今回もとても胸に痛い話ばかりで、息苦しい。ここにいる人たちはみんなギリギリで生きている。高校生だけではなく、大人もいる。みんな同じだ。どこにいても、何をしていても、幸福なことばかりではない。どこかに幸せな場所があって、そこで何不自由なく暮らしている、わけではない。どこにいても、誰といても、不安と孤独はすぐそこにあるから、それに気付かないふりして、やりすごすだけ。
6つのお話はそれぞれそんな傷みを包み込んで生きている少年少女たちの痛ましい物語。別々の3人✕6。3人の高校生たちの友情物語からスタートする。いじめられっ子2人と、イジメをエスカレートさせるひとり。彼女に棄てられてしまってひとりぼっちになって引きこもりになった男の狂気。自分を棄てて、相手に合わせて死んだように生きている女が出逢う男。ほんのちょっと幸せになるエピソードもあるけれど、それがずっと続くとは思わない。この瞬間にも、すぐそこまで、不安と孤独はやってきている。そんななかでの一瞬でしかない。だからといって、もう何も信じられないと、逃げてしまうことは出来ない。表面的には幸せな顔をしている方がいい。でなくては、100パーセント鬱になってしまう。
ここにある微妙な相手との距離感がなんだか、ここちよい。近すぎず、ちょっと遠いくらいのところで、立ち止まったまま向き合っている。相手がいなくても困るわけではないけど、いなかったなら、きっともっと寂しい。神楽坂にある象公園と、その近所のおしゃれな青木神社。そこが舞台となるわけではないけど、だけど、そこを彼らは通り過ぎていく、あるいは、そこで立ち止まる。その何人かはとても危ない状態にある。そうじゃなくても、いつ危険な状態になってもおかしくない。あやうい。
今年一番の傑作長編『悲しい話は終わりにしよう』の後、小嶋陽太郎はこの短編連作を上梓した。もしかしたら、これはあれ以上の傑作かもしれない。このあやうさは凄い。特にタイトルにもなっている最後の作品は強烈だ。このちょった突き放したようなタイトルもいい。人形とおしゃべりする男子高校生と、彼に心惹かれるクラスメート(男子)の話。(ここにも女の子は出てくるから、3人の話になる)ちょっと話に仕掛けがあるけど、この6つのエピソードの総括とも言えるものになっている。他者に頼らないし、寄せ付けないけど、ひとりで生きていけるわけではない。この広い世界のかたすみで、(特に東京というまちはそう)ひとりで立っていると泣きたくなる。そんな気分がこの短編集には溢れている。もう僕は、いっぱいいっぱいだ。