この本、読んだことある、と思わせるのは、『家日和』も『我が家の問題』も既に読んでいるからだ。おなじようなお話が並んでいて既視感を抱かせる。(それは内容だけでなく本自体の装丁デザインも同じだからなのだが。)
でも、いつもながら、上手い。引き込まれる。どこにでもありそうな普通の家族の話なのだ。でも、それがこんなにも、心に沁みてくる。どんどん読み進めて、すぐに終わる。後に残らない。それくらいに口当たりがいい。こんなにもほろ苦いお話ばかりなのに。そこもまた、このシリーズの魅力なのだろう。
今回の個人的なベストは、『正雄の秋』かな、と思う。自分も、もう少しで定年を迎えるから、この気分がわかる。彼は53歳で本当なら、まだまだバリバリ、どころか管理職としてこれから最前線で戦うはずだったけど、同期との昇進レースに敗れて都落ちすることとなる。その時、初めて今まで仕事にかまけて、おざなりにしてきた自分と家族のことを(しれが一番大事なことなのに)改めて考えることになる。 そんなお話だ。
他のお話も、同音異曲で、50代の作者の分身のような主人公が、それぞれの状況で右往左往するさまを穏やかなタッチで描く。コミカルにされると、なんだか嫌な気分になりそうなくらいに、切実で、でも、仕方ない、現実。それがさりげなく提示される。妻に死なれた夫の焦燥を描く『手紙に乗せて』も、なんだかなぁ、と思うわせるくらいに、身につまされる。50代の後半に突入した男の子は結構複雑。