『ドライブ・マイ・カー』の脚本家・大江崇允というのが名刺代わりになるのだろうが、僕は昔、彼の芝居をよく見ていたからその名前はなんだか懐かしい。旧劇団スカイフィッシュだったと思う。彼は映画監督になったのか、と感慨深い。演劇作品だった『適切な距離』と同タイトルの作品を映画としてリメイクしたことは知っていたけど、残念だが見ていない。もちろん『ドライブマイカー』は見ているけど、彼の監督作品はこれが初めてだ。
落合モトキとあのが主演するこれは一応商業映画である。だけど、一般受けするような作品ではない。マイナーで地味な映画。だけど彼のこだわりはしっかり伝わってくる作品である。夜中の散歩が描かれる。結婚する約束をした恋人から他にも男がいると言われた。お話はまずそこから始まった。
自分の居場所を失った男が、誰かとつながりたいと思いマッチングアプリで女の子と会う。だけど彼女は女子高生。(あのちゃん!)彼女を自宅に連れ込んでシャワーを浴びていると彼女が死んでいた。そこから始まる地獄めぐりが描かれる。彼は救急車を呼ばすに山に死体を棄てに行く。
ちょっとデビット・リンチっぽい作品ではある。だけど怖さが足りない。彼の中にある不安と孤独が恐怖にまで高められない。ARアプリと現実の夜の散歩が交錯して現実と幻想のあわいを彷徨する。消えた死体の謎を追う。彼女は何者だったのか。墓場に現れたアプリ内の人たち。不気味な夜間散歩の集まり。不眠症の男の不安な夜の時間が描かれる。やがて死体になったはずの女の子が現れる。
ラストがあまりにあっけない。彼女が死んでなかったのは構わないけど、簡単に深夜の山中から逃げられるとは思えない。最初に会った喫茶店でふたりは再び同じように向き合う。まだ何も起きていない時間に戻ったみたいな気分になる。すべてが彼の見た妄想だったのか、と思わせる。それはそれでいいけど、その先こそが見たい。