畑野智美がなんとSFに挑戦した。でも、こんなのSFじゃない、と言われそうな程に、緩い。でも、このゆるさがたまらなく好き。いろんなSFがあっていいじゃん、と思う。彼女がやると、こうなるのだ。それだけのこと。7つの短編のなかで描かれるSF的設定はあまりにも無邪気で笑ってしまう。タイムマシーンとか、惚れ薬とか、友情バッチとか、こんなの「ドラえもん」レベルの設定。しかも、それを科学的に説明するわけないし。ただ、そういうのがあるんだよね、というレベル。だって数十年前には、この世界に携帯電話なんてなかったわけだし、そんなものが実現するなんてありえない、って感じ。その次元でタイムマシーンとか、出てくるのだ。
だから、これは彼女にとっては、ふつうに日常のお話。ちょっと近未来ですが、って感じ。そういうユルさがこの作品集の身上なのだ。いずれのお話も大したことは描かれてない。タイムマシーンに乗って、好きな男の子の最初の彼女(自分は2番目!)になる、だなんてバカバカしい。でも、結構本気。でも、だめだよ、と言われるとちゃんと納得するのだ。そこまで素直なら最初からそんなことするな、って感じ。
それぞれのお話は微妙にリンクするのだが、それもただのいたずらレベル。なんとなく絡ませてみました、って感じ。そこには意図的な何かはない。そんなこんなも含めて、「ゆるい」というのだ。
でも、それでいい。軽い読み物なのだが、そこにあるリアリティが心地よい。たわいないお話をちゃんと見せるって、実は難しいのだ。この作品はそんなたわいなさのなかにある真実をちゃんと描いてくれている。だからこれはこれでなかなかに見事なのだ。