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映画・演劇のレビュー

マシュマロテント『みえない』

2024-10-27 21:18:00 | 演劇

武田操美、第30回「OMS戯曲賞大賞」受賞作品の凱旋公演。彼女はこんなにも怖い話をこんなにも厳しく、そして優しいタッチで語る。しかも、たくさんの笑いに包み込んで。

記憶を失くすくらいに怖い体験をした。親友を無くした七美(小石久美子)は夢の中で一子(武田操美)に逢う。1年間誰とも接することなく、過ごした。宇宙飛行士の訓練として。そんな夢を見ることから始まるこれはふたりの友情物語。どこまでが本気でどこからが冗談なのか、それがわからないところでテンポよくお話は展開していくのは武田さんの独壇場である。今回も快調にお話が進んでいく。仲良しふたり組、七美と一子の友情物語は妹夫婦を巻き込んで描かれる。

そんなお話の最中、いきなり暗闇になる恐怖がまさかの体験型アトラクションとして描かれる。暗闇の瞬間を観客席を巻き込んで見せる。アイホールの広い舞台を2度にわたって闇に包み込んでしまう観客席を覆う巨大な暗幕には驚かされる。

原因がわからないまま生じた暗闇。一子は福引きで当たった旅行先で町からすべての明かりが(電気が)消えて真っ暗になるというその異常事態に遭遇した。その暗闇の中で何が起きたか。見えないから詳細はわからないが暴動や殺人もあったらしい。

笑いの中に不気味な「何か」が入り込み、まさかのふたりの決別が描かれていく。この辺のさりげない怖さが素晴らしい。ヘンゼルとグレーテルが森の中を彷徨いお菓子の家に辿り着かない、という話や、さまざまな夢の話が次から次に登場する。そしてお話は事件の核心へと収斂していく。木こりに導かれ、木こりを惨殺するラストまで一気だ。七美の悔恨。一子の怒り。暴力が炸裂するクライマックスには震える。

前作『蛇含草ホテル』は今年一番の傑作だったが、その前作になるこの作品もまた武田さんらしい傑作である。初演は廃墟のビル内で上演されたらしい。そこではより先鋭化された恐怖が描かれたことだろう。だが、今回は先にも書いたが、柔らかい優しさで包み込んで描いた。曖昧な温もりが全体を包む。その微妙なバランスが心地よい悪夢に似つかわしい。一子と七美はこれが夢だとわかった夢の中で最高のバカンスを楽しむ。だけどこれはただの夢でしかない。現実は恐ろしい悪夢なのだから。


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