久しぶりに映画館で映画を見た。と、いっても1週間ぶりだ。ぜんぜん久しぶりではない。でも、ネットフリックスで散々映画を見ているから、映画館は久しぶりだという気分にさせられる。ネットフリックスで膨大な映画(ドラマやアニメはさらに凄い量だ)を見ていると、見た鼻から忘れていく。タイトルを記録しておかないと、何を見たかもすぐ定かではなくなる。映画はここでは消費されるだけ。たいへんな想いをして作られたはずの作品は膨大なリストの中で埋もれてしまうし、見ても記憶に残らない。なんだかバカバカしい。でも、ちゃんと1本1本を大事にしたらいいのだ、と思うけど、それが難しいし、できない。
安易に見た映画は安易に忘れる。それでは見た意味もないし、作った人に済まない。膨大なリストから何も考えずにワンクリックで映画は始まる。2時間ベッドで寝転びながらぼんやりと見た映画は、それほど熱心に見ていないから、しかも、必死になってみようとしてないし、だから意味をなさない。
けっこう凄い映画も見ているのに、瞬間で忘れる。ビー・ガンの『凱里ブルース』なんて2回見た。1回目は途中で寝てしまった。巻き戻して(そういう言い方でいいのか?)見たけど、ピンと来なくて、2回目はちゃんと見たけど、2度目はスマホで見たから、映画ではない。『ロングデイズ・ジャーニー』を見た時も思ったのだが、NHKの『世界街歩き』見たいなもので、これは映画ではないかも。
アラン・ヤン監督作品『タイガー・テール』は素晴らしかった。2020年の作品だ。台湾からの移民夫婦のお話で、過去と現在が交錯し、彼らの人生が描かれていく。父親と娘の話だ。台湾に残してきた母親の死、リタイアして仕事を辞めたこれからの人生。娘との確執。91分の短い映画だけど、60数年の人生がぎっしりと詰まっている。
劇場公開中のアーロン・ソ-キン監督作品『シカゴ7裁判』も見た。実に刺激的で面白い映画だった。台湾の最新作映画『ハクション!』や、アメリカのアクション映画『オールドガード』、ジェレミー・クレパン監督のアニメ『失くした体』コーエン兄弟の西部劇『バスターのバラード』やロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダの老人映画『夜が明けるまで』、チャーリー・カウフマン監督最新作『もう終わりにしよう。』等々。
お宝映画の宝庫だ。そういうのを浴びるように見ていると、わざわざ高いお金と時間を捻出して映画館まで行くのがバカらしくなる、と書こうと思ったけど、書かない。これだけのラインナップが用意されていても、それには意味はない。ネットフリックスのオリジナル映画は、劇場より充実しているけど、しかも、自由にいくらでも見れるけど、だからどうした、と思う。
映画はやはり大変な思いをしてでも映画館に行くべきだ。ということで、ようやく『スパイの妻』の話だ。
期待の黒沢清の新作で、ベネチア映画祭で、銀獅子賞を獲った作品だけど、なんか乗れなかった。何がしたかったのかがよくわからない。