し,当該書面は,同月31目,原告らに到達した。
[甲10]
2 争点及び当事者の主張
<P9>
(1)(本案前の争点)本件訴えが住民監査請求前置の要件を充たすか否か。
(原告らの主張)
原告らは,前提となる事実(6)のとおり,適法な住民監査請求をし,監査委員がこれを棄却したことから,本件訴えを提起したものであり,本件訴えは,住民監査請求前置の要件を充たし,適法である。
(被告の主張)
原告らは,本件監査請求において,本件舗装工事は公金の不当な支出に当たる旨を主張し、違法な財務会計上の行為又は怠る事実を主張しなかった。
本件訴えにおける違法な行為に係る請求は,本件監査請求において対象としていなかった違法な行為を新たに請求の対象とするものであり,適法な住民監査請求を経ていない。したがって,本件訴えは,不適法である。
(2)(本案の争点)本件舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令に関する狩野の行為につき,狩野が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたことにより群馬県に損害を与えたと認められるか否か(特に当該行為の違法性の有無)。
(原告らの主張)
以下のとおり,本件舗装工事は,本来必要がなく,撤去されるべき本件再生砕石を撤去しないまま違法な目的で締結された本件舗装工事契約に基づき施工されたものであり,地域公共事業調整費の目的にもなじまない。
ア 本件舗装工事は,本来必要のないものであったこと
本件農道整備工事は,次のとおり,敷砂利工としてそれ自体として完結しており,本来,本件舗装工事を施工する必要はなかった。
(ア)本件農道整備工事に係る計画平面図等において「敷砂利」という文言が使用されており,本件農道整備工事は,敷砂利工としてそれ自体で完結的なものであった。
(イ)被告は,本作農道整備工事がステージコンストラクション(一度に表
<P10>
層まで完成させずに,まず路盤までを施工し,その後段階的に表層まで完成させていく施工方法)の第1段階である下層路盤工であり,本件再生砕石はその路盤材として用いられた旨主張するが,下層路盤エの施工に当たっては,計画面からの掘削を行うほか,綿固め度95パーセントになるように転圧して開放するところ,本件農道整備工事はこれらをいずれも伴わない。
(ウ)本件再生砕石が路盤材として用いられたとすると,第1段階の路盤材と第2段階の路盤材とが異なることとなるが,ステージコンストラクションの施工に当たっては,同一の材料を用いて下層路盤工を行わなければ,締固め度の管理ができず不合理である。
(エ)本件舗装工事において,支道27号に11センチメートルもの補足材を足しだのは,敷砂希|」工であったことを隠ぺいするためであり,下層路盤工を段階的に施工したという被告の主張には無理がある。
イ 本件再生砕石は,撤去されるべきであること
(ア)群馬県は,渋川工場スラグを産業廃棄物と認定した。渋川工場スラグは,鉱さいとして産業廃棄物に該当し(廃棄物処理法2条4項1号,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条8号),ふっ素による土壌汚染の可能性又はおそれがあり,人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有しているから,特別管理産業廃棄物(廃棄物処理法2条5項,同令2条8号,2条の4第5号へ)に該当する。産業廃棄物は,廃棄物処理法所定の産業廃棄物処理施設において処理されるべきであり,特別管理産業廃棄物は,廃棄物処理法所定の遮断型最終処分場に理立処分されるべきである(廃棄物処理法15条1項,同令7条14号)。渋川工場スラグは,適切に処理しなければ,将来確実に地下水汚染を誘発する。
本件再生砕石は,渋川工場スラグを含有するところ,その製造,流通
<P11>
過程に関わった大同特殊鋼,大同工コメット及び佐藤建設は,いずれも鉱さいに関する廃棄物処理法上の産業廃棄物処理業の許可を有しておらず,このような業者が製造し,販売した材料を本件農道整備工事に使用することは廃棄物処理法1条(目的)に反し許されない。
したがって,群馬県は,同県知事が廃棄物処理法19条の3に基づく改善命令又は廃棄物処理法19条の5若しくは19条の6に基づく措置命令をする等して,大同特殊鋼,佐藤建設又は南波建設に本件再生砕石を撤去させなければならなかった。
(イ)群馬県土木工事標準仕様書は,受注者は路盤の施工に先立って路床面又は下層路盤面の浮石,その他の有害物を撤去しなければならないと定めており,本件舗装工事前に本件無道の本件再生砕石を撤去することが要請されていた。
(ウ)本件監理課通知は,鉄鋼スラグを混合した骨材を敷砂利に使用することを禁止しており,本件農道整備工事において敷砂利として本件再生砕石を用いたことは,本件監理課通知に反する。
(エ)上記(ア)から(ウ)までによれば,本件再生砕石は,ふっ素の含有量等が環境基準等を超えているか否かにかかわらず,撤去されるべきである。
ウ 本件舗装工事契約の締結の目的が違法であること
吾妻農業事務所長であった狩野は,遅くとも群馬県環境森林部による立入検査について報道がされた平成26年1月28日には、渋川工場スラグの有害性及び産業廃棄物該当性を知っていたにもかかわらず,本件農道に本来撤去されるべき本件再生砕石が敷砂利として使用されている事実を隠ぺいし,蓋をするという違法な目的で,本件再生砕石を撤去させることなく本件舗装工事契約を締結した。
エ 地域公共事業調整費の目的になじまないこと
本件舗装工事契約の請負代金は,地域公共事業調整費から支出されたと
<P12>
ころ,本件舗装工事契約は,上記ウのとおり,違法な目的で締結されたものであるから,地域公共事業調整費の目的にもなじまない。
以上を総合すれば,本件舗装工事に係る支出負担行為は,吾妻農業事務所長であった狩野が有する合理的な裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであり,地方自治法2条14項所定のいわゆる最少経費最大効果原則に違反する違法なものである。そして,これに続く支出命令も違法である。
よって,狩野は,故意又は重大な過失により地方自治法2条14項に違反して本件舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令をしたことにより群馬県に損害を与えたものであるから,群馬県に対し,同法243条の2の2第1項の損害賠償責任を負う。仮に,当該支出負担行為及び支出命令が,狩野の補助職員が専決したものであったとしても,狩野には当該補助職員に対する指揮監督上の義務違反があるから,同項の損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
本件舗装工事に係る支出負担行為は,狩野ではなく,吾妻農業事務所農村整備課長であった片山茂(以下「片山」という。)が専決し,本件舗装工事に係る支出命令も,狩野ではなく,吾妻農業事務所農業振興課長であった門倉祐司(以下「門倉」という。)が専決したところ,以下のとおり,本件舗装工事に係る支出負担行為について,裁量権の逸脱濫用を基礎付ける事情はなく,地方自治法2条14項所定の最少経費最大効果原則に適合することはあっても,これに違反することはない。これに続く支出命令についても,違法な点はない。
ア 本件舗装工事が必要であったこと
(ア)本件再生砕石は,本件農道のステージコンストラクションの第1段階として行われた本件農道整備工事の際に下層路盤工の路盤材として用いられたものであり,本件舗装工事は,その最終段階として施工されたものである。敷砂利として完結的に用いられたものではない。
<P13>
(イ)農道についてステージコンストラクションの方法を用いる場合には,下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,交通開放を行って圧密沈下等の促進を図り,その後状況を判断して,段階的に施工することが多い。
本件農道についても、ステージコンストラクションの方法が用いられ,本件長道整備工事により下層路盤工までを施工した後,交通開放を行った上で本件舗装工事をしたものである。
ステージコンストラクションの第1段階の工事では,設計図書上「敷砂利」と表記することが通常であるから,そのような表記があったとしても,ステージコンストラクションであることは否定されない。
(ウ)原告らは,本件農道整備工事において,締固め度95パーセントになるように転圧していないこと,本件舗装工事で使用された補足材の厚み等を指摘するが,転圧はステージコンストラクションの第2段階で行うものであるし,路床が比較的軟弱なほ場内農道では,第1段階の工事での路盤厚を抑え、第2段階の舗装工事において厚く補足することは一般的である。
イ 本件再生砕石の撤去の必要がなかったこと
(ア)群馬県は,本件農道整備工事に先立ち,南波建設から本件再生砕石の使用材料承認願いの提出を受けた。承認願いには,「鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン」により要請される成分の環境基準適合性の試験,「再生資源の利用に関する実施要領」により要請される物性値(材料試験成績書)の試験及び本件監理課通知により要請される膨張性試験の3つの試験の結果が添付されており,いずれの試験も指定期間内に行われ,その結果も基準を充たしていたことから,群馬県は,本件再生砕石の使用を承認した。
(イ)群馬県は,渋川工場スラグについて廃棄物処理法違反の疑いが報道さ
<P14>
れた後,平成26年4月頃,土壌汚染対策法上の指定調査機関であるプロファ設計株式会社(以下「プロファ設計」という。)に対し,渋川工場スラグを含有する砕石が用いられた路線について,有害物質の含有量及び溶出量等の測定調査を行わせた。測定調査の対象路線に本件農道は含まれないが,本件補完工事において道路工が行われた萩生川西地区の他の路線が含まれていた。測定調査の結果,全ての調査対象地点において,ふっ素及び六価クロムに関し環境安全品質基準を充たすことが確認された。
群馬県は,上記測定調査の結果により,本件農道整備工事と同時期に用いられた本件再生砕石と同種の再生砕石について,環境安全品質基準を充たしていることが確認されたため,本件再生砕石についても同様に環境安全品質基準が充たされていると判断し,本件舗装工事契約を締結した。
渋川工場スラグが鉱さいとして産業廃棄物に当たり得るとしても,本件再生砕石については,上記のとおりその安全性が確認されていたのであるから,廃棄物処理法上の措置命令の要件に当たらない。また,廃棄物処理法上の改善命令については,本件農道整備工事は,改善命令の対象となる者によって行われた行為ではない。なお,本件鉄鋼スラグは,特別管理産業廃棄物には該当しない。
仮に,将来的に本件農道から環境基準等を超えるふっ素又は六価クロムが検出されるおそれがあるとしても,本件舗装工事によって本件再生砕石を覆うことにより,有害物質を土壌から直接経口摂取し,又は皮膚から摂取するリスクを除去することができる。原告らは地下水汚染の点をいうが、少なくとも,本件舗装工事契約の締結の時においては,渋川工場スラグが使用された箇所について地下水汚染が確認された箇所はなかった。
<P15>
(ウ)原告らは,産業廃棄物処理業の許可を有しない業者による流通過程を経た材料を使用することは廃棄物処理法1粂に反し許されないと主張するが,同条は廃棄物処理法の目的を定める一般的な規定にすぎない上,廃棄物処理法違反の有無は事業者について問題となるものであるから,本件舗装工事自体の適法性を左右するものではない。
(エ)原告らが指摘する群馬県土木工事標準仕様書は,舗装の仕上がりに障害となる不要物を取り除く趣旨であり,有害な化学物質を想定するものではない。
(オ)原告らが指摘する本件監理課通知違反の点については,敷砂利としての使用を前提とするものであるから,本件には該当しない。
(カ)以上によれば,本件再生砕石について,本件舗装工事契約の締結に先立ち,廃棄物処理法に基づく改善命令又は措置命令等によって撤去されるべきであったということはできない。
ウ 本件舗装工事契約の締結の目的が正当であること
(ア)本件舗装工事は,渋川工場スラグの有害性の問題が発覚する前からステージコンストラクションの最終段階として予定されており,その目的は,農業生産性の向上による農業振興と地域住民等の便益の増進にあり,原告らの主張するような,本来撤去されるべき本件再生砕石が敷砂利として使用されている事実を隠ぺいするといったものではない。
(イ)本件農道は,急勾配であり,未舗装のままにしておくと下層路盤工として敷設した砕石が散逸しやすく,砕石の補充が必要になりやすい箇所,営農上の取水施設の操作場所に通じる道路であり通行必要性が高い箇所及び山際に位置し未舗装のままにしておくと路面の陥没やぬかるみ等のため危険や不便が生じるおそれがある箇所があり,可及的早期に舗装工事を行う必要があり,関係者からの要望意見があった。
(ウ)渋川工場スラグの問題が新聞等で報道されたため,末舗装のままにし
<P16>
ておくと住民の不安を招いたり,農作物の風評被害に波及したりすることが懸念され,それを未然に防止する必要性もあったが,それは,本件舗装工事の施工時期を若干前倒しした理由の一つにすぎない。
エ 地域公共事業調整費の目的にかなうこと
本件は場整備事業は,中山間地域の限られた農地で営農条件も厳しい地区の農地整備を行うことで,農業生産性の向上や営農経費の軽減,地域農業の主体となる担い手の育成等を目的とする事業であり,農業生産基盤の整備によって耕作放棄地の発生が防止され,国土保全も図られるとともに、
地域で生産される農作物のブランド化による地域活性化など,その効果は多方面に生じ得る。また,地域公共事業調整費を用いずに,事業費を本件ほ場整備事業予算から支出する場合には,工事への着手が遅延し,本件舗装工事を早期に実施することはできなかった。
これらの点からすれば,本件舗装工事についての支出は,地域公共事業調整費の目的にかなうというべきである。
