Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

煙に捲かれるナルシスト

2010-05-23 | 生活
ナルシスの群生を彷徨った。水仙の群生などはそれほど珍しくはないと思うのだが、そこはアルプスにも近い、天気さえ良ければモンブランを望むことが出来るジュラの千メートルも越える高地のことであった。確か、関西では淡路島の水仙などが有名で、日本での最後の初夏だったかそのあたりをマシーンにかかる塩水を気にしながら二輪でツーリングしたのを思い出す。その気候の相違には少なからず繋がらない面がある。

フランスの旅では、もう一人の仲間が病に侵されていることを聞いた。詳しくは誰も語らないが、彼はチェーンスモーカだったから肺癌に違いないだろう。最後にあったのが一月末であったからそれから病巣が発覚したのだろう。年齢も癌年齢の最初の方にあり、体力的には老齢化している感じはなかったのだが、彼自身の独特のいらいらするような心理状態を思い出して語る者もいる。

私自身は、最初からそうした印象を彼に持っていて付き合っていたので、その点には特に気にならなかったが、そのいらいらと比例するような感じでタバコだけでなく葉巻まで岩壁の上で燻らす状況には特に注目していた。なるほど何十年も前の山の仲間ではザイルで人を確保しながら一服していた光景は極一般的であり、テントのなかでも燻らしていてもそれほど大きな問題とはならなかった。それどころかマリファナらしきものまで持ち歩いているヨセミテ帰りのヤクザな者も居なくはなかった。

しかしそうした状況は大きく変って、山の中で煙草を燻らす者も今は少数派となっている。だからか彼が燻らす煙が少しは懐かしさも誘ったものである。手元に彼が岩壁の上で燻らす写真がある。そう言えば、彼はクルニーでは裸で宿舎の玄関を歩き回っていてカウンターの中の女性に叱られていた。病気の彼のことと同じぐらい、朗らかで人気のある彼の奥さんのことを語る者が多い。誰もが同じようにその夫婦のなんとなくアンバランスさが気になるようで、言後にそうした雰囲気が強く感じられる。

他の集まりでも同じような年頃で肺癌を宣告されて一切治療を断念して、直ぐに退職した者が居る。我々の前に態々顔を見せることは無くなったが、大分前に元気にしていると聞いた。術後の予後が無い分、元々体力があり運動していた者ならば、現在の症状さえ悪くなければ日常生活はそれほど変わらないのかもしれない。詳しくは知らないが、それ故に却って彼の場合はかなり症状が悪化していたとも想像される。

気象の座学などがなかなか呑み込めなくて苦労していた彼の姿を思い出すと、大変心労の多いだろうその奥さんとともに大変気の毒な気持ちになる。嘗ての山仲間と異なり、それほど高齢でもないのだが、山に逝くというよりは病に倒れるというのが廻りに多いのもどんなものだろうか?自分がそのような仲間に入っているというのが気に入らない。



参照:
水仙…ナルシスの花の香 (壺中山紫庵)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする