児童文学に分類されてもかまわないくらいに単純で誰にでもわかりやすい小説だ。「『しずかな日々』の少女版」と帯には書かれていたが、感触はまるで違う。あれは大人に向けての小説だったが、この幼い少女たちの世界はファンタジーのようなお話とも相俟って、児童文学と呼ぶのがふさわしい。まずこれは子供たちのための小説であり、それは大人たちにもちゃんと通用する。
ここには子供たちへの確かなメッセージが込められてある。死というものを受け止めきれない少女たちが、戸惑いながら、それを受け止めていくまでの物語だ。古いお屋敷にある蔵は、死者の世界と通じている。だからそこは入ってはならない場所だ。弟の死を受け入れられない姉と、祖母の認知症による記憶障害に困惑する少女が、蔵で死んだ弟、意識のしっかりした昔ながらの祖母と再会するまでのお話なのだが、このファンタジーつぃての仕掛けが大事なのではない。小説はそこにたどり着くまでの描写に全編の8割くらいの分量を費やす。つながりの蔵を巡る話ではあるのだが、そこが大事なのではなく、少女たちの日々のスケッチが死と背中合わせにあるということが大事で、だからそれがラストの蔵に入る部分へとつながっていくのだ。
5年生という時間はたぶんかなり微妙だ。もうただの子供ではない。だけど、大人の世界にはまだ足を踏み入れていない。ちゃんと子供なのだ。この小説を読みながら、2011年の台湾映画『星空』を思い出した。手元にあるあの映画の原作である絵本を見る。ここにもしっかりと死の予感が漂う。