第3 当裁判所の判断
本案前の争点(本件訴えが住民監査請求前置の要件を充たすか否か)について
(1)住民監査請求の対象は,当該住民監査請求において請求人が何を対象として取り上げたのかを、請求書の記載内容等に照らして客観的,実質的に判断すべきである。
(2)前提となる事実(6)のとおり,原告らは,本件監査請求において,群馬県知事及び本件舗装工事の支出に関係した全ての職員の財務会計上の行為を対象とし,当該行為をした者から本件舗装工事の請負代金を群馬県に対して返還させることを同県知事に勧告することを求めたものであるところ,原告らが監査委員に提出した請求書及び事実証明書(甲j~3)の各記載内容を併せ考えれば,明示されてはいないが,原告らは,当該行為につき,少なくとも
<P17>
地方自治法2条14項違反を主張していたものと認められる。
そうすると,原告らが本件監査請求において違法な財務会計上の行為又は怠る事実を主張していなかったことを前提とする被告の本案前の主張は採用することができず,本件訴えは,住民監査請求前置の要件を充たした適法なものというべきである。
前提となる事実(6)のとおり,監査委員が,本件監査請求につき,原告らが公金の不当な支出に当たる旨を主張するものとして監査を開始したことは,上記認定判断を左右しないというべきである。
(3)なお,住民監査請求の制度においては,監査委員は,住民監査請求の対象とされた行為又は怠る事実につき違法,不当事由が存するか否かを監査するに当たり,住民が主張する事由以外の点にわたって監査することができないとされているものではなく,住民の主張する違法,不当事由や提出された証拠資料が異なることによって住民監査請求が別個のものになるものではない。そして,住民監査請求の制度は,住民訴訟の前置手続として,まず当該普通地方公共団体の監査委員に住民の請求に係る行為又は怠る事実について監査の機会を与え,当該行為又は怠る事実の違法,不当を当該普通地方公共団体の自治的内部的処理によって予防し,是正させることを目的とするものであるところ,住民監査請求の前置を定める地方自治法242条の2第1項においては,住民監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実について住民訴訟を提起すべきものとされているのであって,当該行為又は怠る事実について住民監査請求を経た以上,住民訴訟において住民監査請求の理由として主張した事由以外の違法事由を主張することは何ら禁止されていないと解するのが相当であり,また,住民訴訟において主張する違法な行為又は怠る事実について,住民監査請求においては専ら当該行為又は怠る事実の不当を主張するにとどまったとしても,当該行為又は怠る事実について住民監査請求を経た以上は,住民監査請求前置の要件を充足するというべきである。
<P18>
この点においても,被告の本案前の主張を採用することはできない。
2 本案の争点(本件舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令に関する狩野の行為につき,狩野が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたことにより群馬県に損害を与えたと認められるか否か(特に当該行為の違法性の有無))について
(1)吾妻農業事務所長は,契約及び支出負担行為(いずれも設計金額1億円以上の工事費の支出に係るものを除く。)並びに支出命令について,群馬県知事から権限を委任されているが(群馬県財務規則3条1項。前提となる事実(1)イ参照),これらのうち,契約及び支出負担行為については,いずれも設計金額5000万円以上の工事費の支出に係るものを除き,農業振興課長,農村整備課長又は農村整備センター長に専決させることができ,支出命令については,農業振興課長に専決させることができる(同規則8条,同県事務専決規程13条,同県委任事務専決要綱3条。甲10)。
そして,本件舗装工事契約(請負代金額529万2000円)及びその変更(変更後の請負代金額649万〇800円)については,当時の吾妻農業事務所農村整備課長であった片山が専決し,変更後の請負代金額649万0800円の支出に係る命令については,当時の吾妻農業事務所農業振興課長門倉が専決したと認められる(乙28~30)。
そうすると,狩野は,吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長の本件舗装工事に係る支出負担行為又は支出命令に違法があり,狩野が吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長の本件舗装工事に係る違法な支出負担行為又は支出命令を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は重大な過失により当該違法な支出負担行為又は支出命令を阻止しなかったときに限り,当該違法な支出負担行為又は支出命令により群馬県が被った損害につき
賠償責任を負うべきである。
そこで,狩野の指揮監督上の義務違反の有無及び故意又は重大な過失の有
<P19>
無の検討に先立ち,吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長がした本件舗装工事に係る支出負担行為又は支出命令に地方自治法2条14項に反する違法があるか否かを検討する。
(2)前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の知見,事実等が認められる。
ア 農道整備に関する知見
(ア)土地改良事業計画設計基準・設計「農道」(以下「計画設計基準」という。)に係る基準(農林水産省事務次官通知)及び基準の運用(農林水産省農村振興局長通知)は,農道は基幹的農道又はほ場内農道に分類されるとし,このうち,基幹的農道は農業生産活動,農産物流通等の農業用の利用を主体とし,農村の社会生活活動にも利用される農村地域の基幹的な農道であるとし,ほ場内農道はほ場への通作,営農資材の搬入,ほ場からの農産物の搬出等の農業生産活動に利用される農道であり,幹線農道(集落とほ場区域,ほ場区域相互間,一般道路や基幹的農道とほ場区域,ほ場区域と生産・加工・流通施設等をそれぞれ結ぶ主要な農道),支線農道(幹線農道から分岐し,ほ区,耕区に連絡する農道では場内作業のための往来,肥料,農薬等の営農資材の搬入,収穫物のほ場からの搬出に用いられる農道)又は耕作道(収穫,防除作業等に利用するため耕区の境界部又は耕区内に設けられる農道)の3つに細分化されるとする。
計画設計基準に係る基準及び運用の解説は,農道の設計に当たっては,基幹的農道及びは場内道路のうち2車線の幹線農道は,原則として道路の一般的技術的基準を定めた道路構造令に準拠し,その余のは場内農道は,計画設計基準を優先して適用することを基本としている。
[乙10の1・2]
<P20>
(イ)計画設計基準に係る技術書は,軟弱路床に対する改良工法の一としてステージコンストラクションを掲げる。ステージコンストラクションは,交通上やむを得ない場合を除き,一度に表層まで完成させず,まず路盤まで施工し,その後状況を判断して段階的に舗装を完成させていく施工方法である。路床及び路盤状況が複雑でその明確な把握が困難な場合や,軟弱路盤のように経年変化等に伴いその性状が変化するものに対して,一定の期間の交通開放を行い,その状態によって目的とする舗装構造を決定し,段階的に施工していくものであり,経費面から,また舗装構造の安全設計という面からも期間的な制約が許されるならば有利になることが多いとされている。
ステージコンストラクションの方法は,舗装構造により若干考え方を異にするが,一般的にはそれぞれの路線で設計期間を設定してその舗装厚を設計し,第1段階では上層路盤までを施工し,その後,一定期間内に第2段階として表層のアスファルト舗装を行う方法が用いられ,水田地帯等の軟弱な路床に設置される農道については,盛土工法,置換工法等で路床改良を行い,第1段階で下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,工事用車両等の限定された範囲での交通開放を行って圧密沈下等の促進を図り,その後その伏況を判断して順次段階的に施工していくとされている。
[乙9]
(ウ)群馬県土木工事標準仕様書は,土木工事中の一般舗装工について,受注者は路盤の施工に先立って路床面又は下層路盤面の浮石,その他の有害物を除去しなければならないと定め,また,ほ場整備工における道路工について,敷砂利は(特に指示があった場合を除き)道路舗装用下層路盤材(RC40)を用い,極端な材料分離を起こさぬよう施工するものとすると定めている。
[甲40,乙12,17]
<P21>
イ 鉄鋼スラグ製品の利用等
(ア) 鉄鋼メーカー及び鉄鋼スラグ製品の製造販売メーカーらの業界団体である鉄鋼スラグ協会が策定した「鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン」は,鉄鋼スラグ製品の販売者として遂行すべきことを定めるところ,鉄鋼スラグ製品の品質管理に関して,環境基準に係る分析検査は原則として計量証明事業者として登録されている第三者機関により1年に1回以上行うこと,JIS,国・自治体の各種仕様書等で定められている品質規格等を需要家から求められた場合にはそれぞれに規定する規格等に適合し出荷検査に合格したものであること等を,鉄鋼スラグ製品の販売管理に関して,受注を決定し製品を納入する場合には需要家との契約条件に従って試験成績表等を提出すること等を定める。
なお,上記ガイドラインは,廃棄物処理法に従って鉱さいとして処理される産業廃棄物としての鉄鋼スラグについては,日本鉄鋼連盟策定の「産業廃棄物処理業者に処理を委託する鉄鋼スラグの管理指針」によるものとしている。
[乙1]
(イ)群馬県が策定した「再生資源の利用に関する実施要領」は,建築副産物(セメントコンクリート塊,アスファルトコンクリート塊)の処理方法,再生材の利用,再生材を使用できる工程等を定めるところ,再生費材を使用できる工種は車道用下層路盤工,路床工,路面敷砂利等とし,再生材の利用等については施工条件明示書に記載し契約事項とすることとし,再生材の使用に関する取扱基準は「建設副産物から生産した再生材の使用に関する仕様書」によるものとするなどとしている。
上記仕様書は,同県県土整備部が使用する再生材(建設工事に伴い生じたセメントコンクリート塊及びアスファルトコンクリート塊等を再利用する目的をもって加工生産した再生骨材及び再生加熱アスファルト混
<P22>
合物)に関する取扱いを定めるところ,再生骨材の1つとして再生砕石(RC-40)を掲げ,その品質規格を定め,受注者は再生骨材を使用する場合には使用半年以内の材料試験成績書を監督員に提出し承諾を受けるものとするなどとしている。
[乙2]
(エ)本件監理課通知は,砕石骨材(クラッシャラン:C-40及びC-100)に電気炉クラッシャラン鉄鋼スラグ(CS-40)を混合した骨材の取扱いを定めるところ(前提となる事実(3)ウ(ア)参照),上記混合した骨材につき,CS-40が混合されていることから,混合前のCS-40につき使用1か月以内の水浸(蒸気)膨張性試験の結果を提出させ,環境基準適合性に関しては,鉄鋼スラグに残留のおそれがある5品目(六価クロム化合物並びにふっ素及びその化合物を含む。)に限り,混合した骨材につき土壌汚染対策法所定の土壌溶出量基準及び土壌含有量基準(前提となる事実(2)イ参照)と同等の基準を用いた溶出・含有試験の結果を提出させる等としている。
[甲9]
ウ 本件農道整備工事における本件再生砕石の使用等
(ア)群馬県は,平成25年3月19日,南波建設との間で,本件補完工事契約を締結し,南波建設は,その頃,本件補完工事に着工した。
計画設計基準上,「区画整理5工事」区域内の農道のうち,支道6号,支道7号及び支道27号は支線農道に,耕道7号及び耕道8号は耕作道に当たる。
[甲8,19,乙19,20]
(イ)南波建設は,平成25年4月3日頃,吾妻農業事務所に対し,「区画整理5工事」区域内の道路工に使用する「再生砕石RC40一0」(大同エコメット製造・大同特殊鋼販売の「スラグ混合再生路盤材(RC4
<P23>
0)」である。)について事前承認願いを提出し,同日頃,その承認を受けたが,当該事前承認願いに添付した試験結果報告書のうち膨張安定性試験報告書が同年2月17日から同月20日までの試験結果を報告するものであったため,吾妻農業事務所から,使用1か月以内のもの(上記イ(ウ)参照)を再提出するよう求められた。
南波建設は,同年4月25日頃,吾妻農業事務所に対し,本件補完工事の使用材料の配合報告・使用承認願いを追加提出し,その際,「区画整理5工事」区域内の道路工に使用する「再生砕石RC40-0」の同月23日付け試験結果報告書も提出した。
追加提出された試験結果報告書は,①「建設副産物から生産した再生材の使用に関する仕様書」所定の材料試験成績書に当たる公益財団法人群馬県技術センター作成の平成24年11月29F]付け試験結果通知書,②本件監理課通知所定の膨張性試験の結果に当たる大同エコメット作成の平成25年4月10日付け膨張安定性試験報告書,③本件監理課通知所定の溶出・含有試験の結果に当たる株式会社分析センターが平成24年6月1日に実施した環境基準適合性試験の結果を記載した「スラグ混合下層路盤材(RC-40)試験成績書jから成るものであり,その内容は,いずれも所定の基準等を充たすものであった。
[甲15,17]
(ウ)吾妻農業事務所の職員は,南波建設から上記(イ)の膨張安定性試験報告書が再提出されるのを待っていた平成25年4月23日,南波建設関係者と共に,県営萩生川西土地改良事業推進協議会第24回工事委員会に出席した。同委員会において,地元関係者から,「区画整理5工事」区域内の勾配の急な路線の舗装の要望が出され,吾妻農業事務所の職員は,「区画整理5工事」区域内に限らず,急勾配の路線,維持管理上必要な路線,営農上利用状況の多い路線については,優先度,予算の状況等を
<P24>
考え,舗装をしていきたいと回答した。
