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映画・演劇のレビュー

原田マハ『楽園のカンヴァス』

2012-09-17 21:03:03 | その他
 これは凄い。ルソ-の『夢』(あるいはその贋作かもしれない『夢をみた』)に導かれて、絵画の迷路に嵌まり込む。1枚の画を中心に据えて絵画の魅力を堪能させるミステリーでありサスペンスでもある。

 だが何よりも凄いのは、これが相変わらず、何かに夢中になることの意味を問う話だからだ。『踊る』の青島は警察が大好きで、『天地明察』の安井算哲は星と、数学とが大好き。(ついでに囲碁も!)そしてこの小説のルソーは絵を描くこと。さらにはこの小説の主人公たちであるチィムと織絵はルソーの絵画に魅せられている。ルソーの研究者としてより、まず、その絵画と向き合うことで至福の時間を過ごせることができる。それが彼らだ。

 何かに情熱を傾けるというのは、映画や小説のテーマとしては定石だが、それをとことん極めるドラマはそれだけで感動的になる。

 ピカソの絵の上に自分の絵を描くこと。ルソーに課されたその使命は、今の僕たちの感覚と相俟って、すさまじい。たとえそれが名もない誰かが描いた絵でもルソーは躊躇する。(そのとき彼はそれがピカソの作品であることを知らない)だが、ピカソは言う。『他人の絵なんざ、蹴散らすためにあるのさ。既成の価値観なんて、くそくらえだ』

 永遠を生きる、というテーマの意味がどんどん浮上してくる終盤の展開は息を呑む。残された小説と、絵画。それを巡る鑑定。7日間のラストに向かって怒濤の展開をみせる。大切なものは何なのかを教えてくれる。地位や名誉ではない。思う存分に好きなことができること。ただそれだけだ。


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