なんと、無声映画である。もちろん、ちゃんと昔ながらの字幕でせりふが出る。モノクロ・スタンダード。とても端正な映画。まるで戦前の映画を見ているような素朴さ。描かれるのも昔々のお話。有名な闘牛士とその妻カルメン(彼女はもと踊り子で、今は、身重の身。あと少しで出産する)幸せなふたり。今日、彼女は彼の雄姿を見るために競技場に来ている。いつものことだが、少し心配。でも、彼なら大丈夫、な、はずだった。
冒頭、闘牛場に集まる人々の姿が描かれる。なんだか白っぽい絵は、通りを行く人々の少なさのせいか。でも、そうじゃない。大通りの広さ、周囲の建物の低さゆえだ。これはロケーションの問題で、この場面は、たくさんの群衆がスタジアムに集まってくるシーンなのだ。しかし、昔の風景だから、のんびりしている。この冒頭の映像が好き。
さて、お話だが、思わぬアクシデントがふたりを襲うのだ。カメラマンの写真撮影するフラッシュの光のせいで、一瞬、目が眩んだために彼は牛に襲われて大けがをする。妻はショックから、命を落とす。臨月に達していた子供は奇跡的に助かる。しかし、生まれたときから両親のいない赤ん坊は祖母に育てられるが、やがて祖母も死去し、天涯孤独の身の上となる。だが、なんかよくわからない継母みたいな女に引き取られて屋敷にやってくる。彼女は、怪我で半身不随になった父親の介護をしている看護師なのだが、実質は動けないし喋れない彼を監禁状態にして、家の実権を握って好き放題しているようだ。
少女は彼女から酷い扱いを受けるが、けなげに育つ。しかし、やがて、父も死に、彼女から殺されそうになる。なんとか、脱出して、旅の一座に助けられる。7人の小人たちのマタドール一座だ。彼女はそこで、白雪と名付けられ、闘牛士となる。しかし、継母の差し入れた毒入りリンゴを食べてしまい、永遠の眠りに就くこととなる。
なんちゅう話じゃ、とあきれた人もいるだろう。コメディではなく、ちゃんとした悲恋ものである。なんだかとっても不思議なテイストで、もちろん、どこかで聞いたような童話の焼き直しだけど、ただし王子のキスでは眠りから覚めません。
古いぼんやりした映画を眺めているうちに、時間が永遠になる。ゆっくりと、どうでもいいような話はいいかげんに展開していき、まるでポンコツな夢を見ているような気分にさせられる。でも、この何とも言い難い心地よさは何だろうか。夢の中でまどろんでいられる。