ようやく見ることができた。封切りから40日が過ぎて、あとわずかで上映が終わる時期に、この時期一番の期待作とご対面。
《とてもいい映画だったが、いやな映画だった。》これはかなり複雑な気分だ。見終わった時の後味は、とてもよくない。2時間20分。主人公の男が出合った事件とその裁判に付き合い、身も心もクタクタになる。しかし、これは素晴らしい映画である。なぜ、こんな微妙な言い回しになるのか、そのことを書いて行く。
この映画はあの『シャル・ウィ・ダンス?』の周防正行監督の11年ぶりの新作である。あの楽しさと切なさをもう1度と、期待して劇場に行った人たちは、このあまりの重さに驚いたことだろう。痴漢の犯人と間違われた青年の受難をコミカルに処理した裁判劇と思い、見に来た人たちはその落差に驚き、失望したかも、知れない。それでもボクはやってない、というタイトルにある<ボク>というカタカナ表記は、この映画の重さと、社会派のスタイルにはそぐわない。
コメディータッチで軽やかに日本の裁判の怖さを描く、そんなふうに思っていたのに、まるでドキュメンタリーのように、淡々と描かれていくのに驚いた。でも、ぐいぐい引き込まれていきスクリーンから目が離せない。満員電車で痴漢をしたと疑われて、警察に拘留され、あくまでも否認続ける。やってないのだから当然である。しかし、それが彼を追い詰める。この青年を、加瀬亮がいつものように自然体で演じている。主人公と演出の距離の取り方も上手く、この内容とこのタッチなのに、実はそれほど重くはない。重厚な社会派映画になりかねない題材を、主人公に寄り添い、冷静な目で、暖かく見守る。
出てくる人たちが、みんなそれぞれの職分の中で、最善を尽くして生きているのが、しっかり伝わり好感が持てるのもいい。大森南朋の刑事にしても、痴漢行為に対して腹を立てているのであって、彼を犯人と決め付けてしまったのは問題だが悪意からではない。なのに、こんな事になっていく。悪い人なんてもちろんいない。主人公は理不尽な裁判の犠牲になるが、誰も彼に悪意を持ち、貶めるために陰謀を張り巡らして、罪に陥れたわけではない。システム自体に欠陥があるのだ。だが、それを是正するのは困難を極める。
周防監督は、丁寧にそれを見せてくれる。時間をかけた取材によって、この現実を暴いていく。彼の中にある怒りは、ひとまず胸の内に秘めて、まず事実を正確に伝えることに徹する。そのことを通して観客である我々に自分の問題として、考えさせようとしてくれる。僕らも彼と同じで、このシステムの中で生きているのだから。
役所広司の弁護士がすごくいい。彼の下で働く新米弁護士、瀬戸朝香もいい。女性である彼女が、この事件に接していく過程がリアルに描かれてあり、そこがこの映画のもう一つの入り口にもなっている。彼女の視点と加瀬亮の視点の2つの次元からこの映画を見ていけるのがいい。
ただ、この映画が大ヒットしなかったのは、よくわかる。みんなの期待に沿う映画ではなかったからだろう。だけれども、こういう立派な映画が東宝系で拡大公開されることは大切なことだ。一人でもたくさんの人がこの現実と向き合って欲しい。
《とてもいい映画だったが、いやな映画だった。》これはかなり複雑な気分だ。見終わった時の後味は、とてもよくない。2時間20分。主人公の男が出合った事件とその裁判に付き合い、身も心もクタクタになる。しかし、これは素晴らしい映画である。なぜ、こんな微妙な言い回しになるのか、そのことを書いて行く。
この映画はあの『シャル・ウィ・ダンス?』の周防正行監督の11年ぶりの新作である。あの楽しさと切なさをもう1度と、期待して劇場に行った人たちは、このあまりの重さに驚いたことだろう。痴漢の犯人と間違われた青年の受難をコミカルに処理した裁判劇と思い、見に来た人たちはその落差に驚き、失望したかも、知れない。それでもボクはやってない、というタイトルにある<ボク>というカタカナ表記は、この映画の重さと、社会派のスタイルにはそぐわない。
コメディータッチで軽やかに日本の裁判の怖さを描く、そんなふうに思っていたのに、まるでドキュメンタリーのように、淡々と描かれていくのに驚いた。でも、ぐいぐい引き込まれていきスクリーンから目が離せない。満員電車で痴漢をしたと疑われて、警察に拘留され、あくまでも否認続ける。やってないのだから当然である。しかし、それが彼を追い詰める。この青年を、加瀬亮がいつものように自然体で演じている。主人公と演出の距離の取り方も上手く、この内容とこのタッチなのに、実はそれほど重くはない。重厚な社会派映画になりかねない題材を、主人公に寄り添い、冷静な目で、暖かく見守る。
出てくる人たちが、みんなそれぞれの職分の中で、最善を尽くして生きているのが、しっかり伝わり好感が持てるのもいい。大森南朋の刑事にしても、痴漢行為に対して腹を立てているのであって、彼を犯人と決め付けてしまったのは問題だが悪意からではない。なのに、こんな事になっていく。悪い人なんてもちろんいない。主人公は理不尽な裁判の犠牲になるが、誰も彼に悪意を持ち、貶めるために陰謀を張り巡らして、罪に陥れたわけではない。システム自体に欠陥があるのだ。だが、それを是正するのは困難を極める。
周防監督は、丁寧にそれを見せてくれる。時間をかけた取材によって、この現実を暴いていく。彼の中にある怒りは、ひとまず胸の内に秘めて、まず事実を正確に伝えることに徹する。そのことを通して観客である我々に自分の問題として、考えさせようとしてくれる。僕らも彼と同じで、このシステムの中で生きているのだから。
役所広司の弁護士がすごくいい。彼の下で働く新米弁護士、瀬戸朝香もいい。女性である彼女が、この事件に接していく過程がリアルに描かれてあり、そこがこの映画のもう一つの入り口にもなっている。彼女の視点と加瀬亮の視点の2つの次元からこの映画を見ていけるのがいい。
ただ、この映画が大ヒットしなかったのは、よくわかる。みんなの期待に沿う映画ではなかったからだろう。だけれども、こういう立派な映画が東宝系で拡大公開されることは大切なことだ。一人でもたくさんの人がこの現実と向き合って欲しい。