
芥川賞受賞後第1作。どうでもいいこと(歩いていて、道を避け合わないまま、ぶつかる)にこだわり執拗にあらゆるケースを検証する女性が主人公。彼女の抱える問題は世の中の不条理だけど、これは彼女自身の不条理でもある。彼女は真面目過ぎて心を病んだ。スマホを見ながら歩いているから前が見えてない人にぶつかられる。普段は自分が気をつけて避けるが、どうして自分ばかりが避けなくてはならないのか。歩きスマホをしている人が優先されるのか。
彼女には中学の先生をしている彼氏がいる。結婚間近。プロポーズされたがはっきり返事はしてない。保留。いい人だけど、何か嘘くささを感じる。実は彼は二股をかけている。それに気づいて保留したのではない。彼の真面目さが何だか信じられない。それは自分の真面目さの裏の顔を彼は知らないが、自分は確かに知っているから。
彼らはお互いいい子だから、本音を言えない。きっと話しても分かり合えない。ラストの事故も彼女が悪いわけではないけど、彼女が非難される。腹立たしいけど仕方ない。
怒りを胸に秘めて生きる。だけど、それは健全なことではない。いつか壊れてしまう。ラストの事故、その直前の彼の浮気メールが、結論ではない。では、何が結論なのか。よくわからないけど、腹が立つ。
併載された2つの短編も不穏なことが描かれる。『お供え』は先代社長のフィギュアを大事にする男。『末永い幸せ』は友人の結婚式に参加できない女。お供えしたら叶う小さな願い。結婚式を人身売買のように思うから、出たくないけど彼女の結婚は祝いたい。まさかの出来事、対応。とても微妙、でもなんだか納得してしまう。