意外だった。もっと甘美な映画だと思っていた。ホウ・シャオシェンの『冬冬の夏休み』みたいな。ノスタルジックでほろ苦く、でも幾分感傷的で甘い映画ではないかと勝手に期待していたので、そのクールな視線に戸惑う。まるでドキュメンタリーのようにある家族の夏の日々をステッチしていく。どこかにフォーカスして(きっと主人公の少女に)そこから夏の日々を描いていくだろうという予測は外れて、映画は彼ら家族の営みを、感情移入することもなく、冷静に見つめていく。
中学生の女の子の視点から描く夏の日の物語だと思っていたので、最初はかなり動揺する。一応彼女の視点だと言えばそうではあるけど、映画は彼女に寄り添わない。彼女には見えないものは見えないから、説明不足なのだが、そこがこの映画の魅力でもある。わからない部分はそのまま、進んでいく。しかも、彼女の内面や心情はその無表情と同じで直接描かれることはない。
一人暮らしで介護が必要だった祖父のもとに引っ越し、そこで暮らしていくことになる夏。父の事業の失敗で家を出なくてはならなくなったようだ。母親は何らかの事情で家を出た。その原因は描かれない。今まであまり行き来のなかった祖父の家で暮らすことへの戸惑いもある。やがて、叔母もやってきて一緒に暮らすことになる。
穏やかな日々が過ぎていく。だが、いきなり祖父が倒れる。そのまま死んでいくという終盤の展開はある種の定番なのかも知れないけど、それが彼ら家族にどんな影響を及ぼすか、先のことも描かない。夏が終わっていくことへの想いも描かない。感傷的にはならない。ただ、この夏の出来事を客観的に見せていっただけ。だから少し取っつきにくい。だけど、それぞれが(父、弟、叔母、そして祖父、さらにはラストで一瞬登場する母、)この夏時間を通して新たな局面へと歩み出す。
この冷静な視点が彼女とその家族(三世代にわたる)の夏を見事に切りとる。感傷的なドラマは一切排してただここに描かれる事実だけをみつめていくまだ若い女性監督であるユン・ダンヒの視点は最初から最後までぶれない。凄い。好きな映画か、と言われると実はちょっと違うけど、こういう映画も確かにありだなと思う。