なお,「区画整理5工事」区域内の農選のうち,支道6号,耕道7号及び耕道8号は勾配が急な箇所があり,文選7号は取水施設に通ずる路線で取水管理のために通行する必要があり,支道27号はこれに接する山林からの出水等によりぬかるみやすい箇所がある等の事情があった。
[乙3,16]
(エ)群馬県及び南波建設は,平成25年6月7日,本件補完工事契約について変更合意をした際,「区画整理5工事」区域内の支選6号線(敷砂利工の対象である西側部分以外の部分)は土取山のすぐ脇にあり,土取山へのダンプカーの往来により舗装の沈下が懸念されることから,その舗装工事を本件補完工事から除外し,最終的な工事での対応とする旨の工事内容の変更をした。
[甲20]
(オ)南波建設は,平成25年6月28日,本件補完工事を完成した。
(カ)南波建設は,吾妻農業事務所の承認を受けた「再生砕石RC40-0」すなわち大同エコメット製造・大同特殊鋼販売の「スラグ混合再生路盤材(RC40)」を本件農選整備工事に使用したほか,「区画整理5工事」区域内の既道4号,支道8号及び支選9号の舗装工のための下層路盤工又は路盤工に使用した。
[甲8,19,乙14,20]
エ 渋川工場スラグに関する問題の発覚等
(ア)群馬県環境森林部は,平成26年1月27日,大同特殊鋼渋川工場の立入検査をし,同年4月22日,立入検査の結果に基づき,大同特殊鋼に対し,「鉱さいである」渋川工場スラグの再生処理及び再生処理に係る運搬の委託を中止すること等の指示を,大同エコメットに対し,「鉱さいである」渋川工場スラグの再生処理の受託を中止すること,「鉱さ
<P25>
いである」渋川工場スラグの再生処理を行っていた中央橋混合場について,生活環境の保全上支障のおそれの有無を確認するため,土壌汚染の調査を行い,その結果を報告すること等の指示をするなどした。
[甲4~6]
(イ)群馬県県土整備部建設企画課は,同県渋川市において渋川工場スラグを使用して整備した道路及び駐車場から環境安全品質基準を上回る六価クロム等が検出されていたことが平成26年1月28日に報道された後,渋川工場スラグを含有する再生砕石を用いた道路工事について,有害物質の含有・溶出の実態等を把握するため,同年4月19日までに,土壌汚染対策法所定の指定調査機関であるブロファ設計に対し,有害物質の調査を委託した。プロファ設計が同日から同月22日までの間に採取し試料を分析した結果,調査対象の6地点(試料採取合計30地点)の全てにつき環境安全品質基準を充たすことが確認された。当時未舗装の本件農道は調査対象とされなかったが,「区画整理5工事」区域内の舗装済みの既道4号,文選8号及び支道9号は調査対象とされ(同日,5地点から試料採取),六価クロムの含有量は1キログラム当たり1ミリグラム未満(基準値は250ミリグラム),溶出量は1リットル当たり0.005ミリグラム未満(基準値は0.05ミリグラム),ふっ素の含有量は1キログラム当たり2800ミリグラム(基準値は4000ミリグラム),溶出量は1リットル当たり0.76ミリグラム(基準値は0.8ミリグラム)であった。プロファ設計は,同年5月,群馬県に対し,調査の結果を報告した。
[甲10,乙14,19,調査嘱託の結果(プロファ設計分)]
オ 本件舗装工事契約の締結,本件舗装工事の施工等
(ア)吾妻農業事務所農村整備課長片山は,平成26年6月2日,指名競争入札の方法による平成26年度地域公共事業調整費蘇生川西地区農道舗
<P26>
装工事(本件舗装工事)の起工につき決裁し,同月12日,前日の入札において落札者となった池原工業との本件舗装工事契約の締結につき決裁し,同日,群馬県と池原工業との間で,発注者を「群馬県契約担当者吾妻農業事務所長 狩野伸縮」とする建設工事請負契約書が取り交わされ,本件舗装工事契約が成立した。池原工業は,その頃,本件舗装工事に着工した。
本件舗装工事は,本件再生砕石が使用された本件農道について,本件農道整備工事後の地盤を既設路盤材とし,その上に厚さ10センチメートルの路盤を築造した上で,表層のアスファルト舗装を施工するもので
あった。
[甲21,2 3, 24,乙2 7, 28]
(イ)吾妻農業事務所農村整備課長片山は,平成26年7月11日,本件舗装工事に関する設計の変更及び請負金額の増額につき決裁し,同日,池原工業から群馬県に対して「群馬県吾妻農業事務所長狩野伸雄」宛の工事変更請書が提出され、本件舗装工事契約についての変更合意が成立した。上記設計の変更の主たる内容は,現地精査の結果,1センチメートル程度の厚さの補足材が必要となるため,補足材分を含め,路盤面の厚さを平均11センチメートル程度とするというものであった。
[甲21,乙29]
(ウ)池原工業は,平成26年7月31日,本件舗装工事を完成した。
(エ)吾妻農業事務所農業振興課長門倉は,平成26年8月8日,本件舗装工事契約の変更後請負代金649万0800円の支出回議書につき支出命令者として決裁し,これを吾妻農業事務所出納員に送付することにより,支出命令を発し,上記出縮織は,上記支出回議書を受けて,同月18日,上記649万0800円の支出をした。
[乙30]
<P27>
(3)以下,上記(2)に認定した知見,事実等に基づき,吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長がした本件舗装工事に係る支出負担行為又は支出命令に地方自治法2条14項に反する違法があるか否かを検討する。
ア 本件舗装工事の必要性について
(1)上記(2)に認定した事実等によれば,①吾妻農業事務所が,遅くとも,渋川工場スラグの問題が報道された平成26年1月より前の平成25年4月には,本件ほ場整備事業に係る施行地域(萩生川西地区)内の農進(本件農進を含む。)について,優先度,予算の状況等を踏まえ,順次舗装する方針を採っていたこと,②本件農道については,それぞれ舗装の必要性があり,地元関係者からも勾配の急な支道6号,耕道7号及び耕道8号の舗装を要望される等,優先度も比較的上位にあったことが認められる。
そうすると,本件舗装工事は本来必要がなかったとの原告らの主張を採用することはできない。
(イ)なお,本件全証拠を総合しても,吾妻農業事務所が,本件補完工事契約の締結の時までに,ステージコンストラクションの一般的方法に沿って設計期間を設定して本件農道の舗装厚を設計していたとは認められず,本件農進の舗装の構造,時期等を具体的に決定していたとも認められない。なお,群馬県農村整備課及び吾妻農業事務所が本件監査請求につき監査委員に提出した「農道設計の手引」(群馬県農敏郎策定。平成24年3月版)においては,ステージコンストラクションの一般的方法として「10年の設計耐用年数を用いてその舗装厚を設計する」と記載されているようであるが(甲10),本件全証拠を総合しても,吾妻農業事務所が,10年の設計耐用年数を用いて舗装厚を設計していたとも認められない。
そして,本件農道整備工事の計画平面図等において「敷砂利」という
<P28>
文言が使用されていたこと(甲8,19,弁論の全趣旨),本件農道整備工事の際に,本件農道について「群馬県建設工事施工管理基準及び規格値」所定の下層路盤の現場密度の測定(甲37参照)が行われたとは認められないこと,そもそも、本件農道整備工事及び本件舗装工事を通じて本件農道に上層路盤が築造されたとは認められず,下層路盤を観念する余地がないことを併せ考えれば,本件農道整備工事(敷砂利工)は,被告が主張するようなステージコンストラクションの第1段階の工事であったとは認められず,舗装の時期を具体的に想定しないという意味においては,自己完結的な工事であったというべきである。
被告は,ステージコンストラクションの方法を用いる場合には,下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,その後状況を判断して段階的に施工することが多い旨,本件農道については,本件農道整備工事により下層路盤工までを施工した後,交通開放を行った上で本件舗装工事をした旨主張するが,上記説示のとおり,本件農道について下層路盤を観念する余地はないから,被告の上記主張は前提を欠くといわざるを得ない。また,被告は,ステージコンストラクションの第1段階の工事を設計図書上「敷砂利」と表記することが通常である旨主張するが,これを裏付ける客観的証拠を提出しないから,被告の上記主張も採用することができない。
(ウ)もっとも,①上記(2)に認定した知見,事実等によれば,本件農道は,いずれも支線農道又は耕作道に当たり,その設計に当たっては,道路の一般的技術的基準を定めた道路構造今ではなく,計画設計基準に準拠するのが相当であると認められること,②土地改良事業(区画整理)の性格上、その施行に係る地域内の従前の土地は主として農地であって地盤は軟弱であり,本件農道の路床に当たる部分も軟弱であったと推認され,計画設計基準に係る技術書に掲げるステージコンストラクションの方法
<P29>
のうち,第1段階で下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,工事用車両等の限定された範囲での交通開放を行って圧密沈下等の促進を回り,その後その状況を判断して順次段階的に施工していくという方法になじむと考えられること,③計画設計基準に係る技術書は,ステージコンストラクションの一般的方法に触れるにとどまり,ステージコンストラクションの方法を限定的に列挙したものでも,具体的方法を網羅的に掲げたものでもなく,かえって,支線農道及び耕作道については,現場の状況,経費面,期間的な制約に応じた柔軟な対応を許容し,一般的方法とは異なる舗装構造を採用することも許容するものと解されること,④本件補完工事においては既道4号,支道8号及び支道9号の舗装工が施工されたが,このうち,既道4号が下層路盤工,上層路盤工及び表層工に3区分して施工されたのに対し,支道8号及び支道9号は路盤工及び表層工に2区分して施工されたと認められるところ(甲8),支道8号及び支道9号はいずれも支線農道であって,道路構造令ではなく,計画設計基準に準拠して設計されるべき農道であったから,上記のような2区分による簡易な舗装方法(路盤を15センチメートル,表層を3センチメートルとする方法であり,甲8記載の取付舗装工標準構造図に準じたものと推認される。)が許されないと解すべき理由はなく,これは,本件農道についても同様であると考えられることを総合すれば,本件農道整備工事(敷砂利工)について,上記(イ)に説示したような意味において自己完結的な工事であったと評価すべきことをもって,その後の本件舗装工事は本来必要がなかったということはできない。
イ 本件再生砕石の撤去の必要性について
(ア)前記(2)に認定した事実等によれば,吾妻農業事務所は,平成25年4月、南波建設が本件農道整備工事に使用しようとした「再生砕石RC40-0」(大同エコメット製造・大同特殊鋼販売の「スラグ混合再生路
<P30>
盤材(RC40)」)につき,「鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン」,「再生資源の利用に関する実施要領」(建設副産物から生産した再生材の使用に関する仕様書)及び本件監理課通知所定の基準を全て充たすものであることを確認した上で,その使用を承認し,平成26年5月,渋川工場スラグが用いられた路線について,プロファ設計による調査の結果に基づき,本件補完工事の一環として本件農道整備工事と同時期に「再生砕石RC40-0」を使用して舗装工まで施工された既道4号,支道8号及び支道9号その他調査対象となった全路線が環境品質基準を充たすことを確認した後,同年6月,本件舗装工事契約を締結したことが認められる。
これらの事情に,渋川工場スラグについて,六価クロム又はふっ素の溶出量又は含有量が,その発生若しくは加工の時期又は加工の前後にかかわらず,常に同程度であると認めるに足りる的確な証拠はないことを総合すれば,群馬県渋川市における渋川工場スラグ使用事案の問題が同年1月28日に報道されて以降,渋川工場スラグの有害性が広く知られるようになり,吾妻農業事務所の職員その他の群馬県の職員においても渋川工場スラグの有害性を認識し,又は認識し得たという事情を考慮しても,吾妻農業事務所農村整備課長片山が、同年6月12日の本件舗装工事契約の締結に先立って,本件再生砕石を撤去させるべきであったとか,本件舗装工事契約の締結を差し控えるべきであったとまでは評価することができない。
(イ)原告らは,プロファ設計による調査の結果について,鉄鋼スラグのみを取り出して環境安全品質基準適合性を検査すべきであった旨主張するが,そのような検査方法を用いることが適当であることを認めるに足りる的確な証拠はないから,原告らの上記主張を採用することはできない。
また,株式会社片山化学工業研究所作成に係る2014年(平成26
<P31>
年)5月19日付け「試験報告書」は,環境基本法所定の環境基準(溶出量の基準)及び土壌汚染対策法所定の土壌含有量基準を超過するふっ素が検出されたとするが,試料の採取場所,採取条件等が明らかでないから(甲42,調査嘱託の結果(同社分)),本件舗装工事契約の締結に先立って本件再生砕石を撤去する必要性を基礎付けるには十分ではない。
(ウ)原告らは,群馬県が渋川工場スラグを産業廃棄物と認定したこと,渋川工場スラグが鉱さいとして特別管理産業廃棄物に該当すること,渋川工場スラグは,適切に処理しなければ,将来確実に地下水汚染を誘発すること等から,群馬県は,同県知事が廃棄物処理法19条の3に基づく改善命令又は廃棄物処理法19条の5若しくは19の6に基づく措置命令をする等して,本件再生砕石を撤去しなければならなかった旨主張する。
