野田秀樹のオリジナルは大竹しのぶによる1人芝居なのだそうだが、今回evkkはそれを2人芝居として再構成した。(3パターン用意してオリジナルに忠実な1人芝居ヴァージョンもある)僕が見たのは宮下牧恵が主役を務める2人芝居ヴァージョン。
実にシンプルで美しい、いつもながらのevkkなのだが、野田戯曲なので、膨大な台詞がある。こんなにもストーリーラインが前面に出たevkkの芝居ってめずらしい。いつもならお話よりも、まず情景のほうが前面に出る。視覚的な美しさとイメージが作品をリードしていく。しかし、今回はまずお話があり、それが作品を引っ張っていく。主人公の生きざまを追いかける。
主人公の智恵子を演じた宮下さんが素晴らしい。彼女が自分の意志を貫き、どんどん突き進む姿が、冒頭から全編を貫く自転車を使った躍動感のある描写に象徴されて描かれていく。圧倒的だ。
芝居は、視点を2つにすることで、より確かな客観性を獲得した。2人がひとりだったことがわかるラスト付近のオチもシャープだ。智恵子を見守る女中(澤井里依)の目線から描かれる部分が全体の流れに弾みをつける。
男目線の『智恵子抄』を女性の(しかも、複眼の)視点から捉え直す。エネルギッシュで力強い智恵子の生き方にスポットをあてる。女だから、というだけで差別される時代のなかで、自分を貫く。
直接は登場しない光太郎(土本ひろきによるナレーションが、何度か、入る)のずるさ、弱さとの対比も鮮やか。智恵子の心が壊れていく過程で、本来なら彼女を支えるはずの光太郎が実は彼女をダメにしていくという展開にドキドキさせられる。ラストでは、もう『レモン哀歌』は使われないのではないか、と思わせるほどだ。だが、そんな心配は見事に裏切られる。彼女によって語られるあの詩は、この芝居のハイライトになる。しかし、それは別の意味での哀切さを奏でる。見事なエンディングだ。