
もう一度『風の港』を読みたいな、と思っていたら村山早紀さんは再びこの小説を書いてくれた。もちろんこれだけではない。彼女の作品はみんな続くのを期待させるものばかりだ。だけど安易にシリーズ化して欲しいわけではない。もう会えないかもしれないけど、もし奇跡的に逢えたならうれしい。そんな気分にさせられる作品なのである。
今回の最初の一作がまさにその気分を代弁してくれる作品だった。これも奇跡かもしれない。『十二月の奇跡』である。あまりに奇跡的な再会が描かれるこの小説はただのおとぎ話かもしれない。だけどこんな幸せがこの空港では起きる。
続く4篇も小さな奇跡が描かれている。次の『雪うさぎの夜』も幻想的な話だ。夜中の空港を歩いている。明日の朝の便で帰るから空港内のホテルで泊まっているけど、眠れないから空港内を散歩している。すると深夜なのに開いている花屋に遭遇する。
人生の終わりを意識して思うこと。亡くなった母の遺品整理のために帰国したあずさ。彼女自身も人生の晩年を意識する年齢になった今、母の人生を思う。彼女は幸せだったのか、と。
「きっと間違った旅なんかないのよ。人生の、どの選択にも意味がある。この道を行こうと決めたなら、その道が正解なの。価値のない人生なんてない。」母の言葉が蘇ってくる。
冒頭の2作が対になっている。今回の作品の方向性を定める。旅の入り口であり出口でもある空港を舞台にして村山早紀の旅は続く。