まず,渋川工場スラブが特別管理産業廃棄物に該当するか否かについては,原告らは,渋川工場スラグがその含有するふっ素により人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するとするが,ふっ素の含有の有無及び含有量は鉱さいである産業廃棄物が特別管理産業廃棄物に該当するか否かの判定において考慮されないから(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条の4第5号へ,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則1条の2第8項,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令別表第1,別表第2,別表第6参照),渋川工場スラグがふっ素を含有することを理由に特別管理産業廃棄物に該当 することはなく,その他渋川工場スラグが特別管理産業廃棄物に該当すると認めるに足りるべき事情もない。これらは,本件再生砕石についても,同様である。
次に,渋川工場スラグ及び本件再生砕石が特別管理産業廃棄物以外の
<P32>
産業廃棄物に該当し得るものとして改善命令等の要否について検討すると,改善命令は,公衆衛生の向上や生活環境の保全を目的として,将来に向けて再びその違法な処理状態が継続しないようにするためにするものであり,現に生活環境保全上の支障が発生し,又はそのおそれがあるというときには,措置命令によって対応することが相当であるから,本件再生砕石の撤去に関しては,措置命令の要否が問題となるところ、措置命令は,既に行われた産業廃棄物の違法な処理に起因して,生活環境保全上の支障が生じ,又は生ずるおそれがある湯合にその支障を除去するためされるものである。そして,前記(ア)及び(イ)(前記(2)エ(イ)参照)に認定説示したところからすれば,少なくとも本件舗装工事契約の締結の時点において上記のような措置命令の発令要件を充たす状況にあったとは認められないことは明らかであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(エ)原告らは,群馬県土木工事標準仕様書が,受注者は路盤の施工に先立って路床面又は下層路盤面の浮石,その他の有害物を撤去しなければならないと定めることから,本件再生砕石を撤去しなければならなかった旨主張するが,上記(ア)及び(イ)に認定説示したところからすれば,本件農道整備工事後の地盤が路床面又は下層路盤面のいずれに該当するかはさておき,本件再生砕石について,撤去を要するような有害物であったということはできない。
(オ)原告らは、本件農道整備工事において敷砂利として本件再生砕石を用いたことは,本件監理課通知に反する旨主張するが,仮に,敷砂利として本件再生砕石を用いたことが本件監理課通知の趣旨に反するとしても,本件舗装工事により,本件再生砕石の敷砂利としての性質又は機能は変容し,路床又は路盤材の一部を構成することとなったと認められるから,本件舗装工事契約又は本件舗装工事の違法性を基礎付けることにはなら
<P33>
ない。
ウ 本件舗装工事契約の目的について
前記ア(ア)に認定説示した吾妻農業事務所の舗装に関する方針決定の時期,本件農道の舗装の必要性,地元関係者からの舗装の要望のほか,そもそも,本件農道整備工事において本件再生砕石が使用された事実は行政文書に明記されている上,本件農道整備工事と同時期に舗装工が施工された既道4号,支道8号及び支道9号についてプロフア設計による調査が行われたという状況下においては,本件農道に本件再生砕石が使用されているという事実を隠ぺいすることは不可能であり,その必要性もなかったことを併せ考えれば,本件舗装工事契約の目的が,本件再生砕石を隠ぺいする点にあるという原告らの主張を採用することはできない。
エ 地域公共事業調整費について
前記(2)に認定した事実等によれば,本件舗装工事は,本件ほ場整備事業の一環として行われたものと認められ,これは,地域の政策課題に機動的かつ柔軟に対応することにより,自主的かつ主体的に地域の振興・活性化を図ること等を内容とする地域公共事業調整費の目的になじむものということができる。したがって,本件舗装工事に係る支出は地域公共事業調整費の目的になじまないとする原告らの主張は採用することができない。
(4)以上によれば,本件舗装工事は必要なものであり,渋川工場スラグの有害性や撤去の必要性,契約締結の目的等原告らの主張する諸般の観点から検討しても,本件舗装工事に係る支出負担行為について,専決した吾妻農業事務所農村整備課長片山が,その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして,地方自治法2条14項に反する違法があるということはできない。そして,本件舗装工事に関する支出命令に固有の違法事由の主張はないから,本件舗装工事に係る支出負担行為に引き続いて行われた支出命令が違法であるということもできない。
<P34>
したがって,吾妻農業事務所農村整備課長片山が専決した本件舗装工事に係る支出負担行為及び吾妻農業事務所農業振興課長門倉が専決した本件舗装工事に係る支出命令の違法を前提とする狩野の指揮監督義務に関する違法も認められないこととなるから,狩野は,地方自治法243条の2の2第1項に基づく損害賠償責任を負わない。
第4 結論
以上によれば,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 菅家忠行
裁判官 佐藤 薫
裁判官 金澤 康
<P35>
これは正本である。
平成30年3月16日
前橋地方裁判所民事第2部
裁判所書記官 清 宮 貴 幸
**********
■当日は午前、午後とも高崎市役所や太田市役所における活動をおこなったため、記者発表をする時間がありませんでしたが、午後5時ごろ上毛新聞から問い合わせがありました。内容は「控訴についてどう考えているのか?」というものでした。そのため、「明日開く予定の市民オンブズマン群馬の定例会で、会員にこの事件の判決結果を報告し、今後の方針を検討することになる」と答えておきました。その中には「控訴」も視野に入れる旨、伝えました。
とりあえずの判決文を一読した感想は、すべて、群馬県側の主張に寄り添って、証拠についても取捨選択しつつ、判断の経緯と根拠を裁判所が導き出していることです。やはり我が国の司法は三権分立とは名ばかりで、レフェリー役の司法も、行政側の立場を優先しており、いわゆる我が国に根深く残っている「行政や官僚の無謬性神話」という考え方が厳然と横たわっていることを痛感させられます。
今後の方針は、明日、土曜日3月17日午後の当会の定例会で協議したうえで、控訴期限の14日以内に控訴状を出すかどうか、最終判断を下したいと思います。

↑司法が行政よりの判断をするのは今に限ったことではないが、それにしてもここまで酷いとは。↑
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

↑「春の嵐」が吹き荒れる中、大同スラグ訴訟の判決言渡しのあった前橋地裁。↑

↑サクラの蕾も膨らみ始めたばかり。↑
これまでの本件大同スラグ裁判に関する上記の節目については、次の当会のブログを参照下さい。
〇2014年6月5日:敷砂利に大同スラグを使った東吾妻町の農道に急遽舗装を被せ証拠隠滅を図る県環境行政の臭い物にフタ体質↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1309.html#readmore
〇2015年1月30日:大同有毒スラグを斬る!…スラグを撤去せず農道を舗装した県の公金支出に住民監査請求を提出↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1520.html#readmore
〇2015年4月30日:大同有毒スラグを斬る!…東吾妻町萩生地区の農道等への不法投棄問題の解決に向けて住民訴訟を提起↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1602.html#readmore
ここに速報として、判決文の全文を掲載します。
*****判決文*****PDF ⇒ 20180316_1_hanketubun_p118.pdf
20180316_2_hanketubun_p1935.pdf
<P1>
平成30年3月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 清宮貴幸
平成27年(行ウ)第7号 住民訴訟事件
口頭弁論終結日 平成29年12月1日
判 決
群馬県安中市野殿980番地
原 告 小 川 賢
前橋市文京町一丁目15-10
原 告 鈴 木 庸
前橋市大手町一丁目1番1号
被 告 群 馬 県 知 事
大 澤 正 明
同訴訟代理人弁護士 関 夕 三 郎
同 笠 本 秀 一
同指定代理人 富 澤 貞 夫
同 澤 下 勲
同 稲 本 一 秀
同 篠 原 孝 幸
同 油 井 祐 紀
同 安 藤 敏
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,狩野伸雄に対し,649万0800円の賠償の命令をせよ。
第2 事案の概要
<P2>
本件は,群馬県の住民である原告らが,同県が池原工業株式会社(以下「池原工業」という。)との間で同県吾妻郡東吾妻町内の農道の舗装工事(同県吾妻農業事務所(以下単に「吾妻農業事務所」という。)所管)の請負契約を締結し,請負代金649万0800円を支出したことにつき,上記農道に敷砂利として用いられた再生砕石には有害な鉄鋼スラグが含まれるところ,当該再生砕石を撤去することなく請負契約を締結して舗装工事を施工させたことは違法であるなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号ただし書に基づき,同県知事である被告に対し,上記舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令に関する権限の委任を受けていた吾妻農業事務所長狩野伸雄(当時。以下「狩野」という。)に対して上記請負代金に相当する649万0800円の賠償の命令をすることを求めた事案である。
前提となる事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告らは,群馬県の住民である。
イ 吾妻農業事務所長は,群馬県吾妻振興局(旧吾妻県民局)に属する地域機関である吾妻農業事務所の長として,同県知事から,吾妻農業事務所において処理する事務に係る権限のうち,契約に関すること及び支出負担行為に関すること(いずれも設計金額1億円以上の工事費の支出に係るものを除く。)並びに支出命令に関することを含む一部の権限の委任を受けている(群馬県財務規則3条1項)。
[甲10, 乙5]
(2)鉄鋼スラグの環境安全品質基準等
ア 鉄鋼スラグは,鉄鋼製造工程において発生する鉄以外の不純物と石灰が混じった石状の副産物であり,路盤材,セメント材等として広く再利用されている。
<P3>
[甲13,14]
イ 鉄鋼スラグのうち,道路用鉄鋼スラグについては,日本工業規格(JIS)A5015が制定されている。同規格に定める環境安全品質基準(以下単に「環境安全品質基準」という。)は,六値クロムについて溶出量1リットル当たり0.05ミリグラム以下,含有量1キログラム当たり250ミリグラム以下,ふっ素について溶出量1リットル当たり0.8ミリグラム以下,含有量1キログラム当たり4000ミリグラム以下である。
上記基準は,いずれも,都道府県知事等が,土壌汚染対策法に基づき,特定有害物質(六価クロム化合物,ふっ素及びその化合物を含む。)によって汚染されており,当該汚染の拡散の防止その他の措置を講ずることが必要な区域として,土地の区域を指定する場合の土壌溶出量基準及び土壌含有量基準と同一である(開法6条1項1号,64条,同法施行規則1条2項3号,31条1項(別表第3),2項(別表第4)等参照)。また,上記基準のうち,溶出量の基準は,環境基本法に基づき定められた土壌の汚染に係る環境基準(人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましいとされる基準)と同一である(同法16条1項,平成3年環境庁告示第46号参照)。
[甲7,48]
ウ なお,鉄鋼スラグについては,資源の有効な利用の促進に関する法律に基づき,製鉄業及び製鋼・製鋼圧延業に属する事業を行う者の鉄鋼スラグの発生抑制等に関する判断の基準となるべき事項として,①事業者は,鉄鋼スラグの利用を促進するため,道路用鉄鋼スラブに加工する場合には,日本工業規格A5015により,有効な用途に応じた製品となるよう,鉄鋼スラグを加工するものとする,②自ら鉄鋼スラグの利用のための加工を行い得ない場合には,当該加工を行い得る者に販売し,又は加工の委託をするものとする等と定められている(同法10条1項,平成13年経済産
<P4>
業省令第55号6条1号,7条等参照)。
(3)農道の整備工事,鉄鋼スラグを含有する再生砕石の使用等
ア 本件ほ場整備事業の施行
平成22年6月10日,国庫補助事業として,群馬県吾妻郡東吾妻町萩生川西地区(以下単に「萩生川西地区」という。)に係る農山漁村地域整備交付金県営農地整備事業(萩生川西地区県営農地整備事業又は萩生川西地区県営土地改良事業とも呼称される。以下「本件は場整備事業」という。)が採択された。本件ほ場整備事業は,土地改良法に基づく土地改良事業(区画整理)であり,施行地域を萩生川西地区とし,工事期間を平成22年度から平成28年度まで,工事完了公告を平成29年度中と予定し,萩生川西地区を「区画整理1工事」から「区画整理8工事」までの8区に分け,順次,農地の区画整理,水路及び農道の整備等を進めるものであった。
[乙19]
イ 本件農道整備工事の施工等
(ア)群馬県は,平成25年3月19日,南波建設株式会社(以下「南波建設」という。)との間で,上記8区全体の補完工事(道路工,用水路工,排水路工及び整地工。以下「本件補完工事」という。)について,以下の請負契約(以下「本件補完工事契約」という。)を締結した。
① 工事名:萩生川西地区 区画整理補完3工事
② 工事場所:群馬県吾妻郡東吾妻町大字萩生地内
③ 工期:同日から同年6月28日まで
④ 請負代金:4273万5000円(内税)
