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映画・演劇のレビュー

わたしたちのヒカリproject『光と虫』

2023-02-26 09:10:00 | 演劇

これは昨年夏、ちんどん芸能社として公演されるはずだった作品である。コロナのため直前に中止されたようだ。久々の武藤さんの演出で、とても楽しみにしていただけに残念だった。(でも、実をいうと僕はあの週、用事があって見ることが出来なかったのだが)

今回その中心となったキャストが再結集して、新たに場所を変えて仕切り直しの公演となった。ウイングフィールドから未来ワークスタジオになったことで違うアプローチが可能になったのではないか。ここはかなりのタッパがあり、その高さを生かした作りになっている。今回の演出は武藤さんではなく出演もしている松永泰明。この起伏のないドラマを最後まで緊張感を持続させ綴った。

2020年6月、コロナ禍。海外から帰国して2週間隔離されている6人の男女のお話。ホテルのベランダから外を見る。部屋からは出られず、鬱々としている。寂しさと不安もある。そんな彼らが隣室の知らない人と交わす言葉のやり取りが描かれる。2人づつ3組、10日ほどのできごと。さりげなく切り取られる時間。最初は花火の夜。山側の彼らの部屋がある方向からは花火は一切見えない。音だけが聞こえる。こちらからはホタルが見えるみたいなのだが、今日は見えない。
 
お話はこんな感じで始まり、終わる。特別なことはそこには何もない。いくつかの夜と朝が続く。やるせない。かなり重い芝居だ。何があるわけでもないのに。ひとりが発熱して病院に移送された。やがて、隔離期間は終わっていく。90分の芝居も終わる。
 
これはある種の心象風景だ。そしてあの日々の記録。今大変だったあのコロナ禍の時間が少しずつ過去のものになっていく。それはいいことなんだけど、あの日の気分を忘れていくのは、なんだかなぁと思う。あの日あの時、誰もが感じた孤独。それがここに象徴される。声高に何かを訴えるのではない。だからこそ伝わる、伝えたいものがある。この芝居は確かにそれを描いている。

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