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映画・演劇のレビュー

DRY BONES『帰れない二人』

2009-03-09 20:02:44 | 演劇
 竹内銃一郎の演出である。あの竹内さんが学生劇団の演出をする。まぁ、大学で教鞭を執る傍ら彼らを応援する意味で協力する、というのはままある。近大生はいい指導者に恵まれて今関西の小劇場界を席捲せんばかりだ。とてもいいことだと思う。だが、今回の竹内さんの関わり方は従来の先生として学外で公演しる、というパターンとは少し色合いが違う、気もする。

 それにしても竹内さんは若い子たちとこの集団を旗揚げして何をしようとされているのだろうか。そういう意味でも当日パンフの『イケテナイ宣言(ご挨拶にかえて)』という一文が興味深い。「5年前、もう二度と演劇の現場には戻らないだろうと」思ったらしい。そんな彼が今、こういう形でまた、芝居と関わるのは、<演劇のイケテナさ>を愛おしく思うというまるで子供のような感慨かららしい。この一文からは、なんだかいろんなことを考えさせられる。(5年前の出来事については不勉強で知らない。)

 さて、本編である。2本立になっている。『帰れない二人』というテーマの下|書かれたまるで無関係な2本の芝居はそれぞれがとても初々しい作品だ。学生に課した課題を彼らに自由を与えて作品化している。ここには作家である竹内さんはいない。だが、こういう形で初めて、ほんとうの芝居というものが始まるのかもしれない。手探りで自分たちの表現を求め、失敗ばかりを繰り返し、でもそこからいろんな発見をする。学校の授業ではなく、学外で、自分たちのお金を使い、お客さんからお金を頂き興行をする。そんな当たり前に驚く。

 『エル・スール』はシチュエーション・コメディーのスタイル。病室を舞台にしてここでの右往左往が描かれる。結婚式場から飛び出してきた花嫁。幼なじみの男の子がここで入院している。彼に自分の花嫁姿を見せたいと願う。この2人を巡るドタバタが描かれる。たわいない話だ。

 『アモーレ・アモーレ』は僕と君がいつまでも帰らずに夜の川原にいる姿が描かれる。その日二人は牧場に行き、彼女はそこで出逢った牛と運命的な恋に落ちる。彼ら二人のところに彼の昔の友人が現れたり、わけのわからない女がやってきたりする。だいたいこの話自体もわけがわからない。牛と女の恋だなんて荒唐無稽が過ぎる。思いつきで書いたような話だが、それをなんとかきちんと芝居にしようとしてる。いきなり二人が踊りだすシーンには驚いたが、それがその後の展開にどんな影響も与えない。じゃぁ、あれって何?

 2本見終えて、正直言ってなんとも思わなかった。だが、不思議といい気分だった。悪くはない。少なくとも、退屈はさせない。それだけでも上等ではないか。全編を井上陽水の懐メロが流れる。これは竹内さんの趣味なのか。いくらなんでも20歳前後の学生の選曲ではあるまい。ではそれはどういう意図なのか、不明だ。と、いうことで、これは「竹内銃一郎」という謎が謎を呼ぶ舞台だった。

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