本件補完工事には,「区画整理5工事」区域内にある農道の道路工として,支道6号(西側部分に限る。),支道7号,耕道7号,耕道8号及び支道27号(以下「本件農道」という。)の敷砂利工(以下「本件農道整備工事」という。本件農道整備工事が敷砂利工としてそれ自体完
<P5>
結したものであったか,その後の舗装工を予定したものであったかについては争いがある。),既道4号,支道8号及び支道9号の舗装工等が含まれていた。
(イ)群馬県は,平成25年6月7日,南波建設との間で,本件補完工事契約について,工事内容を変更し,請負代金を4142万2500円(内税)に減額する合意をした。
(ウ)南波建設は,平成25年6月28日,本件補完工事を完成させた。
(エ)群馬県は,平成25年7月19日,南波建設に対し,本件補完工事契約の請負代金4142万2500円を支払った。
[甲8,10,20,乙20]
ウ 本件農道整備工事における鉄鋼スラグを含有する再生砕石の使用
(ア)群馬県県土整備部監理課建設政策室長は,平成22年10月15日付けで,鉄鋼スラグの使用は再生資源の有効活用につながるとして,砕石骨材(クラッシャラン:C-40及びC-100)に電気炉クラッシャラン鉄鋼スラグ(CS-40)を混合した骨材の取扱いを定めた通知(以下「本件監理牒通知」という。)を発出した。本件監理課通知は,上記混合した骨材について,原則としてコンクリート再生骨材(RC)と同様に取り扱うものとし,車道用下層路盤工において,C-40とCS-40とを混合した骨材はRC-40と同様に取り扱うものとしている。
ただし,路床工,路面敷砂利には使用しないとしている。
(イ)南波建設は,本件農道整備工事において,「スラグ混合再生路盤材(RC40)」と呼称される砕石を使用した(以下当該砕石のうち本件農道整備工事に使用されたものを「本件再生砕石」という。)。
(ウ)「スラグ混合再生路盤材(RC40)」は,大同エコメット株式会社(以下「大同エコメット」という。)が,大同特殊鋼株式会社(以下「大同特殊鋼」という。)から委託を受け,大同特殊鋼渋川工場において発
<P6>
生した鉄鋼スラグ(以下「渋川工場スラグ」という。)を処理し,天然砕石と混合することにより製造した再生砕石(上記(ア))に従い,RC-40と同様に取り扱われる。)である。これを株式会社佐藤建設工業(以下「佐藤建設」という。)が大同特殊鋼から購入して南波建設に販売し、南波建設が本件農道整備工事に使用したものである。
[甲9,15,17,27,28,41,44,57,乙2]
(4)渋川工場スラグに関する問題の発覚
群馬県環境森林部は,平成26年1月27日,大同特殊鋼が,渋川工場スラグを業者に販売する際,販売価格を上回る運搬費等を業者に支払うといういわゆる逆有償取引をした疑いがあるなどとして,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)19条1項による大同特殊鋼渋川工場の立入検査をし,翌28日には当該立入検査に関する報道がされたが,その際,既に,群馬県渋川市において,渋川工場スラグを使用して整備した道路及び駐車場から環境安全品質基準を上回る六価クロム等が検出されていたことが併せて報道された。
[甲13,14]
(5)本件舗装工事契約の締結,本件舗装工事の施工等
ア 群馬県は,平成26年6月12日,池原工業との聞で,本件農道の舗装を内容とする工事(以下「本件舗装工事」という。)について,以下の請負契約(以下「本件舗装工事契約」という。)を締結した。
① 工事名:萩生川西地区農道舗装工事
② 工事場所:群馬県吾妻郡東吾妻町大字萩生地先(本件農道)
③ 工期:同日から同年7月31日まで
④ 請負代金:529万2000円(内祝)
[甲21,乙19,28]
イ 群馬県は,平成26年7月11日,池原工業との間で,本件舗装工事契
<P7>
約について,工事内容を変更し,請負代金を649万0800円(内税)に増額する合意をした。
[甲21,乙29]
ウ 池原工業は,平成26年7月31日,本件舗装工事を完成させた。
[甲10]
エ 群馬県は,平成26年8月18日,池原工業に対し,本件舗装工事契約の請負代金649万0800円を支払った。
[甲10]
オ 本件舗装工事契約の締結,上記イのエ事内容の変更等の合意及び上記エの請負代金の支払の当時の吾妻農業事務所長は,狩野であった。
[乙28~30]
カ なお,本件舗装工事契約の請負代金は,地域公共事業調整費から支出された。
地域公共事業調整費は,行政県税事務所が地域の政策課題に機動的かつ柔軟に対応することにより,自主的かつ主体的に地域の振興及び活性化を図ること並びに複数分野に関わる基盤整備に対応することを目的とする地域調整費の一種であり,その使途は,①環境森林事務所,森林事務所,農業事務所及び土木事務所が事業主体となって実施する公共事業の経費で,地域総合行政及び地域振興行政の椎遂に資する公共事業に要する経費のうち,複数分野に関わるものに要する経費,②その他,上記目的を達成するために行政県税事務所長が特に必要と認めた事業に要する経費とされている。
[乙4,27~30]
(6)原告らの住民監査請求及び監査の結果
ア 原告らは,平成27年1月30目,群馬県監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づき,おおむね以下の内容を記載した請求書による住民
<P8>
監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした(下記490万円は,本件舗装工事契約の当初の請負代金額529万2000円の外税価格である。)。
(ア)吾妻農業事務所は本件農道にいわば蓋をする目的で,池原工業と本件舗装工事契約を締結し,原告らが再三にわたり大同特殊鋼に由来する有害な鉄鋼スラグを撤去しないまま本件舗装工事を施工しないよう申し入れたにもかかわらず,本件舗装工事を強行した。群馬県が大同特殊鋼に鉄鋼スラグを撤去させていれば,本件舗装工事は実施する必要がなかったし,また,今後,大同特殊鋼が鉄鋼スラグを撤去することになった場合には,舗装を剥ぎ敢る必要があるから,本件舗装工事の請負代金490万円を無駄に消費したことになり,同県に対し,同額の損害を与えた。
本来,最少のコストで最大の効果を上げるために使わなければならない公金を上記のように支出したことは,同県民に対する裏切りである。
(イ)よって,原告らは,群馬県監査委員に対し,同県知事及び本件舗装工事の支出手続に関わった全ての関係者から490万円を同県に対して返還させることを,同県知事に勧告することを求める。
[甲1~3]
イ 群馬県監査委員は,本件監査請求につき,原告らが,群馬県知事又は関係職員が本件舗装工事の施工により公金490万円を支出したことは地方自治法242条1項に規定する公金の不当な支出に当たる旨を主張するものと解した上で,平成27年3月30日,本件舗装工事に係る公金の支出について違法又は不当というべきものはなく,原告らの請求に理由がないものと認め,本件監査請求を棄却する旨の監査の結果を記載した書面を原告らに発し,当該書面は,同月31目,原告らに到達した。
[甲10]
2 争点及び当事者の主張
<P9>
(1)(本案前の争点)本件訴えが住民監査請求前置の要件を充たすか否か。
(原告らの主張)
原告らは,前提となる事実(6)のとおり,適法な住民監査請求をし,監査委員がこれを棄却したことから,本件訴えを提起したものであり,本件訴えは,住民監査請求前置の要件を充たし,適法である。
(被告の主張)
原告らは,本件監査請求において,本件舗装工事は公金の不当な支出に当たる旨を主張し、違法な財務会計上の行為又は怠る事実を主張しなかった。
本件訴えにおける違法な行為に係る請求は,本件監査請求において対象としていなかった違法な行為を新たに請求の対象とするものであり,適法な住民監査請求を経ていない。したがって,本件訴えは,不適法である。
(2)(本案の争点)本件舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令に関する狩野の行為につき,狩野が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたことにより群馬県に損害を与えたと認められるか否か(特に当該行為の違法性の有無)。
(原告らの主張)
以下のとおり,本件舗装工事は,本来必要がなく,撤去されるべき本件再生砕石を撤去しないまま違法な目的で締結された本件舗装工事契約に基づき施工されたものであり,地域公共事業調整費の目的にもなじまない。
ア 本件舗装工事は,本来必要のないものであったこと
本件農道整備工事は,次のとおり,敷砂利工としてそれ自体として完結しており,本来,本件舗装工事を施工する必要はなかった。
(ア)本件農道整備工事に係る計画平面図等において「敷砂利」という文言が使用されており,本件農道整備工事は,敷砂利工としてそれ自体で完結的なものであった。
(イ)被告は,本作農道整備工事がステージコンストラクション(一度に表
<P10>
層まで完成させずに,まず路盤までを施工し,その後段階的に表層まで完成させていく施工方法)の第1段階である下層路盤工であり,本件再生砕石はその路盤材として用いられた旨主張するが,下層路盤エの施工に当たっては,計画面からの掘削を行うほか,綿固め度95パーセントになるように転圧して開放するところ,本件農道整備工事はこれらをいずれも伴わない。
(ウ)本件再生砕石が路盤材として用いられたとすると,第1段階の路盤材と第2段階の路盤材とが異なることとなるが,ステージコンストラクションの施工に当たっては,同一の材料を用いて下層路盤工を行わなければ,締固め度の管理ができず不合理である。
(エ)本件舗装工事において,支道27号に11センチメートルもの補足材を足しだのは,敷砂希|」工であったことを隠ぺいするためであり,下層路盤工を段階的に施工したという被告の主張には無理がある。
イ 本件再生砕石は,撤去されるべきであること
(ア)群馬県は,渋川工場スラグを産業廃棄物と認定した。渋川工場スラグは,鉱さいとして産業廃棄物に該当し(廃棄物処理法2条4項1号,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条8号),ふっ素による土壌汚染の可能性又はおそれがあり,人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有しているから,特別管理産業廃棄物(廃棄物処理法2条5項,同令2条8号,2条の4第5号へ)に該当する。産業廃棄物は,廃棄物処理法所定の産業廃棄物処理施設において処理されるべきであり,特別管理産業廃棄物は,廃棄物処理法所定の遮断型最終処分場に理立処分されるべきである(廃棄物処理法15条1項,同令7条14号)。渋川工場スラグは,適切に処理しなければ,将来確実に地下水汚染を誘発する。
本件再生砕石は,渋川工場スラグを含有するところ,その製造,流通
<P11>
過程に関わった大同特殊鋼,大同工コメット及び佐藤建設は,いずれも鉱さいに関する廃棄物処理法上の産業廃棄物処理業の許可を有しておらず,このような業者が製造し,販売した材料を本件農道整備工事に使用することは廃棄物処理法1条(目的)に反し許されない。
したがって,群馬県は,同県知事が廃棄物処理法19条の3に基づく改善命令又は廃棄物処理法19条の5若しくは19条の6に基づく措置命令をする等して,大同特殊鋼,佐藤建設又は南波建設に本件再生砕石を撤去させなければならなかった。
(イ)群馬県土木工事標準仕様書は,受注者は路盤の施工に先立って路床面又は下層路盤面の浮石,その他の有害物を撤去しなければならないと定めており,本件舗装工事前に本件無道の本件再生砕石を撤去することが要請されていた。
(ウ)本件監理課通知は,鉄鋼スラグを混合した骨材を敷砂利に使用することを禁止しており,本件農道整備工事において敷砂利として本件再生砕石を用いたことは,本件監理課通知に反する。
(エ)上記(ア)から(ウ)までによれば,本件再生砕石は,ふっ素の含有量等が環境基準等を超えているか否かにかかわらず,撤去されるべきである。
ウ 本件舗装工事契約の締結の目的が違法であること
吾妻農業事務所長であった狩野は,遅くとも群馬県環境森林部による立入検査について報道がされた平成26年1月28日には、渋川工場スラグの有害性及び産業廃棄物該当性を知っていたにもかかわらず,本件農道に本来撤去されるべき本件再生砕石が敷砂利として使用されている事実を隠ぺいし,蓋をするという違法な目的で,本件再生砕石を撤去させることなく本件舗装工事契約を締結した。
エ 地域公共事業調整費の目的になじまないこと
本件舗装工事契約の請負代金は,地域公共事業調整費から支出されたと
<P12>
ころ,本件舗装工事契約は,上記ウのとおり,違法な目的で締結されたものであるから,地域公共事業調整費の目的にもなじまない。
以上を総合すれば,本件舗装工事に係る支出負担行為は,吾妻農業事務所長であった狩野が有する合理的な裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであり,地方自治法2条14項所定のいわゆる最少経費最大効果原則に違反する違法なものである。そして,これに続く支出命令も違法である。
よって,狩野は,故意又は重大な過失により地方自治法2条14項に違反して本件舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令をしたことにより群馬県に損害を与えたものであるから,群馬県に対し,同法243条の2の2第1項の損害賠償責任を負う。仮に,当該支出負担行為及び支出命令が,狩野の補助職員が専決したものであったとしても,狩野には当該補助職員に対する指揮監督上の義務違反があるから,同項の損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
本件舗装工事に係る支出負担行為は,狩野ではなく,吾妻農業事務所農村整備課長であった片山茂(以下「片山」という。)が専決し,本件舗装工事に係る支出命令も,狩野ではなく,吾妻農業事務所農業振興課長であった門倉祐司(以下「門倉」という。)が専決したところ,以下のとおり,本件舗装工事に係る支出負担行為について,裁量権の逸脱濫用を基礎付ける事情はなく,地方自治法2条14項所定の最少経費最大効果原則に適合することはあっても,これに違反することはない。これに続く支出命令についても,違法な点はない。
