これは短編連作なのだが、微妙なところで各作品がつながっているという作りだ。それはまぁ、よくあるパターンなのだが、さらには途中で2度、ラジオのDJによる番組のエピソードが描かれ、その中でそれまでのそれぞれのお話の主役がゲストとして登場したり、あるいはリスナーとして投稿してきて近況を報告するという凝った作りになっている。
この世界の片隅で「誰か」が「誰か」と「どこか」でつながっている、かもしれない。友人や家族同士がロンド形式でお話をつないでいくというパターンもよくあるけど、これはもう少し緩いつながりだ。それぞれはそれだけでとてもよく出来た独立した短編として楽しめるけど、かすかにつながっている(というより、かなり意識的なのだけど)のを感じるくらいで読み進めるほうがいいみたい。
とても寂しくて暖かい。誰もがこんなふうにして生きているのだ、と思わされる。生きていればいろんなことがある。反対に毎日同じことの繰り返しで自分には何もない、と思うことも。でも、そんな毎日に流されて生きていく。そのうちあまり何も感じなくなることも。日常のたわいないお話(生活のスケッチ)なのだが、どのお話もそれぞれ心あたりのあることばかりで、自分のことのように受け止められる。読みながら、こんなことがいつの日かあったような気がするのだ。
名曲喫茶ヘブンのエピソードがすごくいい。妻とよく似た美しい人女性を目撃する話だ。(『美しい人』)後の他のエピソードで明かされるオチにもはっとさせられるけど、あれはあの作品単体で充分だ。