こういう心温まるお話は枚挙に暇はない。でも、またか、と思いつつも、読み始めると止まらない。単純でわかりやすく、読みやすい。まるでどこにも引っかかることなく、すらすらと読めてしまう。4話からなる連作スタイルの長編だが、各エピソードに登場するゲスト(旅館のお客さん)が繰り広げる事件を通して、主人公である女性がここになじんでいく。
ありえないようなおんぼろ旅館。もともとは商人宿だった。温泉にあるのに、ここには温泉は引かれてない。旅館と言いながらも、旅館としての体は為してしてない。客間は4室しかないし、それだっていつもガラガラ。経営は成り立つわけもない。
彼女の父親は、ここの「女将」だった。だが、彼が死んでしまって、今は残された従業員がひとりで営業をしている。彼女は、父の死を知り、初めてここにやってきた。幼い頃、別れてから、一度も会ってない。手紙によるやり取りだけだった。だが、それも滞っていた。
ここに来て初めて、父の秘密を知る。彼の女装癖。というか、彼は、体は男だが、心は女だったということ。だから母親とも上手くいかなかった。自分を偽ってした結婚だ。破綻は目に見えていた。
主人公は、夫の裏切りを知り傷ついた心を抱えてここにきた。今ある現実から逃げたかった。ここに来て、これまでの自分を見つめ直し、これからの生き方を考えたかった。みんなそれぞれ痛みを持つ。そんな人たちがここに来て、元気を貰う。ここの「おかみさん」を慕って、やってくる。そんな父の話を聞き、彼女は父が生きた日々に想いを寄せる。
小説のタッチは、こんなお話の展開なのに、それに反して、決して「いかにも」の、パターンではない。どちらかというと、控えめだ。わけありの客が起こす騒動、という手垢のついたパターンなのに、である。主人公のドラマも同じように控えめ。ベタな話をそうは見せないことで、なぜかこれが落ち着いた作品に仕上がる。ちょっと不思議な印象だ。あり得ないようなただのコメディでしかない話を、こういうふうに見せるって面白い。
ありえないようなおんぼろ旅館。もともとは商人宿だった。温泉にあるのに、ここには温泉は引かれてない。旅館と言いながらも、旅館としての体は為してしてない。客間は4室しかないし、それだっていつもガラガラ。経営は成り立つわけもない。
彼女の父親は、ここの「女将」だった。だが、彼が死んでしまって、今は残された従業員がひとりで営業をしている。彼女は、父の死を知り、初めてここにやってきた。幼い頃、別れてから、一度も会ってない。手紙によるやり取りだけだった。だが、それも滞っていた。
ここに来て初めて、父の秘密を知る。彼の女装癖。というか、彼は、体は男だが、心は女だったということ。だから母親とも上手くいかなかった。自分を偽ってした結婚だ。破綻は目に見えていた。
主人公は、夫の裏切りを知り傷ついた心を抱えてここにきた。今ある現実から逃げたかった。ここに来て、これまでの自分を見つめ直し、これからの生き方を考えたかった。みんなそれぞれ痛みを持つ。そんな人たちがここに来て、元気を貰う。ここの「おかみさん」を慕って、やってくる。そんな父の話を聞き、彼女は父が生きた日々に想いを寄せる。
小説のタッチは、こんなお話の展開なのに、それに反して、決して「いかにも」の、パターンではない。どちらかというと、控えめだ。わけありの客が起こす騒動、という手垢のついたパターンなのに、である。主人公のドラマも同じように控えめ。ベタな話をそうは見せないことで、なぜかこれが落ち着いた作品に仕上がる。ちょっと不思議な印象だ。あり得ないようなただのコメディでしかない話を、こういうふうに見せるって面白い。