スイス⑦
娘が週に一度参加する英会話教室に、母もどうぞと先生の了解も頂き、参加することになる。
当日朝、「母さんの自己紹介文書いてみて」と言われて、レポート用紙に向き合う。
言いたい事たくさんあって、長々と書いていたら、娘にどんどん削除された。
「全く通常の授業になるかもしれないし、母さんにだけ時間割けないからね」と言われたり・・・
「でも、質問攻めにあうかも知れないから」とも言われて、どっちでもいいか・・・・
日本の北にある小さな村(ほっかいどうなんて知らないと思うと言われ)で農業をしていること。
結婚したばかりの娘がスイスで暮らすことになり心配していたが、来てみて安心したこと、
今日はあなた方に会えて本当にうれしいです。というようなことを簡単に書いて、
それを娘が英語に書き直した原稿を台所のテーブルで練習させられた。
発音を何度もチェックされて、映画「英国王のスピーチ」気取り。行く前からドキドキしてくる。
バスで15分くらいの場所にある町内会館のような施設の一室に入っていくと
70代80代にみえる年配の女性たち4-5人が私たちを迎えてくれた。
先生はイギリス人のミデイさん。60代位の女性で、握手しながら”ラブリーラブリー”と言う。
皆、お互いに一人ひとりと念入りな挨拶を交わし、娘とわたしにも”ラブリー”と盛んに言うので
「母さんって、まだ若いからラブリーなのかね?」とウキウキ聞いたら、「ちがう」と娘。
「今、共に在るこの時間が”ラブリー”っていうことだと思う」 「あ、そうなんだ。。」 すてきだな。。。。
最初の一人一人との長い挨拶で、用意してきた自己紹介文は特に読み上げる必要なく授業に入る。
各々A4版の分厚いテキストに向き合い、順番に1センテンスづつ英文を読みながら進んでいく。
毎週来ているひとも、久しぶりに顔をだしたひとも、すごく真剣にテキストに向かい合っているのが印象的。
ミデイ先生も特に私に気を使うわけでもなく、淡々とテキストに添って授業を進める。だだ、ただ聞いている。
授業が終わりそのまま解散、となりそうになって、「実は母がこれこれしかじか。。」と娘が切り出した。
ご一同、「oh!!!」とわたしのスピーチに耳を傾け、笑顔で拍手してくれて、一仕事終える。
しかし、誰からも何の質問もこず。。。また、ひとりひとりと長い別れの挨拶をかわす。
ニッポン国に興味ないのかな?と思うほど、いつものメンバーと飛び入り異邦人の分け隔てがない感じ。
しかし、こんな高齢になってから他国語を学ぼうって意欲はどこから来るのだろう?
こうして分厚いテキストを開き、発音する自分の声を聴くだけでも気持ちが沸き立つな。。と想像した。
解散した後お茶に誘われたが、残念ながら次に行くところがありバイバイ。
いつものようにホールの片隅にあるカフェで一息ついてお喋りして帰るのだ。
ふと、生徒の一人ベテイさんが「気を付けて帰ってね」と英語で言ってくれて、「さんきゅー」と英語で返したとき
一瞬ものすごくはにかんだような表情になって、それがいつまでも気になっていた。。。
しばらくして、あっ、と気づいた。 ドイツ語でお礼を言えばよかった。。。。。と
その一言は、英語でなく、彼女の母国語で心を込めて言いたかった。。。。。
スイスの人たちは長い歴史の中で想像もつかないような国民一人一人の本能で、愛国心、自立心を
培い、育みながら、全世界に向かって永世中立国として存在し続けてきたのだろうな。。。
世界地図の中のスイスは、日本よりまだ小さく、よくまあ此処にこの面積だけ残されたものだと思う。
移民も多いというから興味本位に他国人に対して心は開かないだろう、と静粛な気持ちになる。