習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『毎日かあさん』

2011-12-07 21:54:34 | 映画
 東陽一監督の『酔いがさめたら、うちに帰ろう』と競作になった。あれが夫の側から描いた物語であるなら、これはもちろん妻の側から描いた物語だ。鴨志田穣と西原理恵子の夫婦の物語を2本の映画が分け合う。前者は浅野忠信と永作博美が主演し、こちらは小泉今日子と永瀬正敏が主演する。どちらも素晴らしい映画だった。こんな映画を作ってもらえて彼らは幸せだった、はずだ。

 子どもたちがすばらしい。映画は甘い家族愛の物語でもないし、お涙頂戴の難病ものでもない。ただありのままに生活を見つめていく。だが、その視線は暖かい。どうしようもない男を抱えて、仕事と子育てを両立させ、頑張る母さんのお話だ。でも、無理しているわけではない。毎日の生活を楽しんでいる。

 とんでもないことばかりを仕出かしてくれる子どもたちと、それ以上にとんでもないことを仕出かす夫。彼らを抱え、でもマイペースで生きる。悲惨な話になってもおかしくない。アルコール依存症の戦場カメラマンだった40過ぎのオヤジである夫(離婚するが、でも、最期まで見守る)は、なんとかアルコールを断とうと努力する。幸せな家庭を築きたいと願っている。だが、アルコールを断てない。

 出産のとき、田舎から母親が出て来てくれて、助けてもらった。そのまま母親に甘えて生活した。5年間ずっと母親は東京で一緒に暮らしてくれた。2人の子供たちの面倒を見てくれる。だから、仕事も、家事も、子育ても、ついでに面倒なダンナも、すべての両立ができる。5歳の男の子と4歳の女の子。まだ幼い2人は父親が大好きだ。彼女も本当は彼を必要としている。そして、彼自身、が一番この家族を必要としている。そんなそれぞれの気持ちがとてもよくわかる。痛いほどびんびん伝わってくる。

 この映画が素晴らしいのは、家族の本当のあり方をそこに描いたからだ。壊れてしまった家族の風景なのに、それが本当のあるべき家族の理想像につながる。みんなが必死になってこの大切な『家族』を守ろうとする。そんな姿が愛おしいのだ。ラストの家族写真を撮影するシーンが胸に痛い。だめだめ男でしかない彼が癌に侵されボロボロになりながら、ようやく家族を手にする。大事なものはここにあった。そんなこと言われなくても最初から知っていた。なのに、ダメだった。何をやっても上手くいかない男が、ようやく摑んだ平和な幸福。戦場カメラマンとしてカンボジアで悲惨な風景をいくつも見てきて心を壊してしまった。だが、ここにきてようやく心の平和を手にする。それは死と引き換えに。

 ことさら感動のヒューマンドラマには仕立てない。あっさりした映画だ。それは東陽一作品も同じだった。だが、こちらの方が微笑ましい。若くてまだ経験のない小林聖太郎監督をみんなで支えて手探りで作った、という感じがよかったのだろう。彼のデビュー作『かぞくのひけつ』も悪くはなかったけど、あの映画を撮っただけの彼がこれだけの映画を作れたなんて驚きだ。(失礼!でも、正直な感想です)永瀬正敏が凄い。癌に侵され死んでいく過程があそこまでリアルに伝わったからこの映画は成功したのだろう。 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇潜サブマリン『帰ってきた兄』 | トップ | 『愛する人』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。