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映画・演劇のレビュー

『ゼロの未来』

2015-05-20 20:23:06 | 映画
久々にテリー・ギリアムらしい映画を見た、って感じで、とても興奮した。要するに『未来世紀ブラジル』の頃のギリアム再来、ということだ。あの彼の最高傑作はSF映画史に残る金字塔である。あれに匹敵する作品は両手にも満たない。思いつくままにあげると、まず『時計仕掛けのオレンジ』、『エイリアン』、もちろん『2001年宇宙の旅』と『猿の惑星』。『ブレードランナー』に『未知との遭遇』と『スターウォーズ』くらいか。もちろん他にも凄い映画はないことはないけど、誰もが認めるエポックとなる歴史的傑作となると、そのくらいのものしか選べない。まぁ、要するに『未来世紀ブラジル』という映画はいかに凄かったか、という話なのだ。

そして本作である。大作である『ブラジル』と較べると、これは小粒な作品であることは否めまい。しかし、この狭く閉ざされた世界での少人数による作品というコンセプトから大作は望むべくもない。ただこれが表の『ブラジル』とセットをなし、裏の『ブラジル』とでも呼ぶべきものになっており、2作品は補完関係にあるのは事実であり、ここには前作も含めた明確な答えが用意されてある。

廃墟の教会に籠り、コンピューターと向き合うだけで完結してしまう。誰とも付き合わず、ここから出ない。仕事で外出を強いられるのが苦痛でならない。別にここにいても出来るのに、呼び出される。そんな彼のもとにひとりの女と、少年がやってくる。彼らと関わるうちに彼の中の何かが変化してくる。

さらには、その指し示される映画の答えにあたる部分がとても前向きで単純なのがいい。ゼロのその先にある未来へとむけてのメッセージとなっているのだ。すべてがコンピューターの中だけで成立してしまうような世界にあって、リアルを実感するためには何が必要か。この部屋を飛び出して現実の世界で生きろ、というような単純な答えではないけど、あきらめるのではなく、わかった気になるのでもなく、まず、一歩踏み出すことに込められた願いが、ギリアムからの未来に対する答えである。シニカルで悲惨なラストではない。あれは希望のラストなのだと受け止める。

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