認知症を扱いながらとても前向きな姿勢を貫く映画。でも、現実はとても厳しく、重くて暗い映画になりそうな題材だが、そうはさせない。でも、それをファンタジーして描くわけでもない。現実を踏まえてその中で、どう忘却と向き合ていくのかがちゃんと描かれる。そこがいい。
記憶を失っていく父親(山崎努)の内面には踏み込まない。介護にあたる妻(松原智恵子)にもシフトしない。では、どこに? というと、視点は2人の娘たち(蒼井優、竹内結子)の方なのだ。
この映画は老いと病に対して、今を生きる30代の娘たちが、どう向き合うのか、が描かれる。父の認知症とどう接していくのかを、自分たちの今の生活を追いかけながら描くことを旨とする。そんなスタンスが興味深い。
今の自分は、仕事と介護に明け暮れる日々だ。そんな自分に疲れているから、本当なら「せっかくできた貴重な時間をこんな現実と同じようなことを描く映画を見ることで使いたくない、というところだろう。それでパスするのは容易いところだけど、これが今一番気になる映画であることも事実で、結局、まず見てしまった。
で、見てよかった、と思った。その理由は、この映画のふたりの娘たちが(そして、父と母も)しっかり自分を生きている、そんな姿がさらりと描かれているというところにある。簡単じゃないことはわかっているからこそ、それでもちゃんと向き合い一緒に過ごし幸せそうに誕生日を祝う。そんな家族の時間を大切に過ごしている姿が感動的なのだ。
発病からの7年間の日々が愛おしい。自分の問題を抱えながら、でも、父の問題が重くのしかかり、でも、それにつぶされることなく、最後までの時間を過ごす。普通の映画なら、うんこを拭くところなんて、スルーするだろう。でもこの映画はそこもちゃんと見せる。ありのままを大事にしてる。だから信じられる。