ア 本件舗装工事が必要であったこと
(ア)本件再生砕石は,本件農道のステージコンストラクションの第1段階として行われた本件農道整備工事の際に下層路盤工の路盤材として用いられたものであり,本件舗装工事は,その最終段階として施工されたものである。敷砂利として完結的に用いられたものではない。
<P13>
(イ)農道についてステージコンストラクションの方法を用いる場合には,下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,交通開放を行って圧密沈下等の促進を図り,その後状況を判断して,段階的に施工することが多い。
本件農道についても、ステージコンストラクションの方法が用いられ,本件長道整備工事により下層路盤工までを施工した後,交通開放を行った上で本件舗装工事をしたものである。
ステージコンストラクションの第1段階の工事では,設計図書上「敷砂利」と表記することが通常であるから,そのような表記があったとしても,ステージコンストラクションであることは否定されない。
(ウ)原告らは,本件農道整備工事において,締固め度95パーセントになるように転圧していないこと,本件舗装工事で使用された補足材の厚み等を指摘するが,転圧はステージコンストラクションの第2段階で行うものであるし,路床が比較的軟弱なほ場内農道では,第1段階の工事での路盤厚を抑え、第2段階の舗装工事において厚く補足することは一般的である。
イ 本件再生砕石の撤去の必要がなかったこと
(ア)群馬県は,本件農道整備工事に先立ち,南波建設から本件再生砕石の使用材料承認願いの提出を受けた。承認願いには,「鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン」により要請される成分の環境基準適合性の試験,「再生資源の利用に関する実施要領」により要請される物性値(材料試験成績書)の試験及び本件監理課通知により要請される膨張性試験の3つの試験の結果が添付されており,いずれの試験も指定期間内に行われ,その結果も基準を充たしていたことから,群馬県は,本件再生砕石の使用を承認した。
(イ)群馬県は,渋川工場スラグについて廃棄物処理法違反の疑いが報道さ
<P14>
れた後,平成26年4月頃,土壌汚染対策法上の指定調査機関であるプロファ設計株式会社(以下「プロファ設計」という。)に対し,渋川工場スラグを含有する砕石が用いられた路線について,有害物質の含有量及び溶出量等の測定調査を行わせた。測定調査の対象路線に本件農道は含まれないが,本件補完工事において道路工が行われた萩生川西地区の他の路線が含まれていた。測定調査の結果,全ての調査対象地点において,ふっ素及び六価クロムに関し環境安全品質基準を充たすことが確認された。
群馬県は,上記測定調査の結果により,本件農道整備工事と同時期に用いられた本件再生砕石と同種の再生砕石について,環境安全品質基準を充たしていることが確認されたため,本件再生砕石についても同様に環境安全品質基準が充たされていると判断し,本件舗装工事契約を締結した。
渋川工場スラグが鉱さいとして産業廃棄物に当たり得るとしても,本件再生砕石については,上記のとおりその安全性が確認されていたのであるから,廃棄物処理法上の措置命令の要件に当たらない。また,廃棄物処理法上の改善命令については,本件農道整備工事は,改善命令の対象となる者によって行われた行為ではない。なお,本件鉄鋼スラグは,特別管理産業廃棄物には該当しない。
仮に,将来的に本件農道から環境基準等を超えるふっ素又は六価クロムが検出されるおそれがあるとしても,本件舗装工事によって本件再生砕石を覆うことにより,有害物質を土壌から直接経口摂取し,又は皮膚から摂取するリスクを除去することができる。原告らは地下水汚染の点をいうが、少なくとも,本件舗装工事契約の締結の時においては,渋川工場スラグが使用された箇所について地下水汚染が確認された箇所はなかった。
<P15>
(ウ)原告らは,産業廃棄物処理業の許可を有しない業者による流通過程を経た材料を使用することは廃棄物処理法1粂に反し許されないと主張するが,同条は廃棄物処理法の目的を定める一般的な規定にすぎない上,廃棄物処理法違反の有無は事業者について問題となるものであるから,本件舗装工事自体の適法性を左右するものではない。
(エ)原告らが指摘する群馬県土木工事標準仕様書は,舗装の仕上がりに障害となる不要物を取り除く趣旨であり,有害な化学物質を想定するものではない。
(オ)原告らが指摘する本件監理課通知違反の点については,敷砂利としての使用を前提とするものであるから,本件には該当しない。
(カ)以上によれば,本件再生砕石について,本件舗装工事契約の締結に先立ち,廃棄物処理法に基づく改善命令又は措置命令等によって撤去されるべきであったということはできない。
ウ 本件舗装工事契約の締結の目的が正当であること
(ア)本件舗装工事は,渋川工場スラグの有害性の問題が発覚する前からステージコンストラクションの最終段階として予定されており,その目的は,農業生産性の向上による農業振興と地域住民等の便益の増進にあり,原告らの主張するような,本来撤去されるべき本件再生砕石が敷砂利として使用されている事実を隠ぺいするといったものではない。
(イ)本件農道は,急勾配であり,未舗装のままにしておくと下層路盤工として敷設した砕石が散逸しやすく,砕石の補充が必要になりやすい箇所,営農上の取水施設の操作場所に通じる道路であり通行必要性が高い箇所及び山際に位置し未舗装のままにしておくと路面の陥没やぬかるみ等のため危険や不便が生じるおそれがある箇所があり,可及的早期に舗装工事を行う必要があり,関係者からの要望意見があった。
(ウ)渋川工場スラグの問題が新聞等で報道されたため,末舗装のままにし
<P16>
ておくと住民の不安を招いたり,農作物の風評被害に波及したりすることが懸念され,それを未然に防止する必要性もあったが,それは,本件舗装工事の施工時期を若干前倒しした理由の一つにすぎない。
エ 地域公共事業調整費の目的にかなうこと
本件は場整備事業は,中山間地域の限られた農地で営農条件も厳しい地区の農地整備を行うことで,農業生産性の向上や営農経費の軽減,地域農業の主体となる担い手の育成等を目的とする事業であり,農業生産基盤の整備によって耕作放棄地の発生が防止され,国土保全も図られるとともに、
地域で生産される農作物のブランド化による地域活性化など,その効果は多方面に生じ得る。また,地域公共事業調整費を用いずに,事業費を本件ほ場整備事業予算から支出する場合には,工事への着手が遅延し,本件舗装工事を早期に実施することはできなかった。
これらの点からすれば,本件舗装工事についての支出は,地域公共事業調整費の目的にかなうというべきである。
第3 当裁判所の判断
本案前の争点(本件訴えが住民監査請求前置の要件を充たすか否か)について
(1)住民監査請求の対象は,当該住民監査請求において請求人が何を対象として取り上げたのかを、請求書の記載内容等に照らして客観的,実質的に判断すべきである。
(2)前提となる事実(6)のとおり,原告らは,本件監査請求において,群馬県知事及び本件舗装工事の支出に関係した全ての職員の財務会計上の行為を対象とし,当該行為をした者から本件舗装工事の請負代金を群馬県に対して返還させることを同県知事に勧告することを求めたものであるところ,原告らが監査委員に提出した請求書及び事実証明書(甲j~3)の各記載内容を併せ考えれば,明示されてはいないが,原告らは,当該行為につき,少なくとも
<P17>
地方自治法2条14項違反を主張していたものと認められる。
そうすると,原告らが本件監査請求において違法な財務会計上の行為又は怠る事実を主張していなかったことを前提とする被告の本案前の主張は採用することができず,本件訴えは,住民監査請求前置の要件を充たした適法なものというべきである。
前提となる事実(6)のとおり,監査委員が,本件監査請求につき,原告らが公金の不当な支出に当たる旨を主張するものとして監査を開始したことは,上記認定判断を左右しないというべきである。
(3)なお,住民監査請求の制度においては,監査委員は,住民監査請求の対象とされた行為又は怠る事実につき違法,不当事由が存するか否かを監査するに当たり,住民が主張する事由以外の点にわたって監査することができないとされているものではなく,住民の主張する違法,不当事由や提出された証拠資料が異なることによって住民監査請求が別個のものになるものではない。そして,住民監査請求の制度は,住民訴訟の前置手続として,まず当該普通地方公共団体の監査委員に住民の請求に係る行為又は怠る事実について監査の機会を与え,当該行為又は怠る事実の違法,不当を当該普通地方公共団体の自治的内部的処理によって予防し,是正させることを目的とするものであるところ,住民監査請求の前置を定める地方自治法242条の2第1項においては,住民監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実について住民訴訟を提起すべきものとされているのであって,当該行為又は怠る事実について住民監査請求を経た以上,住民訴訟において住民監査請求の理由として主張した事由以外の違法事由を主張することは何ら禁止されていないと解するのが相当であり,また,住民訴訟において主張する違法な行為又は怠る事実について,住民監査請求においては専ら当該行為又は怠る事実の不当を主張するにとどまったとしても,当該行為又は怠る事実について住民監査請求を経た以上は,住民監査請求前置の要件を充足するというべきである。
<P18>
この点においても,被告の本案前の主張を採用することはできない。
2 本案の争点(本件舗装工事に係る支出負担行為及び支出命令に関する狩野の行為につき,狩野が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたことにより群馬県に損害を与えたと認められるか否か(特に当該行為の違法性の有無))について
(1)吾妻農業事務所長は,契約及び支出負担行為(いずれも設計金額1億円以上の工事費の支出に係るものを除く。)並びに支出命令について,群馬県知事から権限を委任されているが(群馬県財務規則3条1項。前提となる事実(1)イ参照),これらのうち,契約及び支出負担行為については,いずれも設計金額5000万円以上の工事費の支出に係るものを除き,農業振興課長,農村整備課長又は農村整備センター長に専決させることができ,支出命令については,農業振興課長に専決させることができる(同規則8条,同県事務専決規程13条,同県委任事務専決要綱3条。甲10)。
そして,本件舗装工事契約(請負代金額529万2000円)及びその変更(変更後の請負代金額649万〇800円)については,当時の吾妻農業事務所農村整備課長であった片山が専決し,変更後の請負代金額649万0800円の支出に係る命令については,当時の吾妻農業事務所農業振興課長門倉が専決したと認められる(乙28~30)。
そうすると,狩野は,吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長の本件舗装工事に係る支出負担行為又は支出命令に違法があり,狩野が吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長の本件舗装工事に係る違法な支出負担行為又は支出命令を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は重大な過失により当該違法な支出負担行為又は支出命令を阻止しなかったときに限り,当該違法な支出負担行為又は支出命令により群馬県が被った損害につき
賠償責任を負うべきである。
そこで,狩野の指揮監督上の義務違反の有無及び故意又は重大な過失の有
<P19>
無の検討に先立ち,吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長がした本件舗装工事に係る支出負担行為又は支出命令に地方自治法2条14項に反する違法があるか否かを検討する。
(2)前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の知見,事実等が認められる。
ア 農道整備に関する知見
(ア)土地改良事業計画設計基準・設計「農道」(以下「計画設計基準」という。)に係る基準(農林水産省事務次官通知)及び基準の運用(農林水産省農村振興局長通知)は,農道は基幹的農道又はほ場内農道に分類されるとし,このうち,基幹的農道は農業生産活動,農産物流通等の農業用の利用を主体とし,農村の社会生活活動にも利用される農村地域の基幹的な農道であるとし,ほ場内農道はほ場への通作,営農資材の搬入,ほ場からの農産物の搬出等の農業生産活動に利用される農道であり,幹線農道(集落とほ場区域,ほ場区域相互間,一般道路や基幹的農道とほ場区域,ほ場区域と生産・加工・流通施設等をそれぞれ結ぶ主要な農道),支線農道(幹線農道から分岐し,ほ区,耕区に連絡する農道では場内作業のための往来,肥料,農薬等の営農資材の搬入,収穫物のほ場からの搬出に用いられる農道)又は耕作道(収穫,防除作業等に利用するため耕区の境界部又は耕区内に設けられる農道)の3つに細分化されるとする。
計画設計基準に係る基準及び運用の解説は,農道の設計に当たっては,基幹的農道及びは場内道路のうち2車線の幹線農道は,原則として道路の一般的技術的基準を定めた道路構造令に準拠し,その余のは場内農道は,計画設計基準を優先して適用することを基本としている。
[乙10の1・2]
<P20>
(イ)計画設計基準に係る技術書は,軟弱路床に対する改良工法の一としてステージコンストラクションを掲げる。ステージコンストラクションは,交通上やむを得ない場合を除き,一度に表層まで完成させず,まず路盤まで施工し,その後状況を判断して段階的に舗装を完成させていく施工方法である。路床及び路盤状況が複雑でその明確な把握が困難な場合や,軟弱路盤のように経年変化等に伴いその性状が変化するものに対して,一定の期間の交通開放を行い,その状態によって目的とする舗装構造を決定し,段階的に施工していくものであり,経費面から,また舗装構造の安全設計という面からも期間的な制約が許されるならば有利になることが多いとされている。
