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映画・演劇のレビュー

朝井リョウ『何者』

2013-02-24 21:05:18 | その他
 こちらは現代が舞台で、大学の3年から4年にかけての1年間のお話。現役である朝井リョウが、自分の体験をもとにして書いたのだろう。のほほんとして大学生活を送っていた大学生活を終わらせて、就活を始める学生たちを描く群像劇だ。『横道世之介』の直後に読んだので、なんだか気分としてはあの映画の続編のような気分にさせられた。

 まだ、自分が何者でもなく、何者にもなれない不安を抱えて生きてきた頃。主人公を中心にした男女5人のお話が描かれる。これはもうひとつの世之介か? なんて思うながら読む。まぁ、全く違うけど、たまたま同じ時にこの2作品を見て、読んでいたから、なんか2つが続きもののように思えるのだ。それくらい僕の気分は今は世之介に染まっている。

 観察者として、周囲を見ていた主人公が、自分は何もしない、というか、出来ないくせに、へんに余裕をかまして、みんなを斜に構えて、見てる。本当は不安で仕方ないのに、そんなそぶりをクール(実は必死)に隠して、みんなと同じように就活に励む。そんな男のお話だ。

 ラストがなんとも痛ましい。本当の自分を暴かれて、でも、それだけではないことは、言えなくて、自分の弱さと向き合う。本当はそんな気はない。余裕なんかないから、そんなそぶりをしていただけ。しかも、ツイッターで。面と向かって誰にも何も言えない。弱いから、何もできない自分を肯定したくて、そんな演技をしていた。

 みんなも弱いから、なんて言われても、安心しない。自分の弱さが怖い。不安を認めたくはない。というか、向き合いたくはないのだろう。ストレートに作者の抱える不安を描く。とても正直な小説である。こういう素直な小説が直木賞を受賞するなんて、なんだか不思議だ。これを照れずに受け止め、審査した先生方、けっこう素敵かも。

 単純なお話だが、その単純さが作品の力となっている。ラストはどんでん返しではない。謎が解けたからといって何一つすっきりしない。もちろんそこがこの作品のねらいだ。弱そうに見えて、冷静。自分はみんなとは違うのだ、というポーズをとることで、なんとか心身のバランスを保つ。だが、そんなことになんの意味もないことは、誰よりも自分が気付いていた。たいへんな時代を生きている。でも、それが現実なのだから、受け止めるしかない。


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