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映画・演劇のレビュー

キノG-7『今は昔、栄養映画館』『眠レ、巴里』

2019-10-17 18:22:39 | 演劇

中編作品の2本立て。竹内銃一郎が自らの代表作をセレクトして放つ贅沢なプログラム。しかも『今は昔、栄養映画館』は自らが主演した。松本修との2人芝居だ。ファン垂涎の一作だろう。チラシにあるが「あと3年、あと5本」を旗印にして、これから竹内氏の最後の戦いが始まる。

これに先駆け2017年から18年にかけてリーディングによる公演「竹内銃一郎集成」が連続上演されたが、そこからは竹内さんが自らの演劇人生の幕引きを楽しんでおられるさまが確かに伝わってきて、なんだか微笑ましい。

「好き」で始めたわけではない、と自ら公言されているけれど、芝居を思いきり楽しんでおられる。自分の芝居で遊んでいる。当然そこには悲壮感なんてない。フットワークは軽やかだ。老人2人がウイングの決して広くはない舞台の上で思い切り自由自在に駆け抜ける。ここには小難しいことは一切いらない。このテキストを知り尽くした作者が、それを使い遊ぶ、もちろん作品自体が遊びだ、なんていうつもりはない。誰もが知っているようにこれは彼の代表作のひとつで、とても面白い作品だし、75分の芝居は完成度が高い。

だけど、この芝居はまず、とても軽やかなのだ。それが一番大事なポイントだ。無理なく演じ、無理なく作品を提示する。観客を待ちながら、ふたりの男が自分たちの映画を語る。自称映画監督とその助監督ということだが、果たして彼らはほんとうに新作映画を作ったのか。もちろん、そんなことはどうでもいい。何かをやり遂げた後、それを誰かに伝えたいと思う。作品は観客がいなければ完成しない。待つという行為を通して、そこからは作り手の熱い想いが伝わる。とても気持ちのいい芝居を観たというささやかな感動がそこにはあった。

10分の休憩をはさんで『眠レ、巴里』が始まる。冗談で「こちらがメインで自分たちの芝居は前座です。」なんてことを前説で竹内さんが話しておられたけど、50分ほどの作品だけど、この芝居の緊張感は半端ではない。こちらは若い2人の女性(平山ゆず子、若尾保賛奈)が、生と死のはざまをかいま見せる。だが、ここでも竹内さんの演出は軽やかだ。この悲惨なお話を重いものにはしない。パリにやってきた姉妹が夢の都で、そこ(エッフェル塔が見えるホテルの一室)から出られないまま朽ちていく。夢は夢のまま。現実が押し寄せてくる。そんな瞬間を鮮やかに切り取る。

2時間半の至福の瞬間だった。次回も楽しみだ。これから3年間楽しませてくれるはず。竹内さんのゴールを見届けたい。


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