最近中山美穂はいろんなドラマや映画に脇役で出ているけど、なんだか納得がいかない。永遠のヒロインである彼女が歳を取って「おばさん」の役を演じるなんてなんだか嫌だ。彼女にはずっと綺麗でいてもらいたい。それが無理なら原節子のように引退して欲しい。せめて『Love Leter』のままでいて欲しいと願ったのは、松尾スズキも同じなのではないか。
竹中直人の『東京日和』から12年。本作のヒロインとして彼女が戻ってくる。ここで彼女は、結婚を機に女優を引退して主婦になった女性の7年後を演じる。だが、自らおばさんと言い、つまらない女になってしまった自分に対して自信をなくしている。そんな女性を演じさせる松尾スズキはサドだ。
だけど、この作品は久々に彼女をちゃんと綺麗に撮ろうとした映画で、そういう意味ではうれしい。まだまだ綺麗で素敵な女性のはずなのに、夫に顧みられず、たまたま見たコンテンポラリーダンサーに嵌まり家出する。彼女を追い詰めたものは何なのか。映画は不在の彼女を巡る夫(もちろん、松尾スズキだ!)の妄想が描かれていく。
そのバカバカしい妄想は際限なくエスカレートしていき、見ていて耐えがたい。だから、映画の後半は気分が悪い。せめて、これをこんなにも生々しく描くのではなく、もう少し幻想的に描いてくれたならいいのだが、松尾スズキだから、無理。 個人的にはアラン・レネとかアントニオーニのようなタッチでこのお話を見せて欲しいのだが、それでは別の映画になるから、せめてブニュエルくらいの妄想で笑わせながら、怖がらせて欲しかった。ラストの女島への旅を、島までは見せなかったのはいいけど。
1ヶ月で108人の女と寝ることで、妻への復讐をする、というバカバカしい妄想に取り憑かれそれを実行する、というお話の悲しさを前面に押し出したならこれは切ないラブストーリーにもなったはず。2人が海辺を歩くシーン、プロポーズする場面だ。あのシーンをクライマックスにして、彼の彼女への純粋な想いがどこに行ったかをたどる物語として全体を構成して欲しかった。残念だ。もちろん、これは僕の妄想を描く映画ではなく、あくまでも松尾スズキの妄想で、それについていけなかった僕が悪いのだけど。