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映画・演劇のレビュー

『彷徨い』

2023-02-23 17:16:05 | 映画

これもNetflixの新作映画だ。慎重に選んで見ているが、はずれも多い。まるで情報がない状態で簡単な解説と1枚の写真(予告編)くらいを手掛かりにして見るからだ。しかも目次もない膨大な作品の中から探すのは困難(不可能)だから、どうしてもリスト画面に出てくる映画から優先して選ぶしかない。

『ゲットアウト』を思わせるホラータッチの映画だ。特別なことは何も起きてないのに、嫌な予感がする。それは冒頭からそうだ。スクリーンサイズが小さい。女が電話している。怒鳴り散らす。自分の処遇が納得いかない。イライラしている。時代は2003年だということがわかる。TVや携帯があの頃のものだ。電話が鳴る。携帯に次には家電に。でも彼女は出ない。そして、部屋を出ていく。ここでスクリーンが広がる。メインタイトル。ドキドキするスタートだ。原題は『The Strays』。だからそのままなのだけど、でもこの日本語タイトルは大胆だ。

本編が始まる。あれから20年近くが経っているようだ。彼女の雰囲気が変わっている。歳月だけではなく、明らかに洗練されているからだ。成功してセレブになっている。私立高校の副校長をしている。夫は不動産屋で立派な豪邸に住む。ふたりの子供がいる。彼女は黒人なのに、黒人を嫌う。映画はそんな彼女の日々の生活を追う。

半分まで見てもこの映画が何をしようとしているのかなかなか明確にはならない。ただただ不穏な空気が充満するばかり。ある兄妹の登場から第2章が始まり、彼らの目で今までのできごとが繰り返されるのだが、それでもこのふたりの内面は吐露されないから映画はどこに向かうのかはわからない。だが確実にカタストロフィーに続くことだけはわかる。

終盤の展開が凄まじい。書かないけど、これはある種のパターンなのに,その定型には収まらない。この異常な話が冷静に綴られていく。どこにたどりつくか、想像もできない。過去を捨ててきた女が過去から復讐される話なんていうまとめ方には到底収まり切れない。それにしても唖然とするラストだ。いくらなんでもそれはないだろ、と思う。騙された気にすらなる。でも、騙すにしても騙し方がある。あれはありえない。

これは先日見た『オールドピープル』同様、ねらいは凄いが展開に難があり、最終的にとんでもない映画になる、というパターンだ。今までならこういうような映画は公開されなかったし、作られなかったのかもしれない。配信のおかげで柔軟な多様性を持つ企画が映画の世界でもまかり通るようになってきた。だが、(残念ながら)そこから思いもしない傑作が(なかなか)生まれてはこないけど。(いや、もしかしたら、僕が知らないだけかも)惜しい映画だ。


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