Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

味わい深い葡萄の樽

2008-10-14 | 試飲百景
フォン・バッサーマン・ヨルダン醸造所で日本へのワインを発注して来た。幾つかの興味深い話を代表から聞いた。

一つは、2007年度産から採用を取り止めたガラスキャップの話である。やはりトラブルが相継いだようだ。密閉度で固体差があったり、実際液漏れの事故などの苦情が相継いだようである。気圧や温度変化には、弱いと思ったがより複雑な原因があるようだ。

何れにせよ、これだけの大手醸造所が否定的な結論を出した以上、確かラインヘッセンにあるこの業者の先行きは怪しい。採用後五年ぐらいの経過を観察しての結果なので、致し方ない。

それに関連するが、グラスキャップを止めたことでスクリューキャップとなったワインの問題点を早速追求した。つまりコルク栓と違ってワインが呼吸しないと言う点で、あまり保たないのではないか、ワインが熟成しないのではないかという点である。

これに対しては、瓶の残りの部分の空気量で二三年の熟成には十分だと言う見解であった。同時にそれは、あの途轍もなく見事なウンゲホイヤーのシュペートレーゼが今やキャビネットクラスのスクリューキャップとなったことへの見解を質す必要が生じた。

結局、キャビネットクラスならば消費ワインであり五年も十年も寝かす必要がないとする見解であり、なるほどコルク栓などは必要ない。

そしてコルク栓自体がかなり頻繁に問題を起したようで、より高級なコルク栓を必要とするエルステスゲヴェックスと呼ばれるグランクリュワインを出す以上、嘗てのシュペートレーゼの意味が希薄になってきているのは事実であろう。

元来ウンゲホイヤーはスパイシーなワインの出来る土壌であり、各醸造所がその土壌からグランクリュワインを上手く作るのに苦心をしている中で、あっさりと「消費ワイン」にしてしまう企業戦略を採用したのはなんとも思い切りがよい。

それにしてもフォン・バッサーマンのウンゲホイヤー辛口のあの本当に状態の良いストラディヴァリウスの響きのような透明で清潔かつ粒の詰まった輝かしい充実感はリースリングヴァインならず世界のワインのトップクラスであった。もうあのようなシュペートレーゼが入手出来ないとすれば本当に寂しい。

勿論のこと自身の関心からライタープファードとキーセルベルクとグラインヒューベルを試飲する。最初のものは1808の樽で以前のものとは異なり土臭さよりも鉱物的なミネラル質へと変化して、二つ目の0608の樽は春に日本へ持ち込んだものとは殆ど変わらないが未だに若々しさもありながらそこに足が生えたような堂々さが加わって第一級のリースリングと成長している。またグラインヒューベルの味わいは、雑食砂岩とはいえラインガウのそれに匹敵する砂地に密度の高いエレガントさを備えている。春にはあった甘みが既に複雑な様相を呈しているのに感動させられる。

そのような按配で、自己取材した収穫の状況と、代表の商品コンセプトの話を合わせて見るとなるほど想像していた通り、これだけ規模が大きい醸造所ではかなり高度な判断がなされているのである。

こうして、東京ドイツ大使館を通して宮内庁に商品が運ばれ、世界の好事家の顧客の手へと引き渡される。

既に殆どの葡萄は摘み取られ、エルステス・ゲヴェックスなどが醸造されている。そして、来週まで上手く葡萄が貴腐に包まれてきたならば更にトロッケンベーレンアウスレーゼなどの果汁が絞られることになる。

既に売り切れた天然酵母醸造の「アウフ・デア・マウワー」は、ヴァインヴェルトと言う雑誌で「2008年のリースリング」に推挙されたが、「あまり感動しなかった」と言うと「ああしたコンペティションの主観とお客さんのそれが一致する訳ではないが、まあ、こうして売り切れて呉れることは我々にとっては嬉しいことだ」と。

結局、そのワインと並置されていたフォルストの様々な地所からの「プローブス」を試飲して、これはまたキルヘンシュテュックなどのグランクリュワインとは別に収穫した葡萄を上手く使っているなと再確認するのであった。熟成さえ上手く行けば、こうしたキュヴェーもなかなか味わい深い。
参照:
湿っぽい紅葉狩りの週末 [ ワイン ] / 2008-10-13
リスク管理の平衡感覚 [ 暦 ] / 2008-10-10
コメント (2)
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