ステージコンストラクションの方法は,舗装構造により若干考え方を異にするが,一般的にはそれぞれの路線で設計期間を設定してその舗装厚を設計し,第1段階では上層路盤までを施工し,その後,一定期間内に第2段階として表層のアスファルト舗装を行う方法が用いられ,水田地帯等の軟弱な路床に設置される農道については,盛土工法,置換工法等で路床改良を行い,第1段階で下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,工事用車両等の限定された範囲での交通開放を行って圧密沈下等の促進を図り,その後その伏況を判断して順次段階的に施工していくとされている。
[乙9]
(ウ)群馬県土木工事標準仕様書は,土木工事中の一般舗装工について,受注者は路盤の施工に先立って路床面又は下層路盤面の浮石,その他の有害物を除去しなければならないと定め,また,ほ場整備工における道路工について,敷砂利は(特に指示があった場合を除き)道路舗装用下層路盤材(RC40)を用い,極端な材料分離を起こさぬよう施工するものとすると定めている。
[甲40,乙12,17]
<P21>
イ 鉄鋼スラグ製品の利用等
(ア) 鉄鋼メーカー及び鉄鋼スラグ製品の製造販売メーカーらの業界団体である鉄鋼スラグ協会が策定した「鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン」は,鉄鋼スラグ製品の販売者として遂行すべきことを定めるところ,鉄鋼スラグ製品の品質管理に関して,環境基準に係る分析検査は原則として計量証明事業者として登録されている第三者機関により1年に1回以上行うこと,JIS,国・自治体の各種仕様書等で定められている品質規格等を需要家から求められた場合にはそれぞれに規定する規格等に適合し出荷検査に合格したものであること等を,鉄鋼スラグ製品の販売管理に関して,受注を決定し製品を納入する場合には需要家との契約条件に従って試験成績表等を提出すること等を定める。
なお,上記ガイドラインは,廃棄物処理法に従って鉱さいとして処理される産業廃棄物としての鉄鋼スラグについては,日本鉄鋼連盟策定の「産業廃棄物処理業者に処理を委託する鉄鋼スラグの管理指針」によるものとしている。
[乙1]
(イ)群馬県が策定した「再生資源の利用に関する実施要領」は,建築副産物(セメントコンクリート塊,アスファルトコンクリート塊)の処理方法,再生材の利用,再生材を使用できる工程等を定めるところ,再生費材を使用できる工種は車道用下層路盤工,路床工,路面敷砂利等とし,再生材の利用等については施工条件明示書に記載し契約事項とすることとし,再生材の使用に関する取扱基準は「建設副産物から生産した再生材の使用に関する仕様書」によるものとするなどとしている。
上記仕様書は,同県県土整備部が使用する再生材(建設工事に伴い生じたセメントコンクリート塊及びアスファルトコンクリート塊等を再利用する目的をもって加工生産した再生骨材及び再生加熱アスファルト混
<P22>
合物)に関する取扱いを定めるところ,再生骨材の1つとして再生砕石(RC-40)を掲げ,その品質規格を定め,受注者は再生骨材を使用する場合には使用半年以内の材料試験成績書を監督員に提出し承諾を受けるものとするなどとしている。
[乙2]
(エ)本件監理課通知は,砕石骨材(クラッシャラン:C-40及びC-100)に電気炉クラッシャラン鉄鋼スラグ(CS-40)を混合した骨材の取扱いを定めるところ(前提となる事実(3)ウ(ア)参照),上記混合した骨材につき,CS-40が混合されていることから,混合前のCS-40につき使用1か月以内の水浸(蒸気)膨張性試験の結果を提出させ,環境基準適合性に関しては,鉄鋼スラグに残留のおそれがある5品目(六価クロム化合物並びにふっ素及びその化合物を含む。)に限り,混合した骨材につき土壌汚染対策法所定の土壌溶出量基準及び土壌含有量基準(前提となる事実(2)イ参照)と同等の基準を用いた溶出・含有試験の結果を提出させる等としている。
[甲9]
ウ 本件農道整備工事における本件再生砕石の使用等
(ア)群馬県は,平成25年3月19日,南波建設との間で,本件補完工事契約を締結し,南波建設は,その頃,本件補完工事に着工した。
計画設計基準上,「区画整理5工事」区域内の農道のうち,支道6号,支道7号及び支道27号は支線農道に,耕道7号及び耕道8号は耕作道に当たる。
[甲8,19,乙19,20]
(イ)南波建設は,平成25年4月3日頃,吾妻農業事務所に対し,「区画整理5工事」区域内の道路工に使用する「再生砕石RC40一0」(大同エコメット製造・大同特殊鋼販売の「スラグ混合再生路盤材(RC4
<P23>
0)」である。)について事前承認願いを提出し,同日頃,その承認を受けたが,当該事前承認願いに添付した試験結果報告書のうち膨張安定性試験報告書が同年2月17日から同月20日までの試験結果を報告するものであったため,吾妻農業事務所から,使用1か月以内のもの(上記イ(ウ)参照)を再提出するよう求められた。
南波建設は,同年4月25日頃,吾妻農業事務所に対し,本件補完工事の使用材料の配合報告・使用承認願いを追加提出し,その際,「区画整理5工事」区域内の道路工に使用する「再生砕石RC40-0」の同月23日付け試験結果報告書も提出した。
追加提出された試験結果報告書は,①「建設副産物から生産した再生材の使用に関する仕様書」所定の材料試験成績書に当たる公益財団法人群馬県技術センター作成の平成24年11月29F]付け試験結果通知書,②本件監理課通知所定の膨張性試験の結果に当たる大同エコメット作成の平成25年4月10日付け膨張安定性試験報告書,③本件監理課通知所定の溶出・含有試験の結果に当たる株式会社分析センターが平成24年6月1日に実施した環境基準適合性試験の結果を記載した「スラグ混合下層路盤材(RC-40)試験成績書jから成るものであり,その内容は,いずれも所定の基準等を充たすものであった。
[甲15,17]
(ウ)吾妻農業事務所の職員は,南波建設から上記(イ)の膨張安定性試験報告書が再提出されるのを待っていた平成25年4月23日,南波建設関係者と共に,県営萩生川西土地改良事業推進協議会第24回工事委員会に出席した。同委員会において,地元関係者から,「区画整理5工事」区域内の勾配の急な路線の舗装の要望が出され,吾妻農業事務所の職員は,「区画整理5工事」区域内に限らず,急勾配の路線,維持管理上必要な路線,営農上利用状況の多い路線については,優先度,予算の状況等を
<P24>
考え,舗装をしていきたいと回答した。
なお,「区画整理5工事」区域内の農選のうち,支道6号,耕道7号及び耕道8号は勾配が急な箇所があり,文選7号は取水施設に通ずる路線で取水管理のために通行する必要があり,支道27号はこれに接する山林からの出水等によりぬかるみやすい箇所がある等の事情があった。
[乙3,16]
(エ)群馬県及び南波建設は,平成25年6月7日,本件補完工事契約について変更合意をした際,「区画整理5工事」区域内の支選6号線(敷砂利工の対象である西側部分以外の部分)は土取山のすぐ脇にあり,土取山へのダンプカーの往来により舗装の沈下が懸念されることから,その舗装工事を本件補完工事から除外し,最終的な工事での対応とする旨の工事内容の変更をした。
[甲20]
(オ)南波建設は,平成25年6月28日,本件補完工事を完成した。
(カ)南波建設は,吾妻農業事務所の承認を受けた「再生砕石RC40-0」すなわち大同エコメット製造・大同特殊鋼販売の「スラグ混合再生路盤材(RC40)」を本件農選整備工事に使用したほか,「区画整理5工事」区域内の既道4号,支道8号及び支選9号の舗装工のための下層路盤工又は路盤工に使用した。
[甲8,19,乙14,20]
エ 渋川工場スラグに関する問題の発覚等
(ア)群馬県環境森林部は,平成26年1月27日,大同特殊鋼渋川工場の立入検査をし,同年4月22日,立入検査の結果に基づき,大同特殊鋼に対し,「鉱さいである」渋川工場スラグの再生処理及び再生処理に係る運搬の委託を中止すること等の指示を,大同エコメットに対し,「鉱さいである」渋川工場スラグの再生処理の受託を中止すること,「鉱さ
<P25>
いである」渋川工場スラグの再生処理を行っていた中央橋混合場について,生活環境の保全上支障のおそれの有無を確認するため,土壌汚染の調査を行い,その結果を報告すること等の指示をするなどした。
[甲4~6]
(イ)群馬県県土整備部建設企画課は,同県渋川市において渋川工場スラグを使用して整備した道路及び駐車場から環境安全品質基準を上回る六価クロム等が検出されていたことが平成26年1月28日に報道された後,渋川工場スラグを含有する再生砕石を用いた道路工事について,有害物質の含有・溶出の実態等を把握するため,同年4月19日までに,土壌汚染対策法所定の指定調査機関であるブロファ設計に対し,有害物質の調査を委託した。プロファ設計が同日から同月22日までの間に採取し試料を分析した結果,調査対象の6地点(試料採取合計30地点)の全てにつき環境安全品質基準を充たすことが確認された。当時未舗装の本件農道は調査対象とされなかったが,「区画整理5工事」区域内の舗装済みの既道4号,文選8号及び支道9号は調査対象とされ(同日,5地点から試料採取),六価クロムの含有量は1キログラム当たり1ミリグラム未満(基準値は250ミリグラム),溶出量は1リットル当たり0.005ミリグラム未満(基準値は0.05ミリグラム),ふっ素の含有量は1キログラム当たり2800ミリグラム(基準値は4000ミリグラム),溶出量は1リットル当たり0.76ミリグラム(基準値は0.8ミリグラム)であった。プロファ設計は,同年5月,群馬県に対し,調査の結果を報告した。
[甲10,乙14,19,調査嘱託の結果(プロファ設計分)]
オ 本件舗装工事契約の締結,本件舗装工事の施工等
(ア)吾妻農業事務所農村整備課長片山は,平成26年6月2日,指名競争入札の方法による平成26年度地域公共事業調整費蘇生川西地区農道舗
<P26>
装工事(本件舗装工事)の起工につき決裁し,同月12日,前日の入札において落札者となった池原工業との本件舗装工事契約の締結につき決裁し,同日,群馬県と池原工業との間で,発注者を「群馬県契約担当者吾妻農業事務所長 狩野伸縮」とする建設工事請負契約書が取り交わされ,本件舗装工事契約が成立した。池原工業は,その頃,本件舗装工事に着工した。
本件舗装工事は,本件再生砕石が使用された本件農道について,本件農道整備工事後の地盤を既設路盤材とし,その上に厚さ10センチメートルの路盤を築造した上で,表層のアスファルト舗装を施工するもので
あった。
[甲21,2 3, 24,乙2 7, 28]
(イ)吾妻農業事務所農村整備課長片山は,平成26年7月11日,本件舗装工事に関する設計の変更及び請負金額の増額につき決裁し,同日,池原工業から群馬県に対して「群馬県吾妻農業事務所長狩野伸雄」宛の工事変更請書が提出され、本件舗装工事契約についての変更合意が成立した。上記設計の変更の主たる内容は,現地精査の結果,1センチメートル程度の厚さの補足材が必要となるため,補足材分を含め,路盤面の厚さを平均11センチメートル程度とするというものであった。
[甲21,乙29]
(ウ)池原工業は,平成26年7月31日,本件舗装工事を完成した。
(エ)吾妻農業事務所農業振興課長門倉は,平成26年8月8日,本件舗装工事契約の変更後請負代金649万0800円の支出回議書につき支出命令者として決裁し,これを吾妻農業事務所出納員に送付することにより,支出命令を発し,上記出縮織は,上記支出回議書を受けて,同月18日,上記649万0800円の支出をした。
[乙30]
<P27>
(3)以下,上記(2)に認定した知見,事実等に基づき,吾妻農業事務所農村整備課長又は農業振興課長がした本件舗装工事に係る支出負担行為又は支出命令に地方自治法2条14項に反する違法があるか否かを検討する。
ア 本件舗装工事の必要性について
(1)上記(2)に認定した事実等によれば,①吾妻農業事務所が,遅くとも,渋川工場スラグの問題が報道された平成26年1月より前の平成25年4月には,本件ほ場整備事業に係る施行地域(萩生川西地区)内の農進(本件農進を含む。)について,優先度,予算の状況等を踏まえ,順次舗装する方針を採っていたこと,②本件農道については,それぞれ舗装の必要性があり,地元関係者からも勾配の急な支道6号,耕道7号及び耕道8号の舗装を要望される等,優先度も比較的上位にあったことが認められる。
そうすると,本件舗装工事は本来必要がなかったとの原告らの主張を採用することはできない。
(イ)なお,本件全証拠を総合しても,吾妻農業事務所が,本件補完工事契約の締結の時までに,ステージコンストラクションの一般的方法に沿って設計期間を設定して本件農道の舗装厚を設計していたとは認められず,本件農進の舗装の構造,時期等を具体的に決定していたとも認められない。なお,群馬県農村整備課及び吾妻農業事務所が本件監査請求につき監査委員に提出した「農道設計の手引」(群馬県農敏郎策定。平成24年3月版)においては,ステージコンストラクションの一般的方法として「10年の設計耐用年数を用いてその舗装厚を設計する」と記載されているようであるが(甲10),本件全証拠を総合しても,吾妻農業事務所が,10年の設計耐用年数を用いて舗装厚を設計していたとも認められない。
そして,本件農道整備工事の計画平面図等において「敷砂利」という
<P28>
文言が使用されていたこと(甲8,19,弁論の全趣旨),本件農道整備工事の際に,本件農道について「群馬県建設工事施工管理基準及び規格値」所定の下層路盤の現場密度の測定(甲37参照)が行われたとは認められないこと,そもそも、本件農道整備工事及び本件舗装工事を通じて本件農道に上層路盤が築造されたとは認められず,下層路盤を観念する余地がないことを併せ考えれば,本件農道整備工事(敷砂利工)は,被告が主張するようなステージコンストラクションの第1段階の工事であったとは認められず,舗装の時期を具体的に想定しないという意味においては,自己完結的な工事であったというべきである。
