今回の君嶋彼方は高校生の日常スケッチである。「大人になれば忘れてしまう、全力でもがいていたあの日のこと」と本の帯にある。切ない6つの短編。
こんなにもドラマチック「ではない」日常スケッチなのに、こんなに胸に痛い。そして優しい。それぞれが傷みを秘めて生きている。触れられたら泣きそうになる想いを秘めて心静かにひっそりと教室の片隅で佇んでいる。
放課後の教室でひとり本を読む。幼なじみと誰もいない中庭でお昼ご飯を食べる。そんな時間を毎日繰り返し時は過ぎていく。高校生だったあの日を思い出す。休み時間ひとりぼっちで廊下から中庭を見つめていた。そんな日々。友だちがいないわけではないけど、なんだか寂しくて。
ここにある6つのお話は僕をあの日に連れ戻す。15、16歳。そして17歳に。いずれも心の傷に素手で触れるようなお話ばかり。いじめられていることを認めたくないからヘラヘラして従う。友人のフリをしてなんとか相手を陥れようと画策する。読んでいて悲しくなってきた。ここまでして生きるしかないのか。もっと他にやり方はないのか、と。自分で自分を傷つけていることなんて、わかっているけど、やめられない。
お話はいずれもふたりの間で起こる。ペアになっている6つの話。寂しいけどふたり。
感動は最終話で訪れる。この先はネタばれになるから、この本を読むつもりなら読まないで欲しい。
あれから10年後。ここにいるふたりは1話から5話までの高校生ではない。あの子たちはもう26歳の(あるいは27歳)大人になっている。最初のエピソードのふたりはこの高校に戻ってきて教師になっている。
あの頃、寂しかったけど輝いていた。高校の時が1番楽しかった。だけど毎日辛かった。あれは何なんだろうか?
僕は高校が好きだったから大学を卒業したらすぐに高校に戻ってきた。それから39年間ずっと高校で働いていた。クラス担任が好きだったから望んで10回、担任をした。約30年、である。(転勤で2年までしか担任出来なかったことがあるから)担任以外は生徒会か図書館の仕事をした。好きなことしかしてない。(大嫌いな生活指導や進路は、転勤時に仕方ないから1年だけした)今もたまに(週に3日、ね)高校で授業をしているけど、もうあの頃の情熱はない。
この小説を読んでいて、まるで高校時代に戻ったような気分にさせられた。もちろん現役の高校生である。もう一度あの日に戻りたい、とは思わないけどあの日の先にはこんな今があるのかと、感慨深い。