習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇潜サブマリン『帰ってきた兄』

2011-12-07 21:32:49 | 演劇
 まだ20歳前後の若い作家(作、演出 千葉悠平)の作品だ。大阪芸大の学生劇団による公演。学外で本格的に上演し、自分たちの表現を広く世界に指し示そうとする、なんて言うのは、いささか大袈裟か。でも、その心意気は買う。チラシを見たとき、家族の問題を扱っているみたいで、そこにもそそられた。頭でっかちの自己満足でもなく、頭がからっぽのエンタメでもない。そんなほどほどのバランス感覚が伺える。出来あがった作品は、表現自体はあまりに幼い。だけれども、作者には、この芝居で伝えたいものがあり、それを伝えるための努力はしている。今やれる全力は出せているのではないか。

 テーマの設定の仕方。それを突き詰めていくストーリー展開。その基本ラインは合格点だろう。だが、その突き詰めていき方が甘いので、ドキドキさせられないまま、終わる。もう少し不条理な劇展開があってもよかった。母親と息子との関係、とか不在の(というか、2か月前に死んだのだが)父親との関係も、もっと書き込むべきだ。高校生の息子がどうしてここまで母親べったりなのか。母が再婚した相手の男(義父ね)に対して抱く複雑な感情とか、おもしろくなる要素は満載なのだが、描き込めてない。

 お話はこんな感じだ。

 兄が帰ってくる。兄というけど、実はこの家の人間は誰も彼のことを知らない。今、ここで暮らす3人は彼が家出してからこの家にやってきた。要するに彼の父親と再婚した義母にあたる人と、彼女の2人の子供たちである。2ヶ月前に彼の父親は急死した。そんなことも知らずに、いきなり彼はこの家に帰ってきたのだ。「兄」と書いたが、彼は本来一人っ子で、帰ってきたことで初めて兄となったのだ。ここは自分の家なのに、自分の知っている人は誰もいないという不条理に遭遇する。彼と、彼を受け入れるこの日初めて出会った弟を中心にして、母親との相克が描かれる。

 母親は彼の中に死んだ夫の面影を見出し、彼を偏愛するようになる。このへんは異常だが、そこがおもしろいのだ。彼女は再婚した新しい夫を愛しすぎたため、その死を受け入れられない。彼女のそんな壊れた心をもっとリアルに描けたなら、これはかなりおもしろい芝居になったはずだ。さらには、彼女の息子はマザコンで母親の愛を取り戻すため死んだ継父になりかわろうとするとか、いろんなところで、かなり異常な展開を見せる。それだけに惜しい。詰めが甘いからそれが稚拙な表現にしか見えないのだ。これではせっかくの可能性が費える。




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スアシ倶楽部『甘い想い』 | トップ | 『毎日かあさん』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。