前作『#マンホール』が少しがっかりだった熊切和嘉監督の新作。久しぶりに菊地凛子を呼び寄せて、(なんと初期作の『空の穴』に出ている!)彼女を主演に迎えたロードムービー。
コミュ障の42歳、恋人も友人もいないひとり暮らしの女。夢を抱いて青森から東京に出てきて24年。あれから一切故郷に戻っていない。今の生活に煮詰まっている。
そんなある日、いきなり従兄(竹原ピストル)が訪ねてくる。彼女の父親が死んだ。明日葬儀が行われるから、今すぐ一緒に青森に帰ろうという。彼は家族を連れて車で迎えに来てくれたけど、彼女はぐずぐずしている。無理矢理車に乗せられ旅が始まるが、途中のドライブインで事故に遭い、従兄たちと逸れてしまう。
そこから始まるのはまさかのヒッチハイクの旅。所持金はたったの2045円。(確かそうだった、気がする)しかも、ほぼ、まともな会話もできない。幻の別れた頃の42歳の父(オダギリ・ジョー)の導きに遭うが、帰りたくない。
グスグスするばかりでなかなかストーリーは進まない。イライラさせられる映画だ。だがそれがこの映画の狙いでもあるから成功しているのかも知れない。全く気分はよくない。腹立たしい。一応ヒッチハイクで弘前を目指すが、こんな女を乗せてくれる奇特な人はなかなかいない。怪しいライターの男に暴行されるが、当然だと思う。危険は承知で同乗し、まともに会話もできないままホテルに同行した。自業自得だし彼からすれば、同意の行為だ。
夜明けの海で倒れたまま過ごす時間。朝になり、起き出して、なんだか生まれ変わってしまったように前向きになる。その後はたくさんの人たちに助けられて奇跡的に実家に辿り着く。出棺は待っていてくれたようだ。なんだが、あまりに都合が良すぎて嘘くさい。たぶんこれはある種のファンタジーである。そう納得したら、少し落ち着く。ただ、彼女の心情が最後まで見えないから共感はできない。
いい映画だった、なんて素直には認められないけど、つまらない映画だったと切り捨てるのは違う気がする。居心地が悪いし、嫌な気分になるけど、決して悪い映画ではない。