病に無理解、社会復帰の壁 5類移行で関心薄れも コロナ後遺症
▽不安
「座るのもつらく寝ていても布団の中に引きずり込まれる感覚」。東京都の女性会社員(33)は特有の苦しさを明かす。
昨年1月に感染、2週間で熱は下がったが、けだるさが続いた。トイレに行くのも一苦労、浴室ではシャワーヘッドが持てないほど。在宅勤務しようにもパソコン画面も見られない。後遺症患者らを多く診るヒラハタクリニック(東京)で、後遺症による「準寝たきり」状態と診断された。
復職するたび体調を崩し休職期間は計8カ月以上に。勤務先の理解もあり、復職後も週2回早退して治療に通う。会社には感謝しているが「本当はどう思われているのか」との不安も抱える。
生活設計が見通せない患者も。神奈川県内の病院を休職中の40代の男性看護師は「光が見えない」と訴える。2020年12月に発症。呼吸不全などが残り、現在は労災保険の給付を受けている。
発症時、病棟にはコロナ患者が入院していたが、「院内感染の可能性は低い」とする病院側から労災申請への協力は得られなかった。自ら申請したが、認定されるまでの約半年間は収入源が一切なくなり経済的に困窮。現在も病院側からの生活支援は何もなく、協議は平行線のままだ。
▽もや
聖マリアンナ医科大病院(川崎市)の後遺症外来ではソーシャルワーカーのチームが患者約80人の相談を受けてきた。3月末まで責任者を務めた桑島規夫(くわしま・のりお)さん(46)は、相談の内容は就労関連が圧倒的に多いとし、復職には会社の理解が不可欠と指摘する。
患者の特徴として、倦怠感のほか頭にもやがかかったようになるブレーンフォグの症状がある人が多いと解説し、「書類を書くのも大変なので、手助けする人は絶対に必要」と話す。自身も後遺症外来の医師とともに、商工会議所で講演するなどして説明してきたと強調。社会にコロナ禍を忘れたいとの雰囲気があるとし、「後遺症で長く苦しむ患者がいることを忘れないで」と訴えた。
後遺症患者への国の対策は遅れも指摘されていたが、コロナの分類が5類に移行する5月8日からは診療報酬を加算するなど強化される方針だ。
こうした中、職場復帰や再就職支援などに取り組む自治体も。東京都世田谷区は一昨年、区民を対象に2度にわたって後遺症に関する独自調査を実施した。仕事の不安を抱える人が多いとして、労働相談窓口などと連携し、社会保険労務士らの助言が受けられるサポートを行っているという。世田谷保健所の高橋千香(たかはし・ちか)感染症対策課長は「後遺症は実態が理解されていない。今後も支援を続けていきたい」と話した。
※新型コロナウイルス感染症の後遺症
感染した場合に発熱やせきなどの症状がある程度なくなってからも長く続く症状を訴える人がおり、後遺症として知られるようになった。代表的な症状は筋肉や関節の痛み、疲労感、息切れ、味やにおいの感覚の障害、記憶障害など。感染当初から症状が持続したり、しばらくたってから新たに出現したりすることがある。慶応大の研究チームのコロナで入院したおよそ千人の分析では、3カ月後に46%、半年後に41%、1年後に33%の人が少なくとも一つ以上の症状を訴えた。対応を強化するため、厚生労働省は5月8日から患者を診た医療機関への診療報酬を加算するほか、近く診療する医療機関を取りまとめて公表する。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます