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今から40年ほど前、『ミツバチのささやき』と同時に公開された。あの時は『ミツバチのささやき』の印象があまりに強烈すぎて、この作品はそれほど心には残らなかった。いろんな意味で中途半端な映画だったと記憶していた。
よくわからないまま映画が終わって戸惑いばかりが残った。『ミツバチ』があんなにわかりやすくストレートに胸に届く映画だっただけにこの作品のモヤモヤした気分に当時、あまり感心しなかったと記憶している。昨年エリセの久々の新作『瞳を閉じて』が公開されたが、今再び初めて見たエリセ映画の1本であるこの作品と再会する。
約40年振りに見たが、あの時の想いと変わらない。だけど、もちろんこれは素晴らしい映画だ。何もないのに、心震える。ここにはストーリーらしいストーリーはない。父親のこともわからない。知らなかったが、これは予定では3時間の大作だったみたいでお話の途中で終わっているらしい。主人公の少女が南に向かうところで終わる。
彼女がこの先南に行く後半部分がまるまるない。描かれなかった不在の後半が胸に沁みる。この先にあるはずの父と祖父の確執、スペイン内乱のこと、幸せがあるはずの南の国で彼女は何を知るのか。それが描かれないからこそ、そこに無限の可能性を見る。10歳の日の祖母の来訪、15歳の日の父の死。小さな大人になって彼女は南に向かう。それはエルスールというタイトルにふさわしいラストである。