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映画・演劇のレビュー

山田詠美『無銭優雅』他2編

2007-03-19 19:31:33 | その他
 新刊を中心に恋愛小説を続けて読んでいると、なんとなく今という時代に求められているものが見えてくるような気がする。(まぁ錯覚かもしれないが)

 それにしても、どの本の中でもなぜか穏やかな恋が次々描かれている。主人公の年齢的な問題もあるのだろうが、恋愛が一時的な感情ではなく、静かで落ち着くもの、という認識が定着しつつあるのか、なんて。

 山田詠美の『無銭優雅』は42歳の2人が主人公。この小説はちょっとしたマニフェストではないか、なんて思わされる。お金よりも心の豊かさ、なんて声に出すのも恥ずかしいけど40過ぎて子供のような恋をする2人。もちろん現実はとても厳しく彼らを取り巻く環境は決して穏やかではいられない。でも、結局2人はそれでも同じように生きていくことになる。結婚するでなく(だって明日死んでしまうつもりで恋をしよう、とか言ってるのだ)不安を抱えつつ生き、でも気付いたらお互いおじいちゃん、おばぁちゃんになってたらいい、と思う。そんな恋愛が描かれる。

 若い頃大変だったこととか、今老いた親を抱えての不安。兄夫婦の冷え切った関係。エトセトラ。まぁよくあることを散りばめて、山田詠美の今という時代での恋愛観が綴られる。

 小手鞠るい『空と海のであう場所』は32歳の2人。13歳の出会い、23歳の再会。一緒に暮らして、やがて別れたこと。今再び別々の場所でそれぞれの人生を生きながら、共に1冊の絵本を作り上げることで、20年前の出会いのときの約束を果たそうとする。この人の『エンキョリレンアイ』を読んだ時、あまりの陳腐さにがっかりしたけど、今回も同じ。この人はこういうメルヘン世界の住人なのだろう。それはそれで一貫性があるかな、と今回は思った。(慣れただけかもしれないが)

 と、いうことで今月の一押しはヴァシィ章絵『ワーホリ任侠伝』。このバカバカしいまでもの面白さをいかに説明したらいいのか。掟破りの滅茶苦茶さ。一応普通のOLだったはずが、夜のバイトをして、そこでヤクザの青年実業家と出会い、一生に1度の恋をして、跡目争いに巻き込まれて、国外逃亡。ニュージーランドからあげくはフィージーまで、最後には女組長になるか?荒唐無稽の局地。空前絶後のワーキングホリデーが描かれる。主人公は22歳。この若さでもう人生やり尽くした気分になる女の子の大冒険。この3篇の小説(なぜか10歳刻みで3世代の女性が主人公)が今月のハイライト、ということにしよう。

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