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映画・演劇のレビュー

レトルト内閣『グリム2008』

2008-08-25 21:01:07 | 演劇
 ねらいは悪くないし、作品自体のルックスはとてもいい。全編を彩る生バンドによる歌と演奏。派手なダンスシーンを織り込んで見せていくというスタイルも興味深い。クラブのフロアを舞台に踊り狂う男女の姿を背景にして展開していくドラマはグリムの童話をもとにしたもの、というのもいい。企画意図そのままの舞台が目の前に展開していく。とても刺激的なステージだ、と言ってもあながち間違いとは言えまい。だが、なんか、違う。

 ここには本来一番大切なものであるはずの、怖さ、がない。グリムを題材にしてそこにある恐怖を現代の若者の生態を通して、今という時代の混沌として描こうとしたのではなかったのか。なのに、まるで、それが見えてこない。作、演出を担当した(音楽もである)三名刺繍さんが、クラブに集まる若者たちの姿を通して見せたかったものって、何なのか。クラブフロアを森になぞらえていくという発想はおもしろいと思ったが、その先がない。

 赤ずきんと白雪姫という2人のキャラクターを両極に配して、その中を2人の男女が、さまよう。迷路のような世界の中で、彼らは何を見ることになるのか。そんな彼らの物語が、もう少しきちんと芝居として組み立てられたなら、これは凄い作品になったかもしれない。

 だが、目先の視覚的な仕掛けに気をとられて、肝心のお話のほうはおざなりになっている。トイレでの強姦シーンにしても、それが衝撃的とは思えない。数々の奇抜なシーンの中に埋もれてしまうからだ。それって、まずくないか。天井からワイアーを使って人が降りてくる場面も、何度もするからまたかいな、なんて思う。なんだかもったいない。それより、なにより一番大事な場面を流してしまうなんて、おかしい。

 シーンシーンのインパクトが単調な構成によって、殺がれてしまっているのだ。作者が作品に込めた様々な問題が消化不良のまま、垂れ流されていく。結局この世界を通して何が描きたかったのか、それがまるで見えないまま舞台は幕を閉じてしまう。非常に残念だ。

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