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映画・演劇のレビュー

baghdad cafe『キセキのこどもと私の飛ぶ空』

2009-03-08 22:56:14 | 演劇
とても丁寧に作られてあり、芝居を作るということを大切にしていることがしっかり伝わってくるから、見ていて気持ちがいい。自分が作ろうとする世界には何が必要で、それをどんなふうに提示したならいいのかに心砕いている。真面目で一生懸命だ。まぁ、そんなこと当然のことで、誰だってそんなふうに作るよ、と言われそうだが、こんな当然のことが出来ていない芝居も多い。基本を忘れて暴走する。基本すらないのに理屈ばかりは一人前。そんな芝居を幾つ見たか。

 真面目で一生懸命。それはこの作品の主人公であるアヒル(一瀬尚代)とよく似ている。一本気で思いつめてしまって、傷ついてしまう。彼女がなぜ死ななければならないのか、が描かれていない。死ぬということがまず事実としてある。その設定は悪くない。

 過去の自分、未来の自分、それぞれ傷ついた理由はよくわかるのに、今の自分である彼女がなぜ命を絶たなくてはならないのかだけはきちんとした説明がない。そこがこの芝居のおもしろいところだ。過去でも未来でもなく、今、彼女はビルの屋上から飛び降り自殺する。地面に向けてまっすぐに落ちていく。まもなく彼女は死んでいく。その瞬間に見た幻がこの芝居で語られる。彼女は見知らぬ人たちとバスに乗っている。しかも、バスは空を飛んでいる!

 作、演出は泉寛介。昨年今は亡き【イスト】で何度か彼とお話をした。本人から受ける印象や、彼が他の集団に書き下ろした作品と、この作品との落差に驚く。こういうファンタジーを彼は自分の劇団で作ってきたのか。フライヤーとかから、ある程度は想像できたが、実際に見て、さすがに驚く。あまりに優しく、単純で、そこには何の悪意もない。裏表のある芝居がほとんどなのに、これはあまりにピュアでストレートだ。見たままがすべてである。それはいいところでもあるが、こまったところでもある。

 芝居は2時間10分とかなり長い。この内容からすると、100分以内に充分収まる。なぜこんなに長くなったのかというと、くりかえしが多くて、説明が長すぎるからだ。それとバックダンサーによるダンス。あれが徒に芝居を引き伸ばしている。もっとすっきりまとめたならいいのに、どうしてこんなに気張ってしまったのか。旗揚げ劇団ならいざ知らず、もう7回目の公演なのに、これはないと思う。終わりそうで、いつまでたっても終わらない。きちんきちんとすべてのことを説明しなくては先に進めないというのもどうだかなぁ、と思う。バカ丁寧すぎる。

 あげくはラストの子供の誕生だ。あれは何だ? 妊娠してたのか? この部分だけまるで説明がない。彼女をずっと見守っていた青年(山田将之)は彼女の子供だったらしい。だが、それをラストで明かして何になるのだろうか。それで納得して安心するか?それはないだろう。結局描かれていることの説明でしかないのだ。

 想像の翼を広げて、世界を構築して欲しい。このバスの住人はすべて彼女の関係者でみんなが応援してくれるから彼女は生きていこうとする。あまりに無邪気で罪のない話だ。残念だが優しいだけでは芝居にはならない。

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