悪性脳腫瘍の肥大抑制 金大、関係タンパク質特定 世界初、治療法の突破口に
脳(のう)の悪性腫瘍(しゅよう)の一種「膠芽腫(こうがしゅ)」について、金大研究チームが腫瘍の肥大に関わる脳内のタンパク質を世界で初めて特定した。このタンパク質の働きを抑制する細胞を移植した動物実験では、腫瘍の肥大が緩和される効果を確認。膠芽腫は2年以内に半数の患者が死亡し、従来の外科手術や抗がん剤などによる完治が難しいとされており、研究成果が新たな治療法の確立につながると期待される。
金大ナノ生命科学研究所のリチャード・ウォング教授(香港出身)、金大附属病院脳神経外科の中田光俊教授ら同大単独の研究チームが解明した。成果は米国の科学誌「セル・リポーツ」に掲載される。
腫瘍の肥大に関わっていることが分かったのは、細胞核を覆う膜の「核膜孔」を構成する「NUP107」と呼ばれるタンパク質。チームは、膠芽腫になると、このタンパク質が大量発生することを突き止めた。
ウォング教授によると、NUP107が増加すると「MDM2」と呼ばれる別のタンパク質も過剰に生成され、結果的に、がんを抑制するタンパク質「P53」の機能を低下させていることが分かった。
研究チームはこの仕組みに着目し、動物実験でNUP107の発生を意図的に抑えた膠芽腫細胞をマウスに移植した。すると、腫瘍の大きくなる動きを阻害することが確認されたという。
長年、膠芽腫の治療法を研究している中田教授は「今回のような基礎研究が新しい治療法開発の起点になる」とし、ウォング教授は「核膜孔を構成するタンパク質の数は多い。他のがんとの関連も含めてさらに研究を進めたい」と話した。
京都大の荒川芳輝教授(脳神経外科学)は、今回の金大チームの研究成果を「根治が難しい膠芽腫の治療法開発において突破口になり得る」と高く評価。「この発見がきっかけとなり、世界の膠芽腫研究に新たな方向性が得られる」と期待を寄せた。
★膠芽腫(こうがしゅ) 脳腫瘍の一つで大脳にできやすいとされる。全国では年間2千数百人の患者が新たに発症しており、金大附属病院でも毎年20人程度が新たに入院している。外科手術や化学療法、放射線療法で治療するが、再発するケースが多く、5年生存率は15%とされる。