きっと、武藤さんはずっと、この作品を作りたかったんだろうな、と。そんな彼の熱い想いが確かに伝わってくる作品だった。昨年の『なすの庭、夏』を経て、自信を持って放つ作品は実に端正な青春物語。
オリジナルの時空劇場作品は、僕が見た最初の松田正隆作品で、内田淳子、金替康博、亀岡寿行による傑作。(コンブリ団のはしぐちしんも出ていた。橋口さんを初めて見たのも、この作品)映画にもなった。黒木和雄監督作品。原田知世、永瀬正敏主演。
武藤さんにしか出来ないような作品になっていたのがうれしい。今回のポイントは何といっても、ふたりの男たち。彼らがふたりとも、なんだか、じゃがいもくんみたいで、かわいい。普通ここには、もっと男前(ごめんなさい!)をキャスティングすべきところなのだ。なのに、敢えて、そうはしなかった。彼ら2人がなんだか、武藤さんの分身のように見えてきておかしかった。(ごめんなさい!)ルックスではなく、(もちろん、ルックスや雰囲気も似ているけど)内面から滲み出るものが、似ている。要するに愚鈍なまでもの誠実さだ。好きな女性に好きと言えない。心を押し隠して、でも、もう誰の目にも見え見え。ストレートな永与と、頑なな明石。この二人はコインの裏表だ。ふたりはひとりで、だから、悦子は彼らを受け入れる。そんな3人のままごとのような恋が描かれていく。だから、これはとても可愛い。先の2作品とはまるで違うのはそこだ。そして、ヒロインの浜志穂。『なすの庭、夏』に続いて彼女が武藤作品のミューズとなる。彼女のキャラクターもまた、これまでの紙屋悦子とは違う。温かいのだ。小さくて、ふっくらしたキャラクターが愛くるしい。
時空劇場も、映画作品も、あまりに男たちがカッコよすぎた。そうじゃないだろ、と思う。そんなんじゃない、という武藤さんの声が聞こえてくる。これは特別な男女ではなく、どこにでもいた普通の男女。でも、彼らは一生懸命恋をして、生きたこと。お国のために戦う。でも、本当は好きな女の子と幸せに暮らしたい。そんな当たり前のことを描きたかった。
名もない庶民のささやかな暮らし。ほんの短い時間のドラマを通して、散りゆく桜の花に象徴させた、一瞬で消えていく青春のはかなさを描こうとした。ラストで流れる「風」の、というか、伊勢正三の『ささやかなこの人生』が、武藤さんの想いを代弁している。わかりやすい。
本当にありがとうございます(^人^)
春演の合評会でも、いろいろお話出来ると嬉しいです。
この記事、私のFacebookでシェアさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?