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映画・演劇のレビュー

遠宮にけ『あなたを愛しているつもりで、私は――』

2021-11-17 17:27:28 | その他

発達障害の4歳児とその母親のお話。読みながらどうしてこんなにつらい話ばかり最近は読んだり見たりしているのかと、自分にあきれた。たまたまそうなっただけなのだけど、それにしてもしんどい。と、言いながら読む手が止まらない。途中さすがに2度休憩を入れたけど、一気に1日で読み終えてしまった。最後は少し甘いけど、でも、そこに至る過程は強烈で、どうなるのかと、ハラハラドキドキさせられた。

仕事を辞めるまでの部分もそうだけど、保育所でさらには幼稚園に移ってからの部分も先が読めないわけではないけど、確かにそういう展開になるだろうと、思いつつ、それとどう向き合うことになるのか、その先が気になるから途中で止まられない。こんなにも重くてつらくて長い小説なのに。

自分の興味を持つこと以外が見えなくなる少女は、周囲のことが一切気にならないで、突き進む。母親はそんな娘に手を焼く。最初は腹立ち、やがては恐怖。医者から発達障害の疑いがあると診断される。ショックと安心。そこから始まる物語はこれが小説ではなくドキュメンタリーのような生々しさだ。娘と向き合うはずなのに、どこかで娘から逃げている。なぜ、そうなるのかは、やがて明らかになる。

深町夕子の抱えるトラウマは母親の呪縛だ。それが娘である七緒への対応につながっていく。少しこのへんの展開が図式的でつまらないけど、わからないでもない。お話としては幼稚園をやめるところからラストまでが弱い。母親との対決が前面に出てくるからだ。娘と彼女のお話に絞った方がよかった。前半の七緒のとんでもないモンスターぶりを描く部分が強烈で、彼女に振り回され病んでいく夕子を描く展開部までは素晴らしい。

読んでいた時の印象は、発達障害を描くのではなく、発達障害を通して子育て、育児という一般論に切り込むという感じだった。ここに描かれていることは特別ではない。多かれ少なかれ、どこの家庭にもある問題だ。もちろん発達障害という問題を切り口にしただけではなく、正面からその問題と取り組んだ小説でもある。夫や保育所、幼稚園の人々、ママ友、妹一家、そして、両親。周囲とのかかわりを通して、このお話がどこに向かうのか。目が離せない。


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