
この小さな本の小さなお話が心に沁みる。立春から始まり大寒まで。新幹線の車内で読み始めた。24のお話(24節気)のひとつひとつを噛み締めながら読み進めると気がつけば1年が過ぎているのだろう。
現実と幻想のあわいをたゆたう。最初の2篇が好き。動物園好きのふたり。往復書簡を思わせるメールのやり取り。買って10年過ぎたマンション。たぶんパッキンが悪くなり水がポタポタ落ちる水道。この『立春』、『雨水』から始まり、タイトルにもなっている『大雪ー冬眠族の棲む穴』を経て大寒まで。四季を彩るさまざまな短編に小編。現実ではなく幻想でもない。6.7ページから10数ページまでのお話。
穴に落ちたDはこの巣穴のような場所で冬眠する人たちと過ごす。目覚めたなら、またいつもの日常に戻ることだろう。それまでしばらく冬籠り。
これを一気に読むのは惜しいな、と思ったから、ゆっくり休み休み読む。短い旅のお供に持って来た。ちょうど今、秋まで。箱根のホテルの朝、まだ、陽は登らない。