被告は,ステージコンストラクションの方法を用いる場合には,下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,その後状況を判断して段階的に施工することが多い旨,本件農道については,本件農道整備工事により下層路盤工までを施工した後,交通開放を行った上で本件舗装工事をした旨主張するが,上記説示のとおり,本件農道について下層路盤を観念する余地はないから,被告の上記主張は前提を欠くといわざるを得ない。また,被告は,ステージコンストラクションの第1段階の工事を設計図書上「敷砂利」と表記することが通常である旨主張するが,これを裏付ける客観的証拠を提出しないから,被告の上記主張も採用することができない。
(ウ)もっとも,①上記(2)に認定した知見,事実等によれば,本件農道は,いずれも支線農道又は耕作道に当たり,その設計に当たっては,道路の一般的技術的基準を定めた道路構造今ではなく,計画設計基準に準拠するのが相当であると認められること,②土地改良事業(区画整理)の性格上、その施行に係る地域内の従前の土地は主として農地であって地盤は軟弱であり,本件農道の路床に当たる部分も軟弱であったと推認され,計画設計基準に係る技術書に掲げるステージコンストラクションの方法
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のうち,第1段階で下層路盤までを砕石材料等で施工して路面整形を行い,工事用車両等の限定された範囲での交通開放を行って圧密沈下等の促進を回り,その後その状況を判断して順次段階的に施工していくという方法になじむと考えられること,③計画設計基準に係る技術書は,ステージコンストラクションの一般的方法に触れるにとどまり,ステージコンストラクションの方法を限定的に列挙したものでも,具体的方法を網羅的に掲げたものでもなく,かえって,支線農道及び耕作道については,現場の状況,経費面,期間的な制約に応じた柔軟な対応を許容し,一般的方法とは異なる舗装構造を採用することも許容するものと解されること,④本件補完工事においては既道4号,支道8号及び支道9号の舗装工が施工されたが,このうち,既道4号が下層路盤工,上層路盤工及び表層工に3区分して施工されたのに対し,支道8号及び支道9号は路盤工及び表層工に2区分して施工されたと認められるところ(甲8),支道8号及び支道9号はいずれも支線農道であって,道路構造令ではなく,計画設計基準に準拠して設計されるべき農道であったから,上記のような2区分による簡易な舗装方法(路盤を15センチメートル,表層を3センチメートルとする方法であり,甲8記載の取付舗装工標準構造図に準じたものと推認される。)が許されないと解すべき理由はなく,これは,本件農道についても同様であると考えられることを総合すれば,本件農道整備工事(敷砂利工)について,上記(イ)に説示したような意味において自己完結的な工事であったと評価すべきことをもって,その後の本件舗装工事は本来必要がなかったということはできない。
イ 本件再生砕石の撤去の必要性について
(ア)前記(2)に認定した事実等によれば,吾妻農業事務所は,平成25年4月、南波建設が本件農道整備工事に使用しようとした「再生砕石RC40-0」(大同エコメット製造・大同特殊鋼販売の「スラグ混合再生路
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盤材(RC40)」)につき,「鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン」,「再生資源の利用に関する実施要領」(建設副産物から生産した再生材の使用に関する仕様書)及び本件監理課通知所定の基準を全て充たすものであることを確認した上で,その使用を承認し,平成26年5月,渋川工場スラグが用いられた路線について,プロファ設計による調査の結果に基づき,本件補完工事の一環として本件農道整備工事と同時期に「再生砕石RC40-0」を使用して舗装工まで施工された既道4号,支道8号及び支道9号その他調査対象となった全路線が環境品質基準を充たすことを確認した後,同年6月,本件舗装工事契約を締結したことが認められる。
これらの事情に,渋川工場スラグについて,六価クロム又はふっ素の溶出量又は含有量が,その発生若しくは加工の時期又は加工の前後にかかわらず,常に同程度であると認めるに足りる的確な証拠はないことを総合すれば,群馬県渋川市における渋川工場スラグ使用事案の問題が同年1月28日に報道されて以降,渋川工場スラグの有害性が広く知られるようになり,吾妻農業事務所の職員その他の群馬県の職員においても渋川工場スラグの有害性を認識し,又は認識し得たという事情を考慮しても,吾妻農業事務所農村整備課長片山が、同年6月12日の本件舗装工事契約の締結に先立って,本件再生砕石を撤去させるべきであったとか,本件舗装工事契約の締結を差し控えるべきであったとまでは評価することができない。
(イ)原告らは,プロファ設計による調査の結果について,鉄鋼スラグのみを取り出して環境安全品質基準適合性を検査すべきであった旨主張するが,そのような検査方法を用いることが適当であることを認めるに足りる的確な証拠はないから,原告らの上記主張を採用することはできない。
また,株式会社片山化学工業研究所作成に係る2014年(平成26
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年)5月19日付け「試験報告書」は,環境基本法所定の環境基準(溶出量の基準)及び土壌汚染対策法所定の土壌含有量基準を超過するふっ素が検出されたとするが,試料の採取場所,採取条件等が明らかでないから(甲42,調査嘱託の結果(同社分)),本件舗装工事契約の締結に先立って本件再生砕石を撤去する必要性を基礎付けるには十分ではない。
(ウ)原告らは,群馬県が渋川工場スラグを産業廃棄物と認定したこと,渋川工場スラグが鉱さいとして特別管理産業廃棄物に該当すること,渋川工場スラグは,適切に処理しなければ,将来確実に地下水汚染を誘発すること等から,群馬県は,同県知事が廃棄物処理法19条の3に基づく改善命令又は廃棄物処理法19条の5若しくは19の6に基づく措置命令をする等して,本件再生砕石を撤去しなければならなかった旨主張する。
まず,渋川工場スラブが特別管理産業廃棄物に該当するか否かについては,原告らは,渋川工場スラグがその含有するふっ素により人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するとするが,ふっ素の含有の有無及び含有量は鉱さいである産業廃棄物が特別管理産業廃棄物に該当するか否かの判定において考慮されないから(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条の4第5号へ,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則1条の2第8項,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令別表第1,別表第2,別表第6参照),渋川工場スラグがふっ素を含有することを理由に特別管理産業廃棄物に該当 することはなく,その他渋川工場スラグが特別管理産業廃棄物に該当すると認めるに足りるべき事情もない。これらは,本件再生砕石についても,同様である。
次に,渋川工場スラグ及び本件再生砕石が特別管理産業廃棄物以外の
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産業廃棄物に該当し得るものとして改善命令等の要否について検討すると,改善命令は,公衆衛生の向上や生活環境の保全を目的として,将来に向けて再びその違法な処理状態が継続しないようにするためにするものであり,現に生活環境保全上の支障が発生し,又はそのおそれがあるというときには,措置命令によって対応することが相当であるから,本件再生砕石の撤去に関しては,措置命令の要否が問題となるところ、措置命令は,既に行われた産業廃棄物の違法な処理に起因して,生活環境保全上の支障が生じ,又は生ずるおそれがある湯合にその支障を除去するためされるものである。そして,前記(ア)及び(イ)(前記(2)エ(イ)参照)に認定説示したところからすれば,少なくとも本件舗装工事契約の締結の時点において上記のような措置命令の発令要件を充たす状況にあったとは認められないことは明らかであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(エ)原告らは,群馬県土木工事標準仕様書が,受注者は路盤の施工に先立って路床面又は下層路盤面の浮石,その他の有害物を撤去しなければならないと定めることから,本件再生砕石を撤去しなければならなかった旨主張するが,上記(ア)及び(イ)に認定説示したところからすれば,本件農道整備工事後の地盤が路床面又は下層路盤面のいずれに該当するかはさておき,本件再生砕石について,撤去を要するような有害物であったということはできない。
(オ)原告らは、本件農道整備工事において敷砂利として本件再生砕石を用いたことは,本件監理課通知に反する旨主張するが,仮に,敷砂利として本件再生砕石を用いたことが本件監理課通知の趣旨に反するとしても,本件舗装工事により,本件再生砕石の敷砂利としての性質又は機能は変容し,路床又は路盤材の一部を構成することとなったと認められるから,本件舗装工事契約又は本件舗装工事の違法性を基礎付けることにはなら
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ない。
ウ 本件舗装工事契約の目的について
前記ア(ア)に認定説示した吾妻農業事務所の舗装に関する方針決定の時期,本件農道の舗装の必要性,地元関係者からの舗装の要望のほか,そもそも,本件農道整備工事において本件再生砕石が使用された事実は行政文書に明記されている上,本件農道整備工事と同時期に舗装工が施工された既道4号,支道8号及び支道9号についてプロフア設計による調査が行われたという状況下においては,本件農道に本件再生砕石が使用されているという事実を隠ぺいすることは不可能であり,その必要性もなかったことを併せ考えれば,本件舗装工事契約の目的が,本件再生砕石を隠ぺいする点にあるという原告らの主張を採用することはできない。
エ 地域公共事業調整費について
前記(2)に認定した事実等によれば,本件舗装工事は,本件ほ場整備事業の一環として行われたものと認められ,これは,地域の政策課題に機動的かつ柔軟に対応することにより,自主的かつ主体的に地域の振興・活性化を図ること等を内容とする地域公共事業調整費の目的になじむものということができる。したがって,本件舗装工事に係る支出は地域公共事業調整費の目的になじまないとする原告らの主張は採用することができない。
(4)以上によれば,本件舗装工事は必要なものであり,渋川工場スラグの有害性や撤去の必要性,契約締結の目的等原告らの主張する諸般の観点から検討しても,本件舗装工事に係る支出負担行為について,専決した吾妻農業事務所農村整備課長片山が,その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして,地方自治法2条14項に反する違法があるということはできない。そして,本件舗装工事に関する支出命令に固有の違法事由の主張はないから,本件舗装工事に係る支出負担行為に引き続いて行われた支出命令が違法であるということもできない。
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したがって,吾妻農業事務所農村整備課長片山が専決した本件舗装工事に係る支出負担行為及び吾妻農業事務所農業振興課長門倉が専決した本件舗装工事に係る支出命令の違法を前提とする狩野の指揮監督義務に関する違法も認められないこととなるから,狩野は,地方自治法243条の2の2第1項に基づく損害賠償責任を負わない。
第4 結論
以上によれば,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 菅家忠行
裁判官 佐藤 薫
裁判官 金澤 康
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これは正本である。
平成30年3月16日
前橋地方裁判所民事第2部
裁判所書記官 清 宮 貴 幸
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■当日は午前、午後とも高崎市役所や太田市役所における活動をおこなったため、記者発表をする時間がありませんでしたが、午後5時ごろ上毛新聞から問い合わせがありました。内容は「控訴についてどう考えているのか?」というものでした。そのため、「明日開く予定の市民オンブズマン群馬の定例会で、会員にこの事件の判決結果を報告し、今後の方針を検討することになる」と答えておきました。その中には「控訴」も視野に入れる旨、伝えました。
とりあえずの判決文を一読した感想は、すべて、群馬県側の主張に寄り添って、証拠についても取捨選択しつつ、判断の経緯と根拠を裁判所が導き出していることです。やはり我が国の司法は三権分立とは名ばかりで、レフェリー役の司法も、行政側の立場を優先しており、いわゆる我が国に根深く残っている「行政や官僚の無謬性神話」という考え方が厳然と横たわっていることを痛感させられます。
今後の方針は、明日、土曜日3月17日午後の当会の定例会で協議したうえで、控訴期限の14日以内に控訴状を出すかどうか、最終判断を下したいと思います。

↑司法が行政よりの判断をするのは今に限ったことではないが、それにしてもここまで酷いとは。↑
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】