習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『なつかしの庭』

2009-03-08 22:20:52 | 映画
 光州事件を描いた映画だが、事件の全貌を捉えることがテーマではない。80年代の韓国民主化運動を背景にしたラブ・ストーリーという骨格を持っている。しかし、イム・サンスである。甘いだけのラブ・ストーリーなんかにはならない。

 だが、『浮気な家族』『ユゴ 大統領有故』に続く韓国現代史3部作の完結編でもあるこの作品は、今までの奇を衒ったタッチとは全く違い、叙情的なパッケージングを持ちながらも、シリアスなタッチで、このかなりハードな内容を持った作品を表現する。

 光州事件にかかわったことで、17年間刑務所で服役していた男(チ・ジニ)が刑期を終えて出所する。家族は優しく彼を迎える。だが、彼自身の髪は白髪になり、表情もなく廃人のようになっている。

 17年前の記憶がよみがえる。ソウルから田舎に逃げてきて、ある女性に匿ってもらった日々。美しい風景の中でのひと時の心やすらぐ日々。でも、次々に仲間が検挙されていく中、いつまでもここで潜伏しているわけにも行かないと思う。ある日、彼はソウルに戻る。彼女のおなかの中には彼の子供が宿っているにもかかわらず。

 政治の時代を背景にして、お互いに心惹かれながらも、引き裂かれていく男女を描くから、スタイルとしては典型的なラブ・ストーリーだし、17年後釈放された後、なつかしいあの村に戻っていくも、彼女は既に死んでいて、彼女の遺品と過ごす時間の中で、あの頃の思い出がよみがえってくる、というのも典型的なメロドラマのスタイルだ。しかし、このスタイルの中で描かれる光州事件と、あの時代の人たちの姿、時代の気分は実に哀切で、丁寧に描かれるこの映画のすべては観客である僕らの胸に突き刺さる。

 ラスト・シーンには、初めて娘と再会するエピソードが用意されている。そこに未来への希望のようなものを見出せるのが救いだ。

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