この淋しさをいかに受け止めようか? 2つの物語が交錯することもなく、並行したまま描かれていく。
40代半端の中年男。通天閣がすぐそこに見えるワンルームのアパートで一人朽ち果てていくように、暮らしている。工場で毎日単純作業の機械労働をして、ただ生きていくだけの日々。仕事が終わればいつもの中華店で大盛りの塩焼きそばを食べて、風呂に行き眠る。
女は20代の後半。恋人はいるが、彼は今映像作家になるためニューヨークに行っている。そんな彼の帰りを待ちながら、一人不安な日々を過ごす。寂しくて、それでも仕方なく暮らしている。夜のスナックで働き、友達もなく、ただ、彼の事を想い続けている。
こんな2人の姿を、これといったドラマもなく、淡々と追いかけていく。
何のために生きているのか、よく分からない。夢とか、希望とか、ご大層なものはない。いや、かってはあったのかも知れないが、今ではもう忘れてしまった。つまらない毎日、不安と孤独の中で、何も出来ないまま、一人生きていくことのさみしさ。「生きている」のではなく「こなす」毎日、と彼は言う。誰ともかかわりあいたくない。ただ、時だけが過ぎていく。
女の恋人から電話が入る。「好きな人が出来たから別れて欲しい」と。このありきたりで笑うしかない結末。離れ離れになった時から解っていたことかもしれない。だが、それが現実になった時、女は生きる望みをなくす。好きな男と一緒にいたいと、それだけを望むような女はバカなのか。そして、男の夢を叶えるために、ニューヨーク行きを許し、「待っているから」なんて言って送り出したのに、彼は向こうで同じように映画を夢見る日本人女性と出会い、自分を棄てる。
こんな2人が、通天閣の鉄塔に登り、飛び降り自殺しようとする男を偶然目撃する。この小説のクライマックスだ。唯一2人がすれ違う場面。(ここで、いきなり、真田コジマの『アンクレット・タワー』とよく似た展開になる。)男は自殺男をなんとかして、思い止まらせようとする。女は「死んでしまえ」と思う。たくさんのやじ馬たちが通天閣を取り囲む。
ラストで一瞬交錯する2人の主人公は、同じ町に住みながらも、これから先、きっと出会うこともなく生きてゆくだろう。この2人が、実はかって父と娘として、暮らしていたという記憶にも、2人は気付くことはない。女の母親と男が、昔結婚し、しばらくして別れた。そんな20年以上前の出来事。もう覚えてもいないような記憶。その時、女はまだ少女で母の後ろに隠れていた。男もまだ20歳くらいで若かった。
《 目をつむった。布団の中は、なんて暖かいんだろうなんて、そんなことを思っていたら、私いつの間にか眠っていた。》
そう、今は静かに眠ればいい。人は、どんないやなことがあっても、生きていかなくてはならない。この人生は続く。この小説の「生きろ」という単純なメッセージがなぜか、とても胸に沁みてきた。
40代半端の中年男。通天閣がすぐそこに見えるワンルームのアパートで一人朽ち果てていくように、暮らしている。工場で毎日単純作業の機械労働をして、ただ生きていくだけの日々。仕事が終わればいつもの中華店で大盛りの塩焼きそばを食べて、風呂に行き眠る。
女は20代の後半。恋人はいるが、彼は今映像作家になるためニューヨークに行っている。そんな彼の帰りを待ちながら、一人不安な日々を過ごす。寂しくて、それでも仕方なく暮らしている。夜のスナックで働き、友達もなく、ただ、彼の事を想い続けている。
こんな2人の姿を、これといったドラマもなく、淡々と追いかけていく。
何のために生きているのか、よく分からない。夢とか、希望とか、ご大層なものはない。いや、かってはあったのかも知れないが、今ではもう忘れてしまった。つまらない毎日、不安と孤独の中で、何も出来ないまま、一人生きていくことのさみしさ。「生きている」のではなく「こなす」毎日、と彼は言う。誰ともかかわりあいたくない。ただ、時だけが過ぎていく。
女の恋人から電話が入る。「好きな人が出来たから別れて欲しい」と。このありきたりで笑うしかない結末。離れ離れになった時から解っていたことかもしれない。だが、それが現実になった時、女は生きる望みをなくす。好きな男と一緒にいたいと、それだけを望むような女はバカなのか。そして、男の夢を叶えるために、ニューヨーク行きを許し、「待っているから」なんて言って送り出したのに、彼は向こうで同じように映画を夢見る日本人女性と出会い、自分を棄てる。
こんな2人が、通天閣の鉄塔に登り、飛び降り自殺しようとする男を偶然目撃する。この小説のクライマックスだ。唯一2人がすれ違う場面。(ここで、いきなり、真田コジマの『アンクレット・タワー』とよく似た展開になる。)男は自殺男をなんとかして、思い止まらせようとする。女は「死んでしまえ」と思う。たくさんのやじ馬たちが通天閣を取り囲む。
ラストで一瞬交錯する2人の主人公は、同じ町に住みながらも、これから先、きっと出会うこともなく生きてゆくだろう。この2人が、実はかって父と娘として、暮らしていたという記憶にも、2人は気付くことはない。女の母親と男が、昔結婚し、しばらくして別れた。そんな20年以上前の出来事。もう覚えてもいないような記憶。その時、女はまだ少女で母の後ろに隠れていた。男もまだ20歳くらいで若かった。
《 目をつむった。布団の中は、なんて暖かいんだろうなんて、そんなことを思っていたら、私いつの間にか眠っていた。》
そう、今は静かに眠ればいい。人は、どんないやなことがあっても、生きていかなくてはならない。この人生は続く。この小説の「生きろ」という単純なメッセージがなぜか、とても胸に沁みてきた。