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映画・演劇のレビュー

『ランズ・エンド 闇の孤島』

2013-10-11 20:56:25 | 映画
 この小さな映画がもたらす緊張感が心地よい。映画はこうでなければならない。だが、こういう秀作が今の日本では劇場公開もなされないのが実情だ。地味すぎてお客が入らないという判断が下される。仕方ないこととはいえ、なんだか残念だ。このダークトーンの映像は、劇場で観てこそその魅力が伝わるはずだ。だがDVDで見るしかない。

 小さな町で起きた凄惨な殺人事件。犯人はかつて同じような性犯罪を犯した男ではないか、と思われる。だが、証拠はない。刑事は彼を追い詰める。だが、証拠は出てこない。イライラする。だから、思わず手を出してしまった。かっとなって、殺してしまう。やがて、意外なところから新犯人が現れる。

 刑事は自分の罪を隠そうとする。だが、精神的にどんどん追い詰められる。正義のはずだった。だが、一時の感情の噴出が自分を追い詰める。良心の呵責に苦しめられる。

 話自体は別に目新しいわけではない。よくある話だ。だが、この圧倒的な風景のもと、その閉塞感が、この映画の力だ。ストーリーが大切なのではなく、この風土がもたらす雰囲気がこの映画のすごさなのである。犯行(というか、容疑者をそこに連れて行って犯行を吐かせることが目的だったのだが)が行われることになる満ち潮になると島になる場所、その圧倒的な空間が素晴らしい。これはまずそのロケーションの勝利だ。

 英国北西部の海沿いの町。暗く閉鎖的な町が舞台だ。そこで起きた小さな事件。刑事の兄弟、彼らの父親もまたこの町の刑事だった。だが、今ではもうボケてしまって、自分がまだ現役の刑事だと思っている。そんな父の介護をしながら、暮らす。そういう背景がきちんと描かれるから、このなんでもないはずの映画は魅力的なのだ。

 製作総指揮はサム・メンデス。彼の監督作品だと勘違いして借りてきたのだが、監督は新鋭のニック・マーフィ。悪くない。大喜びするほどの傑作というわけではないけど、こういう無名の隠れた小品に出会うと、それはそれでうれしい。



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