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映画・演劇のレビュー

極東退屈道場『百式サクセション』

2016-11-04 22:42:34 | 演劇
なんだか凄い舞台美術だった。アイ・ホールに入って、すぐ、その圧倒的な空間に驚かされる。ダンボールで作られた様々なオブジェ。空に浮かぶ雲。外灯。自販機。監視カメラ。タイヤ。TV。街頭カラオケのステージ。そのサイドにはちゃんとスピーカーもある。背景には、アベノハルカスの威容。地面には圧倒的な量の「新聞紙」が敷き詰められる。さらには舞台全体を「囲い」が覆う。劇場全体を使って作り込んだ空間。そんな舞台美術を見下ろすようにしてコの字型で客席が作られてある。



これは壮大なスペクタクル。ひとりの老女(生田朗子)がやってきて、青空カラオケでマイクを取り、久保田早紀の『異邦人』を歌う。その圧倒的なシーンから(ちゃんと最後まで歌うよ!)始まり、終盤再び『異邦人』が流れる中、公園が塀により隔離されていくシーンまで。いくつものエピソードがコラージュされていく。



ここからはもう、彼らの場所はなくなる。たった100円でステージに上がれ、カラオケをがなり、自分がここにいることを確かめる。あそこにいた老人たちはどこにいってしまったのだろうか。100円で叶う夢とは何なのか。



いくつものスケッチをコラージュさせるというのは、いつもの林さんのやり方で、そこから彼らの姿をルポルタージュしていく。これは老いた人たちの居場所を巡る検証である。監視カメラがとらえた断片から垣間見える社会の縮図は、今までの地下鉄やコインパーキングと繋がる。しかし、今回はこの舞台美術とも相俟って、今までの集大成にようなスケールで綴られる。お話の題材として『リア王』を持ってきたのも、このお話を神話的スケールの作品にしようという試みゆえであろう。もちろん、必要以上にはリア王には、こだわらず、それどころか、そこは糸口にしただけだ。そのへんも林さんらしい。テキストに囚われてバランスを崩すという愚を犯すことなく、マイペースでこの壮大なドラマを紡ぎあげた。
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