
30代のふたりの女たちを描く。まだ20代になったばかりの女性監督がほぼ10年後の世代の挫折を描くなんて、なんと大胆で傲慢なことであろうか。だけど若さゆえ、許される。いや、彼女は未来をしっかり見つめてこの小さな映画を作ったのだろう。挫折と書いたが、これはそこからの再生のドラマである。だけど安易な物語にはしない。
中里有希監督はふたりの女たちの10数年後の再会を通して今ある人生とこれからの生き方を探る。
高校生の頃、親友だったふたり。あの頃交わした約束を実現するためにささやかな旅に出る1日が描かれる。一緒にハイキングに行くこと。たったそれだけのことが叶わなかった。だから再会した翌日一緒に山登りをする。簡単なことだ。
彼女は若くして結婚した。子どもはいない。夫は優しい。だけど寂しい。何かが足りない。満たされない日常を変える為に祖母の家にやって来た。ひとり暮らしの祖母の介護のために、という口実。実際は自分のために。長期出張で夫不在の家。そこから出てもう長い。もうすぐ夫が戻ってくる。だけど、帰りたくない。
いきなり昔の友人が訪ねてきた。驚くけど、うれしい。だけどそんなことを表には出さない。彼女は何故かポーカーフェイスだ。戸惑いの方が大きい。10数年ぶりである。そんなぎこちないふたりの会話。友人は高校教師をしている。だけど今は休職中。恋人のモラハラから自殺未遂をして実家に戻っている。
そんなふたりが夏の1日、山登りをする時間が描かれる。山頂にあるらしい幸せの鐘を鳴らすために。だけどそんな鐘はなく、天気が悪くなり下山する。お決まりの友情と再生のドラマにはならない。こんな暗い話を作って見せる若い学生監督作品。だけどここに描かれる未来は救いがないわけじゃない。これを受け止めるところからこの先にある人生を生きる。これはそんな覚悟が確かに感じられる佳作である。